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サード・キッチン

サード・キッチン
白尾悠・河出書房新社
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以前、NHKで「理想的本箱 君だけのブックガイド」という、テーマ別でオススメ本3冊をチョイス・紹介するという番組があったんですけれど、
「人にやさしくなりたい時に読む本」
で紹介されたうちの一冊がこの本だったんですね。概要聞いた範囲ではちょっと自分に合うかわからなかったんで図書館で予約したんですけれど、ちょうど予約期間~読んでる最中に文庫が出たタイミングで、おや…自分で買ってもよかったかな…てなったりしました。
ちなみに読み終えたあと、これは再読&熟読コースだわ、と確定したので電書でしっかりぽちりましたよ。
※ひとつ前の図書館本でも書いた「借り本買い」ですね!詳しくはnote読んでください


アメリカ留学した日本人主人公の「ナオミ」は、語学の壁もある中でルームメイトともソリが合わず、環境に馴染めないまま孤独を感じる日々を送っていたのですが、ふとしたきっかけで会話をする人が出来、とあるコミュニティに参加することが出来たんですね。ただ、自身の無知からメンバーとトラブルになってしまい…
といった本です。バックグラウンドは上記だけではなく、ナオミが留学するにあたって費用を支援してくれた「あしながおばさん」との手紙の交流も絡むんですけれど、上記NHKの番組で「人に優しくなりたい時に読む本」として紹介されていただけあって、根っこに大きな優しさのある作品です。
もちろん誰かが誰かに優しくないシーンも描画されてはいるんですけれども、文化も国も歴史もバックグラウンドも違う人達が同じ学校で学びながら生活することで、どういった交流があるのか、どんな学びが起きるのか、どんなすれ違いが起きるかを、大変丁寧に書かれています。

わたしこれ、読みながらしばらくはノンフィクションだと思っていたほどでして、それぐらい留学の際に感じた気持ちの描写がリアルで読んでいて本当に身につまされます。小説なんですけれど、作者さんの留学経験を下地にしているそうですね。なるほど、説得力…
とにかく、人の輪になかなか飛び込めないとか、ちょっとしたところから
「あ、バカにされてる」
と気がついてしまうシーンとか、ちょっと話してみたら全然思ってたのと違ったとか、もう、ナオミを見守って応援するしか出来ない…ナオミ頑張ってるよ…母国語以外で学校の授業受けるとかすごいよ…偉いよ……

先日の感想文でも、わたし、めちゃくちゃ勉強する人が好きと書いたんですが

一定以上の深い勉強て、こういう孤独感とも戦う必要がありますよね。
これらの壁を乗り越えて学びの道に入る方々、尊敬するなあ…私は勉強が上手じゃなかったし面白さがわからないままで大人になってしまった人なので、勉強上手な人に憧れが強いんですよ。留学出来てよかったなあナオミ…

こちらの作品、いわゆる人種問題や歴史問題についての話がベースにあるんですけれど、読めば読むほど
「わたしは…何も知らないままで育ってしまったな…」
と自分に呆然としたりします。そういった差別が激しくない環境で育つことが出来た幸福とも言えるんでしょうが、それを幸福なだけで片付けてはいけないよな、とこの作品を読みながらたびたび感じることになりました。
上記にもある通り、とても優しいお話なのですが、それは相手側の受容の上に成り立っているようなものなので、こちらが傲慢になっていい理由にはならないんですよね。
当人なりに普通にしているだけでも、それが残酷な行いや振る舞い、考えになりかねないことをこの作品は教えてくれます。
この作品、中学とか高校とか大学とか…若い頃に読めたらいろいろな視点を持てたかもしれないなあ…と思わずにはおれません。
もし身近に若い人がいたら、さらにその若い人が海外での学びを視野に入れていたら、ぜひプレゼントしたい一冊です。

小説…いや、読書って、いくら感想を綴ってあるものを読んでも、自分自身の読書経験にはとても変わらないものだと思うんです。体験全般そうではあるんですけれど。なので、もしお財布やお時間に余裕がある人がいれば、この本、広く読まれてほしいなと強めに思います。
海外への憧れだとか、身近に外国の方がいらっしゃるとか、外国に旅行に行きたいなー、ぐらいでも全然いいんですけれど、日本とそれ以外の国を少しでも意識したことがあるのならば…もっと言うと、自分と他人は違うのだと知るためだけでも、この本は良いきっかけになるのではないでしょうか。

ここ最近で、首相の秘書の方が差別的な発言をなさったことでニュースにも上がっていましたが、無理解がいかに人の尊厳を傷つけるか、人権とは何か、差別とは何か、無知の残酷さとはどういうことか、そういったことを考えるきっかけになる作品じゃないかなと思います。
ご家族同士、友人同士で同じ本を読んで感想を交わしてみる、てことにも良い本じゃないかな。ちょっとハードル高すぎるかな。それぐらい「会話を交わす」ことのきっかけになりそうな良作でした。
んで、ちょっとぐらいは語学の勉強してみようかな、とも思ってみたり。
来世のためにね、ちょっとぐらい。

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