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2024年4月11日 「幾世の鈴 あきない世傳 金と銀特別巻(下)」感想

海外文学をメインに読んでいると
格好つけておりましたが、時代小説も実は読んでおります。
と言っても高田郁さんのものだけなのですが…。
高田郁(たかだかおる)さんと言えば、
料理を題材にした「みをつくし料理帖シリーズ」で有名です。
実写化して、ドラマや映画にもなっております。
調べてみると、漫画にもなっていたようです。
(高田郁さんはもともと漫画原作をされていたようですから、マンガになるのも当然と言えば当然です。)

「みをつくし料理帖シリーズ」から
高田郁さんの作品に触れ、
書店で新刊を見つけた際には、購入するくらいのファンです。
(つまり、いつも紙の文庫本で読んでいます。)

「みをつくし料理帖シリーズ」の後、
こちらの「あきない世傳 金と銀シリーズ」が始まってからも、
追いかけておりました。
とうとう、満を辞しての最終巻ですので
感想を書いておきます。

とは言っても、今作は特別巻、
すでに本筋は13巻、大海編で終了しています。
今作は(おそらく)ファンの要望に応えての特別巻の下巻、うれしいおまけの巻となっています。


みをつくし料理帖シリーズとの違い


「才能のある女の子が周りに助けられながらも、立派にお仕事をする」というのはみをつくし料理帖シリーズと変わりません。
ただ主人公のキャラクターと職種がずいぶん違います。
「あきない世傳シリーズ」の主人公、幸は、「みをつくし料理帖シリーズ」の澪よりもう少し、抑制的なタイプのようです。お父さんが学者だったという設定もあり、澪以上に思慮深いというか、外に感情をパーっと出すタイプではありません。また、下がり眉が、チャームポイントだった澪と違って、美人ということになっています。
また、幸が生涯をかけて取り組む仕事は呉服屋、着物を売るお店です。
正直なところ、美人と呉服屋ということで、下がり眉と料理がテーマの「みをつくし料理帖シリーズ」と比べると、感情移入しにくいところもありました。
しかも、幸は自分が望んだことではないとは言え、呉服屋の兄弟に3度も嫁ぎ、更にもう一度結婚します。
ストーリー上、必要なことではあるのですが、前シリーズの澪が好きだった方は、この辺りで、離れたかもしれません。
でも今シリーズも純愛を貫く部分はちゃんとあります!

今作は呉服屋が舞台


呉服屋が舞台ですので、着物をどうやって売るか、着物の流行をどうやって作っていくかというのが今シリーズの見どころです。
この点は「みをつくし料理帖シリーズ」と同様に、主人公が知恵を尽くしていく様子を思う存分楽しめます。
しかし、自分の母国の話であるというのに、着物の知識、色や素材の和名など知らないことが多すぎて、異世界ファンタジーと言ってもいいくらいでした。
自分が、自国の民族衣装である着物のこと、それに関することのほとんどを、本当に何も知らないということに驚かされました。
もしかすると高田郁さんが、幸を呉服屋さんにしたのもそういう意味もあるのでしょうか。
わからないこと、知らないことが多いので、検索しながら読み進める部分が多かったです。
しかし、着物の美しさは検索してもわからないことが多かったので、挿絵(カラー)を、入れて欲しかった…とわがままな感想を持っています。
高田郁さんは文庫本の帯に直筆のイラストを描かれていて、キャラクターや着物について明確なイメージがおありのようです。それを、イラストでも見たかった気がします。

気になる人々のその後


うれしいおまけの巻ということで、その後が気になった人々が取り上げられた本巻、主人公である幸の出番は少なめです。
台詞も心情描写もあまりありません。
その点は少し残念でした。
しかし、長いシリーズで、京阪と江戸にまたがるお話で、登場人物も多いので、取りこぼしがないように書くのは大変だったということだと思います。
今作で最も良かったのは、
幸の、実妹にして、シリーズ途中から、最大の宿敵となった結のお話、「行合の空」です。
高田郁さんは、人情ものをお得意とされます。
このお話も大筋そうであるとはいえ、
幸への嫉妬や憎しみに囚われる結の描写が素晴らしかったです。
ドロドロとした感情がどのように滲むのか、どのように歪むのかが、真に迫って描写されていました。
シリーズ途中は結というキャラクターがあまり好きになれず、「どうしてまぁこんなに嫌なことばかりするのか…」と思いがちでした。
しかし、今作を読むと五十鈴屋(幸の呉服屋)贔屓は変わらずとも、「結にも幸せになってほしい」と心から思えるようなお話になっています。
次に良かったのは、先妻であり、深い信頼で結ばれた仲間でもある菊栄が語り手を務める、「菊日和」です。
幸以上に個性的で、型にハマらない生き方を貫こうとする菊栄のその後が知れて嬉しかったです。
幸以上に賢く、したたかで、茶目っ気のある菊栄!大阪ことばがまたよいのです。(幸は、さほどなまりなくしゃべります。)
菊栄みたいなキャラクターが主人公のお話も読んでみたいものです。
なかなか痛快な作品になるのではないでしょうか。
何とも意外な人物との交流はまさしく、おまけ巻ならではでしょう。
この2人はなかなか面白い組み合わせです。

また、最後の「幾世の鈴」てわ「世傳って何なんだろう」という読者の疑問も無事回収されていたのが良かったですね。

次シリーズが楽しみ


あとがきを読むと、高田郁さんは、資料を沢山調べて読み込んだ上で作品を作る方のようです。
時代小説であれば、国会図書館などに通い詰めて、その時代のことを徹底して調べておられ様子です。
また、「みをつくし料理帖シリーズ」の際には全ての料理を試作しておられたとか。
それを考えると、次シリーズが世に出るまでには、ここから長く、下調べや準備の期間が必要だろうと思います。
ファンとしては、次シリーズはどんなお話か非常に楽しみですが、
ゆっくり待つ必要がありそうです。
数年後、新シリーズが出ていますようにと心から祈っています。


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