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左手はそえるだけ…… - 映画スラムダンク「THE FIRST SLAM DUNK」

※やや辛口注意

映画スラムダンク(THE FIRST SLAM DUNK)(以下スラダン)を観ました。
あまりチェックしてなかったのですが、
元職場の同僚(オタク友達)に絶賛されて、
岡田斗司夫も「アバター2見るならスラダン見れ」みたいなこと言ってたって聞いて、
気になったんですよね。

まずバスケのシーンはめちゃくちゃよくできていた。
動きといい、アングルといい、演出といい、サウンド(特にボールの跳ねる音やシューズのキュッという音!)といい、もう満点に近い。

「あー、山王戦を動きで見るとこうなるのか」
と頷く感じ。

声優も良かったです。みんなシブくて。

例外は河田(丸ゴリ)。あーもったいない!
あれだけなんか軽い(若い)声だったのが残念。
ゴリと同じかそれ以上に貫録を出して欲しかった(とはいえネットでは「唯一河田の声が良かった」という人もいるから面白い)。

あとオープニングがカッコ良かったね。
鉛筆描きの演出は、もう井上雄彦の十八番でしょう。

……で、こっからは辛口ですので、ご注意ください。

いやね?
私はスラダンはドラゴンボールと並んで、
リアルタイムで読んでた世代で、
コミックスは何十回読んだかしれません。
それだけスラダン愛があるからこその辛口であることをご了承ください。

まずリョータが主人公っての、どうなんでしょうね。

いやリョータは確かに魅力的なキャラだと思うし、
作者はリョータ大好きだと思いますよ?
原作読んでても、リョータの顔が目立つシーンがたくさんあるし(「ワルモノ見参!」や「1点差!」や「こいや山王!」のシーン)。
多分、今回の映画をきっかけにして、
リョータというキャラを掘り下げたかったんでしょうね。

でもなんかね、
やっぱりスラダンは桜木が主人公なんですよ。
こと山王戦に至っては、
1巻からずーっとライバルだった流川と最後の最後にパスを出し合うというのが一つのポイントなんです。
リョータを主人公にしてしまうと、脇役(桜木)が最後のシュートで試合を決めて、さらに別の脇役(流川)とタッチするというように、構造が歪んでしまう。
リョータ目線で桜木を脇役として見ると、ただのイタい不良に見えてしまいますね。
ラストも、5人が抱き合うけどリョータだけが上を見ているシーンを見て、「うわぁ……」って思っちゃいました。

スラダンの対山王戦というのは、
バスケマンガのみならず、
広くスポーツマンガに範囲を広げても、
ベストバウトランキングの上位に確実に食い込んでくると思うんですよ。
でもそれは、それまでの30巻の重みがあってからこそなんですよね。

山王戦だけ切り取ってもダメなんです。
例えば、
なんでゴリが立ち直ったか。
なんで流川がパスを出したのか。
なんで桜木は最後「左手はそえるだけ」と言ったのか(これに至っては口パクにされていた!!)
その辺りが30巻かけて、
長い長い伏線を張って来たんですよね。
なんで三井がスタミナ無いのかとかもね。
でも結局その辺りの描写がない(もしくは軽く流されてる)ので、
本作では試合の深みというか重みがないんです。

原因の一つは、
初見の人でも楽しめるようにしたからなんでしょうね。
だから、それまでの30巻分の伏線を回収したシーンを出そうとしても、なんじゃこりゃになってしまう。だから描けない。

でも、じゃあこの映画、初見の人でも理解できたかというと、全然分かんなかったと思うんですよ。
リョータ以外のキャラクタの説明も一切無いし。

これインターハイの二回戦なんですけど、その説明も全然無かったですもん。
もしかして練習試合とか親善試合とか(あるいはインターハイ決勝とか)勘違いする人もいるんじゃないだろうか?

つまりこの映画が対象としている観客のイメージが見えないんですね。
原作を読み込んでいたガチ勢向けか、
全くスラダンを知らない初見の人向けか。
どっちつかずの中途半端な形になってしまった。

私が思うのはですね。
これだけ初見殺しの要素を入れてしまってるのであれば、
もういっそ突き抜けてしまって、
ガチ勢専用にしたら良かったと思うんですよ。
つまり、桜木を主人公にして、
試合途中で、かつらむきをする魚住も、「あの天上天下唯我独尊男の流川がパスを!」と言った清田も、回想シーンでの仙道(これ出たら盛り上がったろうなあ)も出せば良い。

あと、安西監督の、
「聞こえんのか?あ?」と、
一瞬デビルになるシーンも出す。

背中痛めた時の桜木のフラッシュバックも全て再現する。
ハルコさんへ「大好きです」と告白する部分も出す。

途中途中で挟まれるリョータの人間ドラマなんていらない(回想が出るたびに映画の勢いが止まってガックリきた)。

尺が余るんであれば、試合前日から描けばいいんです。
そこで河田にプロレス技をかけられて泣く沢北も描く(これは原作でめちゃくちゃ重要なシーン。これで敵にも個性が出てくる)。

とにかく、初見者そっちのけで、ガチ勢向けに作るんです。
そうしたら、もっと盛り上がったんじゃないでしょうか。

……あー、でも、そうしたら、客入らないのかなー。どうなんだろ?

まあ、でも、ラスト1分の演出は良かったかな。
無音のシーンはうまいこと再現できてたと思います。

迫力ありましたなあ。

幸運にも、私が映画館で観た時は、
結構客が入っていたにも関わらず、
あの無音のシーンで、
誰一人声を立てず、物音も立てず、
本当にシーーーンとしてたので、
いつもは「うるさいなあ」と感じる私の方が息がつまりそうになって緊張してしまいました。
それだけ無音のシーンは没入感半端なくて堪能できたので、
非常に満足です。

まぁ最後の沢北とリョータが対決する部分はお遊びという事でいいんですが、
桜木が主役じゃないんで、結局背中はどうなったのか?とか宙ぶらりんですよね。

これ今後どうするんでしょうね。
FIRSTということはSECONDもあるんでしょうか。
オリジナルで続編を作るのならちょっと気になりますが、
その時は桜木を主人公に戻して欲しいなー。

(追記)
あ、本映画を見て、スラダンをもう一回最初から読み直そうと思ったのは確かですが、
あれはもう何十回も読んだので、
その前に途中で止まってるリアルの続きを読みたくなりましたなー。

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