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名著の話

名著の話 僕とカフカのひきこもり
伊集院光・KADOKAWA
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NHKで【100分de名著】という本の解説番組があるんですが、ご存じの方も多いでしょうか。2011年から長いこと続いておりまして、一冊につき大体週一回放送・全4回(一ヶ月分)ぐらいでやってるのかな。
古今東西の名著を、その作家さん研究の第一人者みたいな方が大変丁寧にわかりやすく解説してくださり、作品が作られた時代背景や著者への理解も深まるという興味深い番組です。

その番組の中で、
「名著を全然知らない役」
という、要するにお話の聞き手を担当しているのが伊集院光さんでして、この本はその伊集院さんが、
「番組が終わった後(つまりその作品を知った後)に改めて解説の先生にお話を聞いた」
という、二重に手間のかかっている本なんですね。

一冊を結構しっかりめに掘り下げているので、この本一冊で
・カフカ 変身
・柳田國男 遠野物語
・神谷美恵子 生きがいについて
の、3冊分のお話のみなのですが、話が中だるみすることもなく、また、未読の本だとしても読者を置いていくこともない、大変読みやすく分かりやすく興味深い良本でした。対談形式なので、そこもとても理解しやすい要因といいますか。
まえがきやあとがきで伊集院さんの「名著」や番組についての考えなども說明がありますし、番組で流れるような通り一遍の作品&著者の解説も各本の対談前のページに丁寧に記載があります。至れりつくせりですわぁ。

本というのは、書かれている物語に「心当たり」があるかどうかで興味の程度が段違いになるという面白い娯楽だと思うんですけれど、例えばカフカの「変身」に、伊集院さんはご自身の過去の引きこもり経験を強く重ねてお話をするんですね。
名著て「なんかよくわからん部分がある」から「難しいし面白くない」てなってしまいがちなのが、詳しい人の解説によって一気に身近で興味深い、「心当たり」のあるものになるという、面白い体験をする人もいるのではないでしょうか。今回だと伊集院さんがまさにそれですね。
教科書の作品と国語の授業がこれらの疑似体験だと思うんですけれど、授業てどうしても勉強だしテストが出るし、読みたいと思っている作品が載っているとも限らないし…。純粋な楽しみのために名著の部類を読むようになるのって大人になって、しかもしばらく経ってからなんてことも多いですよね。なので、こちらの本だったり元になっている番組だったりは、大変知的好奇心や読書欲を刺激してくれるものだと思うのです。

基本的には番組での伊集院さんの「経験、体験」の振り返り話を軸に、解説の先生の考えや說明を重ねていく対談なんですけれど、先生の側も番組の出演やお話によって、今までなかった視点や驚きを得ることも多いようです。たまに知らない環境や、話したことがない人と話す経験て脳にとっていいことなんだなあ、と、そこも非常に興味深いですね。
わたしはこの本に挙がっている3冊のうち、「変身」と「遠野物語」はすごく大まかに読んだり内容知っていたりしたんですけれど、失礼ながら「生きがいについて」は作家さんも本のタイトルも予備知識も一切無くて、こちらの本を読みつつ「これはぜひ一度読んでみねばな…」となりましたので、これはもう私の中で問答無用に良い本です。
興味を広げてくれるっ作品・本て貴重なものですからね。

このnote、日々の読書感想文を投稿しているんですが、直近数冊の感想が2023年・45歳のわたしが読んだことで本の内容の「流行り」とのズレを感じる点が大変多かったんです。今回の本は紹介されている著作や国も時代もバラバラで、しかも比較的「古い」作品となるのでしょうが、この本そのものの発行自体が2022年ということもあるので、お話のベースの感覚・比較対象が今の時代のものなんですよね。それもあって読んでいて会話に共感を抱く点が非常に多かったです。
また、「現代にも通じる話」「これからの人たち」といった語りの内容がリアルタイムなんで、調べ物をしやすかったり、内容的にうなずきやすいんですよね。

今回のもの、本のことを書いた本なんですが、やはりというかそれが仮にSFやファンタジーの小説だったとしても、その作品が書かれた時代背景や著者の人となりなど、どうしても結構細部ににじみ出ちゃうんですよね。ベースの作品の解説にもそういった記載は大変多いので(例えばカフカの人となりだとか)、読書をするにあたって基本情報にあたるかもしれないですね、時代と著者背景。
わたし本人だって、例えば今と5年前だったら、かなりジェンダーまわりやハラスメント系の知識や感覚がアップデートされてると思うんですよ。
あくまでも例え話ではあるんですが、そのアップデート前の自分と今の自分が会話して、アプデされた側の自分は、ベースの考えが一緒だとしてもやっぱりどうしても「古いわたし」の発言や行動に対して一言言いたい、みたいなこと出てきちゃうと思うんですよ。「もう終わったはずの話」をずっとされるのも疲れちゃうし。

あまり古い作品、「今だとこの展開はNGだろうなー」「読んでて倫理的にどうしても楽しめなかった…」て、小説だけでなく映画やエッセイ、トークやお笑いやら何にでも出てくるんですよね。案外とこの感覚のズレって根深いので、すべての作品でやれ時代がとか著者がとか背景がとか考えなくてはいいかもなんでしょうけれど、面白さを感じるのが難しい要因として、選択用のタグでもないですけれど、そういう参考にはしてもいいんじゃないかなと思います。
逆に、何かしらの文の解説の必要が出た場合は、
「このころはこういう考えの時代だったんですね」
と少し添えると、相手が一気に理解しやすくなったりもするので、前提のすり合わせて本当に大事ですね。

こちらの本、タイミングばっちりだったのと、解説的な本だったのもあって、いろんな理解が深まったという面白さも抜群でした。伊集院さんもお話すごく上手なわけですからね。
紹介されていた3冊、それぞれしっかり読んでみようと思います。

ああ…こうして本が…積本が…増えてゆくね…



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