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【感想】読書感想文「まほり」_非実在女子大生、空清水紗織の感想Vol.0023

まほりとは?蛇の目紋に秘められた忌まわしき因習とは?
前代未聞の野心作

大学院で社会学研究科を目指して研究を続けている大学四年生の勝山裕。卒研グループの飲み会に誘われた彼は、その際に出た都市伝説に興味をひかれる。上州の村では、二重丸が書かれた紙がいたるところに貼られているというのだ。この蛇の目紋は何を意味するのか? ちょうどその村と出身地が近かった裕は、夏休みの帰郷のついでに調査を始めた。偶然、図書館で司書のバイトをしていた昔なじみの飯山香織と出会い、ともにフィールドワークを始めるが、調査の過程で出会った少年から不穏な噂を聞く。その村では少女が監禁されているというのだ! 謎が謎を呼ぶ。その解明の鍵は古文書に……?下巻へ続く。

「まほり 上」 高田 大介[角川文庫] - KADOKAWA
https://www.kadokawa.co.jp/product/322108000224/

美少女ゲームを嗜むものとして、村の因習が絡むお話は大好物。
(本書にはR18要素はないので念のため。凄惨な描写はあるので、そこは注意。)
文庫本上巻の「驚天動地の民俗学ミステリー」なんて書かれちゃったら、読まないわけにはいかない。
ということで、上下巻読了。
読み応え抜群。
ネタバレありで感想を書いていく。

民俗学×言語学

タイトルにもなっている「まほり」。
この意味を突き止めるべく、主人公の裕は民俗学的アプローチを取っていく。
この過程の描写が素晴らしい。
まずは一次資料にあたってからという方針を立てたものの、その資料の膨大さに頭を抱える。
そして昔なじみで司書のアルバイトをしている香織に協力を仰ぎ、学芸員の朝倉、郷土資料館員の古賀らと繋がっていく。
朝倉、古賀らから資料の読み解き方を学んでいく過程は、そのまま学問との向き合い方だ。
ここが真摯に描かれていて、読んでいてとても清々しい気分になった。
そして、語学講師の桐生に仮説を全否定され、それでも正解に辿り着く様は痛快だ。
民俗学的アプローチで出した仮説は、言語学的には全く当たらなかった。
しかし、言語学的アプローチで出した仮説は、やはり民俗学的アプローチで得た情報で裏打ちされたのだ。
分野の垣根を超えた仮説検証が答えへと導いてくれる様は胸が熱くなる。

圧倒的な設定と筆力

上述の学問の描き方だけでも十分面白いが、「まほり」という言葉に対して2つの説が唱えられているのも面白く、ミステリー的だ。
子供の間引きの隠語として「芋掘り」があり、それが転じて「まほり」となったというのは(桐生に一蹴されたものの)一定の説得力がある。
その説得力は、本書に幾度となく登場する関連資料と、それの緻密な解説のおかげだろう。
どれだけ架空のものとは言え、圧倒的な筆致で書かれたそれは、現実のものと思わせるほどのリアリティが存在している。
そして、物語後半まで「芋掘り」の隠語だと信じてきた主人公と読者に対し、「まほり」は実は「目掘る」の忌み言葉であるという仮説が突き付けられる。
まさに衝撃的。
ガツンと頭を殴られたような読み味で、ミステリーとしても最高に面白いポイントだった。

上記以外にも、裕の出生に関する謎や、香織との恋愛模様、監禁されているという少女の救出劇などなど、読み応えのあるポイント、語りたい要素はたくさんある。
どれか一つでもお気に召すようであれば、きっとこの本の虜になると思う。
是非読んでみてほしい。

余談

私が好きな「ゆる言語ラジオ」で、「異人殺しのフォークロア」という用語が出てくる。
理解できない不可解な状況に遭遇したときに、どうにか理解できるよう無理やり理屈をつけるという行為だが、作中でも似たような言葉が出てきていた。

歴史の理不尽に翻弄される人心に、合理化された縁起、分かりやすい事の次第、を説いてやるということですよ。(中略)理不尽を理に落とす。(中略)言ってみれば宗教というものは、人心の集合意識の防衛規制の現れみたいなもの、それ自体が一種の集団的な説話療法(ナラティブ・セラピー)なんですよ

文庫版 上巻 P139

知っていた用語同士が結びついて、コネクティング・ザ・ドッツみがある。

忌み言葉については、ゆる民俗学ラジオでも取り上げていたし、ラジオの垣根を越えて「まほり」について語る回とかやってくれないかなあ……なんてことを思ったりもした。

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