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ヤクザときどきピアノ

ヤクザときどきピアノ
鈴木智彦・CCCメディアハウス
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テレビ番組で「街角ピアノ」「空港ピアノ」「駅ピアノ」
https://www.nhk.jp/p/ts/9981L8QX2N/
があって、特に熱心におっかけているわけではないんですけれど、
番組表見ててタイトル見かけるとついつい録画しちゃうんですよね。
で、ちょっと何かするときに横でつけて、ながら観をしたり、
時にはわりと熱心に見ちゃったりします。
なんかね、楽しいんですよね。当たり前なんですけれど、世界のあちこちに人がいて、人ひとりひとりに歴史や人生や技術や知識があるんです。

元々旅番組とか異国・よその都道府県の街中だの名物だのの番組は
なんか好きで録画や鑑賞しちゃうんですけれど、それだけでなく、
誰かが楽器弾いているの見るの、やけに好きなんですよね。
なのでクラシックとかもTVでやってるとついつけちゃうんですよ。
特定のお気に入り楽器は別にないし、実は楽器に限らずに誰かが何か作ってるところとかでも楽しいんですけれども…

そんな私ですが、大変残念ながら自分も家族も楽器は素養や環境がなくて、
身近で人が楽器を弾く姿ってのに馴染みが全然ないんですが、
番組見てると意外な立場の人が日常でピアノを弾いてるんだなあと
なんだか不思議な気持ちになります。
※番組は、公共の場に置いてるピアノを誰かが弾いて、その誰かにピアノと自身のエピソードのコメントをちょっともらう、といった構成です

日本国内だと職業とか人柄による意外性ぐらいなんですけれど、
海外の回になるとバックグラウンドがヘヴィな方も結構いらして、
音楽や楽器てのは人にとって大きな慰めだったり喜びだったり、
実に大事なものであるなあ…と感じ入ることも多いです。
自分の日常には無い文化なんですが、羨ましさもあるかもしれないな。

そんな私が、まずタイトルで「なんじゃこりゃ」て思って、ずーっと気になっていたのが今回の御本です。最初に見かけたのはツイッターだったと思うんですけれど、最初はこれ小説(フィクション)だと思っていたんですよ。だって設定が面白すぎるんだもの……現実とは思わないじゃない……やっと読むことが出来ました。

著者の鈴木智彦さんは、潜入系のルポなども描かれているライター・ジャーナリストさんで、ヤクザもの専門…専門なのかな…中心、かな…ヤクザものの著作が非常に多くある方なんですね。著作も大体タイトルに「ヤクザの~」とか「極道~」とかの字が入っているような方なんですよ。
元々ピアノが弾ける人になりたかったと思いつつ五十歳を過ぎ、ある日、本の原稿を上げてそのままのテンションで映画の「マンマ・ミーア」を観たら、クライマックスでABBAの「ダンシンググイーン」を聞いて号泣し、
「ピアノでこの曲を弾きたい」
と思って教室に通い始める、という冒頭で、この流れからしてわけがわからなくて既にめちゃくちゃ面白いんですよね。映画は別にそんなに感慨深いわけじゃなかった感想のようで、あの、よっぽどね、お疲れだったんでしょうかね…ご自身も【なのにABBAで。まさかABBAで。】て太字で書かれてて、いやABBA好きですけれど、わたしも同じ状況になったら混乱のあまり何日か仕事休むと思うんですよね…

ピアノを引きたいというトリガーを引かれて、さすが潜入系のライターさん、行動力は抜群で、早速近所のピアノ教室を検索し、問い合わせを始めるんですね。ただ、これ大人になって習い事を始めようと思ってみた方はわかると思うんですけれど、お教室系って案外と「子どもだけ」って枠しかないところ多いんですよ。著者さんも問い合わせに丸二日かけたそうで、それぐらい大人の習い事て最初の一歩のハードルが高いですよね。
この描写をそのまま信じるならば、著者さんもかなり独自の問い合わせ方法だったこともあって、お断りが重なる中で無事良い先生に会われ、そこから52歳の挑戦が始まる、といった内容です。
ノンフィクションなので話の筋よりも過程の文章やそれに伴うご本人の思考、「大人を指導する大人の仕事論」の一連がいずれも面白いわけなんで、気になった方はぜひ実際の御本を手にとって楽しんで欲しいんですけれど、これ、「大人が何か学ぶ」ということについて、どういった点が困難で、どういった点に面白みを感じるのか、遅いのか早いのか、何時間かかっていくらぐらい使って仕事しつつで…などなど、気になることは一通り書いてあるかと思います。正直、著者さんこの本を出してくれてありがとう、読むの遅くなってごめんねとすら思いました。

※わたくし、引っ越しでアマゾンの欲しい物リストを公開したらお友達が送ってくれて読みました。自分での購入ではなかったのが少々心苦しいですが、これでちょっとでも売上につながるといいなと思ってます…つながるかな……

読んで頂くとわかるんですけれど、この御本、ポイントポイントの描写がいちいち面白くて、そこはこの方が今までいた世界の基準のようなものが垣間見れて興味深いです。
最初ピアノを習い始めたとまわりの人に言ったら、ヤクザの親分にクスリでもやってるんじゃないかと疑われたとかで、ボディチェックを受けたり。
いやー…私の周りには無いもんなあ、習い事したらクスリを疑われるなんて…ご本人も「俺の語彙は裏・闇・黒という三文字の裾野に偏っている」と綴っていて、本当に…なんでABBAで…
ちなみにたとえ話の中にのだめカンタービレの千秋先輩の名前も出たりするので、日頃ヤクザものの作品とは縁が無い人でも普通に読みやすい中身かと思います。そこは著者さんのさすがの腕ではないでしょうか。ピアノの文化史・歴史などもざっくりとわかるので、「へー」がいっぱいつまっています。

最終的に発表会に出られて「レイコ先生」との別れがあり、という締めなのですが、
「遅くにはじめたからといって、俺たちは何の損もしていないのだ」
ということを、経験とそれをまとめた一冊を通して教えてくれる良作です。
これから何かしようかなー…でもなー…歳がなー…
と考えちゃうタイプの人は、ぜひ一読を。いいじゃないいいじゃない。やってみたいことやったらいいじゃない、てなりますよ。

楽器かー。楽器楽しそうだなー。

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