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自作の怪談は果たしてホラーになっているのか【エッセイ】

 noteに「#眠れない夜にというタグがあり、小説を募集しているという。

 昔から、怖い話は好きである。火車の書評記事のところでも書いたが、私は妖怪に心惹かれる子供だった。小学生のときに妖怪図鑑を数冊買ってもらい、それを熟読したり、模写をしたりして楽しんでいた。今思うと地味な小学生だった。

 妖怪という存在はユニークである。人命を奪う怖い妖怪もいるが、ちょっとした悪戯を仕掛けるだけの妖怪もいて、愛らしさがある。現代において妖怪とは、珍しい自然現象のことだったり、原因が解明されている病のことだったり、あるいは、心理学や物理学で説明のできる人間の錯覚だったり、そういった誤認識から起きる事柄に変わってしまった。残念だとは思わない。逆に言えば、ちょっとした物語を付与するだけで、あのような豊かな存在が、人間の中に創り出されるということなのだから。

 すべてをわかったうえで、普段の生活に妖怪を取り入れている人がいたら魅力的だろう。リビングで談笑していて、突然、表の方でどすんと何かが落ちてきたような大きな音と揺れを感じたとする。何だろう、と思って外の様子を見てくるが、特に異常はない。そんなとき、

「凄い音がしたね。つるべおとしだったのかな?」

 こういう素敵な台詞をさらりと言える人に出会ったら、私は心の中で賞賛を惜しまないだろう。

 前日に使った天ぷら油を処分しようとしたら、昨夜よりもあきらかに油の量が減っていたとする。

「おかしいな。油赤子の仕業か。でも逆に助かるよ、舐めてくれて」

 そんな洒落た台詞を、普段から自分も言えたらいいなと思う。

 その昔、埼玉の南越谷の理容店に通っていたとき、女性の理容師さんが肘に切り傷をつくっていて、「気付いたら切れていたんです。鎌鼬(かまいたち)ですかね?」とにこやかに話していた。こんな風に、かまいたちを口にする人は意外と多いかも知れない。紛れもなく現代にも妖怪が存在することの、証左であろう。

 いつだったか、激しい雨の降る夜に外を歩いていて、私は妖怪すねこすりを体験した。すねこすりは犬に似た姿をしていて、歩いている人の足にまとわりついたり、足の間をすり抜けたりする妖怪である。たしかに、雨でスニーカーもジーパンもぐっしょりと濡れて、足が重くなっていた。歩くたびにジーパンの裾同士がぶつかり、こすれ合っていたかも知れない。その感触を、私が勘違いした可能性はある。しかし、本来すねこすりとは、そういう妖怪なのではないだろうか。つくづく暗くて姿が確認できなかったことが残念でならない。


◇◇


 1998年にメディアファクトリーから「現代百物語『新耳袋』 第一夜」という怪談を集めた本が刊行された。百物語の百話目で怪異が起こることを危惧し、敢えて九十九話の怪談しか収録しないという趣向が私の目を惹いた。一話一話が短く、著者が人から聞いた実話ばかりというのも買い求める動機になった。

 この本は人気があったのだろう、第二夜、第三夜、と発売され、2005年の第十夜まで続くシリーズとなった。実家の本棚に第十夜があったので私は全巻持っている気がする。狐狸妖怪が出てくる話があって、好んで読んだことを覚えているが、中身はほとんど忘れている。

 妖怪の話ではないが、このシリーズで印象深かった怪談がある。どの巻に収録されているかすぐには確認できないのだが、アパートの隣の部屋に人が住んでいるはずなのに生活音がまるで聞こえなくて不思議に思っていたら、ある日、その部屋から素肌が見えないようにマフラーとマスクで顔を隠した娘とその母親らしき二人が出てきて、廊下ですれ違ったとき、ちらりと娘の洋服の袖から覗いた手首を見たら、ビスがびっしりと打たれた薄い金属の板だったというお話(うろ覚え)。あと、これは私も体験したことがあるのだが、空中を虫が飛んでいて、それをパンと叩いたら、潰れた虫から赤色や緑色の細いビニール線や精細な機械が粉々に壊れたように出てきたという話(これもうろ覚え)。小さい甲虫を潰したとき、そんな風に見えたことがあったが、私たちは知らないうちに高度な技術を持つ何者かに偵察され、監視されているのかも知れない! と思えば、ゾッとするような怖さがこの話から生まれてくる。

 実のところ、『新耳袋』でもっとも怖いと思ったのは、第四夜に収録されている「山の牧場」の話だ。実際、評判も高いらしい。これは読んでいて寒気を感じるほどゾクゾクした。内容もさることながら、怖い怪談のテクニックというものがふんだんにこの話には投入されていると思った。怪談は語りだ、語り口がすべてだ、とこのお話を読むと強くそう思う。第四夜にはUFOにまつわる黒い服の男たちの話も収録されていて、これも半端なく面白い。感心するくらい良く出来た怪談だと思う。

 noteの「#眠れない夜に」のタグの話から、知らないうちに妖怪の話や新耳袋の話をしてしまっていた。自分が書いたホラーが怖いか判断する方法について書くつもりが、大幅に脱線してしまった。

 これも妖怪の仕業だろうか。


 noteに投稿を始めてから、私はホラー色のある小説を三本発表している。書いたのは今年の七月以前だが、遡って「#眠れない夜に」のタグを付けさせてもらった。それぞれの作品に、違った怖さを工夫して入れてみたが、怖いと思ってくれるかは、読んで下さった方にしかわからない。

 眠れない夜に読むならばちょうどいい長さかも知れません。未読でしたら、これを機会にどうかよろしくお願いいたします。


◇◇◇


「#眠れない夜に」のための三つのホラー作品


『ろくろ首の胴の方』

※作者からひと言
妖怪や幽霊が出てくる話を書きたいと思っていました。願いが叶いました。

◇◇


『眠り流しのその後』

※作者からひと言
実話成分が入っています。

◇◇


『知らなかった塔、知っていた島』

※作者からひと言
この心霊スポッ……もとい、観光スポットは実在します。風光明媚です。



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