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河童が覗いたヨーロッパ

河童が覗いたヨーロッパ
妹尾河童・新潮文庫
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60~80年代ぐらいの人は「ああー」て思うお名前やタイトルかしら…
こちらの「河童が覗いた」シリーズや「少年H」でおなじみの妹尾河童さんの代表作ですね。
いわゆる「間取り本」のハシリなんですかねこのシリーズ…全面的に間取り本てわけでは全然無いんですけれど、見たこと無い国の建物の間取り図や俯瞰型のホテル記録に結構な人がワクワクしたんじゃないでしょうか。

70年代終わりの生まれの私が
「昔流行ってたねえ」
て全然記憶にあるようなものだったので、それなりに近い年代の発行物かなと思っていたら、とんでもない、こちら昭和58年の発行物ですよ。西暦で言うと1983年。うへーー40年前か!40年前のヨーロッパの旅行記!これもなかなか貴重な履歴・記録ですねえ。

こちら文庫で拝読したんですが、なんと本文の文章、全て手書き文字です。
きれいな字なので慣れたら全然読みやすいんですけれど、これ大変だっただろうなあ…手がめちゃくちゃ疲れるやつ…あと文庫サイズに二段組てなかなか老眼泣かせですね…(わたしは今んとこ老眼出てないから大丈夫だったよ!)
そして上記のようにお泊まりのホテルの俯瞰図だけではなく、例えばピサの斜塔だったり、フランスのカルカッソンヌ城だったり、名だたる建築物の外観もがすべてペン画イラストで起こされて挿絵…解説図?として掲載されています。
なんだこれ改めて恐ろしい本だな…
一年間ヨーロッパを旅して回ったものの記録で、しかも文化庁が研修目的でお金を出したものだそうで、ははあ、なんとまあ優雅な……
とはいえ、これだけのレポートを描かれたら、文化庁よくやった、ですよほんと。ヨーロッパなのでイタリア、フランス、ドイツ、スイスにスペインにオランダ、オーストリア、チェコにノルウェーに…と続くんですが、なぜかアメリカだのエジプトだのソ連(ソ連だよ!)だのの記録もあり…
なんと22国、ホテルの部屋は115室と、本当にとんでもない旅でしたね…いやー羨ましい…

精度や監修の有無等は不明ですけれど、スケッチと一緒に各国の事情や歴史も重すぎない程度に書かれており、普通に勉強にもなりますね。いやーしかし建物類の挿絵の見事なことといったら…
建築でも勉強してたんかなて経歴みたら、独学とはいえ舞台美術に携わってたんですね妹尾さん…ははあ…なるほどな筆致…グラフィックデザイナーでもあらせられた…

こちらの本の記録、各国の名だたる建物だけではなく、交通やオペラや泥棒や銃だの、車掌さんの制服記録だの、本当に相当いろんなものをスケッチしてまわってたんですね…カメラだってフィルムだったころですしね…これだけの精度で描かれるてのは記憶力もだいぶんよろしいんだろうな…こういうの作れるの、慣れ以外にも確実に才能みたいなものありますよね。写真みたいに風景の記憶を出来ちゃう人がいるそうで…すげえな…羨ましいな…またこのペン画、白黒のみなのですが細部の省略の仕方も絶妙で、いや本当に絵がうまい…見やすい…羨ましい…

絵だけではなく、この本にある記録でなにげに嬉しいのがホテル一泊いくら、の情報が、当時の通過と円で併記されてるところです。
例えばイタリアのローマで止まったホテル、一泊につき3,000リラ(イタリアでリラ!)で当時の1,800円…すごい…安い…ミラノのところには「ローマより物価が高い」だとか。現代と比べるとこういった点もかなり楽しいですね。フランスなんて安いところは800円ぐらいで泊まってる…まじか…震えるわ……(ちなみにですけれど、「消費者物価指数」で求めたとして、平成27年よりも昭和40年の1万円の価値が約4.1倍らしいので、上記の1,800円も例えばで4倍してみたら7,200円…ビジネスホテル代ぐらい?今の1,800円とはちょっと事情が変わりますね)

基本的に旅行記なので、とにかくただただ読んで面白い、てものなんですけれど、各種配信やアーカイブ系でヨーロッパの街並や観光名所の映像ていっぱい見れると思うので、この本とそういった映像番組を併行して見るとより面白いかもしれないですね。そういう意味ではこの本、お手元にずっと置いておく一冊にしてもとても素敵なアイテムかもしれません。
あと、冬場になるとTwitterなどで「ピェンロー」という白菜の鍋の話が盛り上がるんですが、その話題もこの本の解説ページに載っています。別の本にも載ってるのかな…

最近は通信も交通もすっかり良くなっちゃったんで外国事情や情報もいっぱい入ってきますけれど、当時にしてみたらそれはもう貴重な海外のお話をしてくれるのがこういった本だったのかなあ、と想像したり。
ちょっとヨーロッパを感じたいわね、て人はぜひぜひ。
まだおいそれと旅行もね、行きづらいですから。本を通して旅気分…しかもタイムスリップ込みで、てのもいいんじゃないでしょうか。
やー、古びない本でびっくりした…

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