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絵画(とアート)とKPOP MVの世界

さて今回はKPOPのMV中でも絵画やアートから着想を強く受けてる作品をチェックしていきたい。

調べていくうちに、気付くのはアイドル、ソロリスト、ラッパー、ヨジャ、ナムジャ問わず幅広くアート作品の影響が見られること。
また使われている作品もモネ、カンディンスキー、ダミアン・ハースなど、古典絵画から現代アートまでととても幅広い。

カンディンスキーとIZ*ONE

一つ目の作品はIZ*ONEの”FIESTA”のMV
制作したプロダクションがRigend Film。
Rigend FilmはTWICEの”SCIENTIST”、NCT127の”Super human”、ITZYの”LOCO”などのMVを手掛けており、他にもSEVENTEENやIVEとも仕事をする、KPOP界では存在感のあるプロダクションだ。

43秒あたりから始まる一連のカット

このカットにカンディンスキーの作品が使われている。
初めはメンバーの背景として使われていますが、最後には作品のみのカットになり絵が前に倒れて、次のカットに入るという流れ。

使われている作品は1913年にカンディンスキーによって制作された『コンポジションVII』

(画像引用:https://www.wassilykandinsky.ru/work-36.php)

カンディンスキーは抽象画家の先駆者の一人であり、美術史を語る上では欠かせない画家である。
この作品は見てわかるように多彩な色合いと流動的な画面は、動きやカットが多く、色彩が多く使われているMVと非常に相性が良い。

カンディンスキーのこの作品は華やかな色と見るうちに印象が変わり常に変化しているようにも見え、鑑賞者を飽きさせない。
もしかしたらこの作品からインスピレーションを得てMVを製作したのかもしれない。

I*ZONEは全12名と大所帯のグループで、MVでも限られた時間の中で細かなカットなどにより、なるべくメンバーが映るように構成されている。しかしその中でメンバーが映らず、カンディンスキーの作品のみのシーンをワンカット入れるのは、この作品に何か重要な想いや役割が込められているからのだろう。


エドワード・ホッパーとHeize

二つ目の作品はHeizeの”HAPPEN”というMV
制作したプロダクションはDIGIPEDI。DIGIPEDIはSEVENTEENの”Left and Right”やNMIXX"O.O"などを制作。他にもATEEZ、Tomorrow X Together、SUNMIとも仕事をするKPOP界ではとても有名なプロダクションだ。

MV全体がエドワード・ホッパーの作品をモチーフとした世界観で展開されている。実際の絵とほとんど一致するようなシーンもある。

まず映像内0:52のこのカット。1953年アメリカでホッパーによって描かれた「Office in a Small  City」と構図が非常に似ている。

(画像引用:https://www.wikiart.org/en/edward-hopper/office-in-a-small-city-1953)

しかし二つを並べると細かな部分、人の配置や背景のビル群などの違いが見えてくる。特に大きく違うのは色合いだ。ホッパーの作品の方が色味が抑えられており、青青とした空と機械的なオフィスの対比が強く現れている。
一方MV内では緑を基調に差し色のオレンジ、空はパステル調の水色でホッパーの作品ほど目立たない。
むしろ室内の緑と町やカーテンに使われているオレンジの方が目に入る。構図はかなり寄せているのになぜここまで大きく色合いを変更したのか、それはもう少しMVを進めていくとわかる。


1:30のカットでは、1942年に描かれたホッパーの代表作の一つである、「Nihgtawks」をオマージュしている。

(画像引用:https://www.wikiart.org/en/edward-hopper/nighthawks)

作品をオマージュしているだけでなく、窓と店の上にある赤い看板にはNightawksという文字があり、これ意外にもMV内で何度かNightawksの文字が映し出されるシーンがある。この絵がいかに重要かこのカットで示しめされている。
またMV全体を通してNightawksで象徴的に使われている緑色を使っている。また絵の中央にいる女性のようにMV内の 女性(Heize)も常に赤色の入った服や小物を身につけていることが多い。
このことからNightawksをMV全体のテーマとして使ったのだろうなと想像できる。

そのため上の0:52のカットでは構図は「Office in a Small City」の作品を参考にしたものの色合いは緑色を基調に差し色にオレンジを入れる、まるで「Nihgtawks」を彷彿とさせるものになったのだろう。

現代アートの影響
実はこのMV内にはホッパーの作品以外にもアート作品を彷彿とさせる箇所がある。
3:23あたり、ほとんど同じ時間を指しているように見える時計が二つ並んだこのカット。フェリックス・ゴンザレス=トレスの「Untitled(Perfect Lovers)」という作品を彷彿とさせる。

(画像引用:https://heapsmag.com/sunday-art-scroll-real-time-exhibition-news-from-all-over-the-world-Felix-Gonzalez-Torres)

この作品は1秒だけズレのある時計が二つ並んでいる作品でタイトルを直訳すると「無題(完璧な恋人)」となる。
MVでは恋が始まりそうですれ違い続ける二人の関係が描かれているが、そんな二人の関係を予感させるように映像終盤にこの時計のカットが入っている。


MV全体を通して絵画やアートを知っているとより面白く理解しやすくなる仕掛けが散りばめられている。またMV内では美術館のようなシーンもあり、作り手が非常に芸術に関心があり、影響を受けていることが窺える。


フランシス・バーコンとEpik High

三つ目に紹介するのがEpik Highの”Face ID ft. GIRIBOY, Sik-K, JUSTHIS”のMV。
こちらもプロダクションはDIGIPEDI。

この作品はとにかくすごい。沢山参考にした絵画やアート作品がある。しかし私はDIGIPEDIのディレクターのインスタ(@digipedi.seong)を見るまで気づかなかった。2021年10月25日の投稿でフランシス・ベーコンや歌川国芳の作品画像とともにこのMVの画像があげられている。
そこでこの投稿を元に、どのようにフランシス・ベーコンの作品が使われているのか、また一緒にその他の作家の影響も見てみようと思う。


フランシス・ベーコンの影響
初めに0:19からのカット。

(画像引用:https://www.guggenheim.org/artwork/293)

1962年にフランシス・ベーコンによって描かれた「Three Studies for a Crucifixion」の特に真ん中の作品を参考にしているのではないだろうか。
背景の三つの板。床のオレンジの円の真ん中にはベット、MV内ではテーブルのようなものの上に人がいる、その構図は非常に似ている。


次に2:35あたりからのカット。

2:25あたりからこのシーンは始まっているのでそこからの流れで見るとよりわかりやすいかもしれない。
このカットは1953年に描かれた「STUDY AFTER VELÁZQUEZ'S PORTRAIT OF POPE INNOCENT X」という作品を彷彿とさせる。

(画像引用:https://www.artpedia.asia/francis-bacon/)

縦に入ったグリッチは作品の縦に入れられた筆跡のようだ。どちらも大きく空いた口だけが強調されており、その狂気的な世界を表しているようにも思える。

最後に2:17あたりのカット。

1968年に描かれた「VERSION NO. 2 OF LYING FIGURE WITH HYPODERMIC SYRINGE」に背景など影響を受けたとみられる点がいくつかある。

(画像引用:https://www.wikiart.org/en/francis-bacon/version-no-2-of-lying-figure-with-hypodermic-syringe-1968)

逆アーチ型に曲がったブラインドのような背景は一部が青色ぽく塗られており、より絵の背景を彷彿とさせる。歪んだ円形の白い絨毯、上から垂れるチェーンは絵の中の黒い縦線を表しているように見える。


フランシスコ・ベーコン以外の作家の影響
実は初めに触れたDIGIPEDIのディレクターの投稿ではガシャドクロ、Damien Hirsにもコメントで触れている。
おそらくガシャドクロは一緒に投稿されている歌川国芳「相馬の古内裏」のことだろう。
言わずもがなDamien Hirstは有名な現代アーティストである。
この二人の影響についてもう少し掘り下げていこう。

歌川国芳(ガシャドクロ)の影響
1:36あたりから始まる一連の骸骨シーン。歌川国芳の「相馬の古内裏」と比べてみよう。

(画像引用:https://intojapanwaraku.com/culture/10655/)

どちらも暗い背景に白く浮かび上がる巨大な骸骨が小さな人間を”見ている”ようにも見える。MV内で差し色で赤が入っているのも絵を思い起こさせる。
もちろんかなり変化させている部分も多い。MVでは人間が沢山落ちてきたり、骸骨が増えたりする。そうした表現は歌川国芳の「相馬の古内裏」の奇妙でカオスな光景とリンクするところがあるように思う。

ダミアン・ハースト(Damien Hirst)の影響
例の投稿にはダミアン・ハーストの名前が上がっていたものの、彼の作品の画像は一枚も上がっていない。MVを見た感じも明らかに似ているようなカットやセットもない。
ここでは私が気づいた二つの作品の影響を見ていこうと思う。
1つ目が1990年に製作された「A Thousand Years(1000年)」という作品だ。

(画像引用:https://media.and-art.jp/art-studies/conceptual-art/damien_hirst_artworks/)

ハーストにとって初めての動物を使ったインスタレーション作品。ガラスケースの中には牛の頭、多数のハエ、殺虫灯、ウジ(ハエの幼虫)を培養するための箱が設置されている。ハエが牛の頭に卵を生み、ウジが牛の頭を食べてハエになり、飛び回るハエは殺虫灯に当たって死ぬという食物連鎖が表現されている。

NEW ART STYLE https://media.and-art.jp/art-studies/conceptual-art/damien_hirst_artworks/

2:10のこのシーン。2:00あたりから見るとよりわかりやすい。よく見ると生肉が転がっており、巨大なハエも飛んでいる。「A Thousand Years(1000年)」の作品の構造を暗に示しているようにも思える。


2つ目が1993年ダミアン・ハーストの代表作である「Mother and Child, Divided(母と子、分断されて)」という作品だ。

(画像引用:https://media.and-art.jp/art-studies/conceptual-art/damien_hirst_artworks/)

縦二つに切断された状態の牛と子牛をホルマリン漬けにした作品。
ー中略ー
切断された牛の間を通ると体内の内臓の様子を見ることができる

NEW ART STYLE https://media.and-art.jp/art-studies/conceptual-art/damien_hirst_artworks/

上に示した、MV内2:00あたりから登場する肉片。宙に浮いていたり、ぶら下げられてりしている肉片のイメージはこの作品とも繋がる部分があるように思う。宙に浮いているわけではないが、牛の死体がホルマリン漬けにされ浮いている様子は空中に浮いたようにも見える。
またMV内中央の綺麗にブロック状に切断された肉片は作品の機械的に切断された牛の死体を想起させる。

こういったダミアン・ハースの死を扱う作品群の中から影響を受けた部分もあるのではないかと思う。


絵画コンセプトなRed Velvet "Feel My Rhythm"

最後に紹介するのがRed VelvetのFeel My Rhythm。
このMVは誰でも見れば、「あっこれは!」となるほど、有名な絵画のオマージュが多い。

ジョン・エヴァレット・ミレーの「オフィーリア」やクロード・モネの「散歩、傘をさす女」、フラゴナールの「ぶらんこ」など、ぱっと思い浮かぶだけでもこれだけある。
0:03~0:04のシーン、フラゴナールの「ぶらんこ」を連想させる

(画像引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/ジャン・オノレ・フラゴナール)

0:05のシーンはジョン・エヴァレット・ミレーの「オフィーリア」

(画像引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/オフィーリア)

1:00のシーンはクロード・モネの「散歩、傘をさす女」

(画像引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/散歩・傘をさす女)

公開された当時もかなり話題になり、まさに絵画コンセプトのMVだろう。

しかし今回注目したいのが少しわかりにくいがこのカットだ。

このカットは曲も終わりRED VELVEDのロゴが出た後、映像内3:45のカットだ。あまりにも特徴的なのですぐにビビッときた。
ヒエロニムス・ボスの「快楽の園」に描かれている塔にそっくりだ。

(画像引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BF%AB%E6%A5%BD%E3%81%AE%E5%9C%92)

向かって左側の中央。池の真ん中にあるピンク色の塔。

(画像引用:http://www1.megaegg.ne.jp/~summy/gallery/delight.html)

並べてみると塔だけでなく草と空の色も非常に似ている。
ヒエロニムス・ボスの「快楽の園」は一見カラフルな色合いとミニマルな可愛らしい世界観の作品に見えますがこの作品が持つ意味は少し複雑だ。
向かって左の絵は動植物、神とアダムとイブにのように見うけられる三人の人間。穏やかで平和な楽園のようにみえるが、中央に行くと快楽に溺れ狂った人間の様子が描かれ、さらに右にゆくと、そこには地獄が広がっている。怪物に食われる人間や苦しみにのたうち回っているようにも見える人間もいる。

評論家の間でもこの作品が何を表現しているのかという意見は分かれている。しかしこの可愛らしい世界観の裏にある狂気や毒々しさのようなものはRedVelvedというチームが持つ世界観と非常によくマッチしているようにも思える。

VM Project Architectureディレクターの本棚

先日VM Project Architectureのインスタのストーリーで質問コーナーをやっていた。
その中で「監督が最近、よく影響を受けているブランドは?」という質問に対して、「特定のブランドにインスピレーションを受けていません。」と返答。
その背景の写真には参考にしているであろう画集などが並べられた本棚が映っている。
パッと見ただけでも、モネやエドワード・ホッパー、フランシス・ベーコンなど巨匠の画家の画集から現在も活躍するアーティスト、オラファー・エリアソンの作品集まで見受けられる。このことがきっかけで今回この投稿をしようと思った。

このnoteを書いていてDIGIPEDI、Rigend Film、VM Project ArchitectureなどKPOPのMV界を代表するプロダクションが手がける作品だけでなくKPOPのMV全体がアートや絵画から影響大きなを受けているのではと思った。


最後に

なぜ私が、絵画とKPOPのMVの関係性の話をするのか。それは画像(映像、グラフィックデザイン、アニメ、イラストなどを含めた全ての平面の画像)と絵画の問題は地続きであるということを実感してほしいと考えているからである。この話は私だけでなく様々な巨匠と呼ばれる画家たちも言及している。例えば現代画家であるデイヴィッド・ホックニーは著書「絵画の歴史 洞窟壁画からiPadまで」のなかでは絵画だけでなく映画、写真、アニメーションにまで迫りその歴史を彼の視点で探っている。
また現在(2022年7月9日)国立近代美術館で開催されている、ゲルハルト・リヒター展では彼の代表的な絵画作品だけでなく、写真や印刷を使った作品、映像作品などと一緒に展示することで、もはや絵画というジャンルだけでなくそれを超えた画像というジャンルの中で制作を続けていることがわかる。
絵画やアートは分かりにくいという理由で避けらることも多い。しかしKpopのMVに使われてたりするのを知ると意外と身近なものだと感じてもらえるのではないだろうか。
また逆にKPOPがアートの世界与える影響の大きさに気づいて欲しいという思いもある。


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