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資本主義の論点を整理してみる。 #327

現在の日本は資本主義を採用しています。そのため、日本社会に不満がある時には資本主義自体を疑う声が上がります。しかし、「資本主義が問題だ」という時、具体的には何を問題視しているのか? 「ポスト資本主義を目指す」という時、何を実現したいのか? 資本主義が影響する範囲の広さゆえに、人によって答えはバラバラです。

そこで、今回は資本主義についての書籍を読んで勉強してきたことを整理してみました。現時点では個人的なメモのような状況なので、詳細な説明は割愛していることをご了承ください。


資本主義について論じた書籍

古典的著作

まずは資本主義についての古典として、カール・マルクスの『資本論』とマックス・ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』について簡単に触れます。

『資本論』では、資本主義の最小単位を商品と定義して議論を始め、資本主義では労働者が酷使されたり、資本家と労働者の格差が生じたりする構造が指摘されています。本書における使用価値と価値(または交換価値)の区別や物質主義によって人間や自然が疎外されているというのは、資本主義を語るキーワードとして引き継がれています。

『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』では、カルヴァンの二重予定説やルソーの聖書翻訳で普及した天職の概念などを参照しながら、プロテスタントの倫理観が資本主義的な勤労精神と節約精神につながったと論じています。また、現在は神を信じて働く人はほとんどいなくとも資本主義という制度上は同じ労働形態を強いられているという状況を「鉄の檻」と表現したことも有名です。

近年の資本主義批判書

環境問題の原因を資本主義に見出すのが最近の特徴であるように感じます。たとえば、『人新世の「資本論」』はマルクス主義的脱成長コミュニズムから、『資本主義の次に来る世界』はアニミズム的な世界観から環境問題への対処を進めるべきだとあります。また、『消費ミニマリズムの倫理と脱資本主義の精神』ではミニマリズムによって消費を抑えることは環境問題解決にも貢献するとしていたり、『何もしない』では注意経済に囚われる代わりに自然と戯れることを推奨していたりと、消費者としてのあり方に注目する場合もあります。


論点を整理してみる

資本主義の問題点

「資本主義に問題がある」という主張が同じだとしても、注目するポイントはそれぞれ異なります。資本主義が問題と考えられる理由を、格差拡大、労働環境、消費効果、環境問題の4つに分類してみました。

格差拡大:資本家と労働者(先進国と途上国)の間の経済格差
労働環境:労働者の身体的&精神的な負担
消費効果:消費活動が幸福度の上昇に寄与していない
環境問題:地球資源の過剰利用による社会維持の不可能性

また、これらの問題を引き起こすと考察される精神性も4つに分けます。

成長志向:経済成長を前提としている
勤労精神:働いてお金を稼ぐことが偉いという評価軸
欲望消費:消費を通して自己実現ができるという幻想
物質主義:目に見えるものや定量評価できる事象しか扱えない

資本主義への向き合い方

次に、資本主義への向き合い方を分類してみます。この向き合い方には社会レベルと個人レベルの2種類あります。つまり、資本主義という制度自体がどうあるべきかに注目する場合と、資本主義において個人がどのように生きるべきかに注目する場合があります。まず、社会レベルにおいては「肯定派」「修正派」「否定派」の3つに分類してみました。

社会レベル
 肯定派:資本主義は悪くない。むしろ、資本主義を加速させよ。
 修正派:資本主義の悪い部分を修正すれば問題ない。
 否定派:資本主義は悪い。よって、別の経済システムが必要だ。

「肯定派」は新自由主義、加速主義系の考え方です。資本主義の悪影響は国家等が余計な介入をするせいであり、むしろ資本主義を加速させれば問題は解決すると考えます。

「修正派」は修正資本主義系の考え方です。資本主義によって生活が豊かになったという実績を評価して、基本的なシステムは維持しつつ問題点を修正すれば良いと考えます。

「否定派」は社会主義系の考え方です。資本主義の制度である限りは前述の4つの問題は避けられないのだから、資本主義から別の経済システムへ移行すべきと抜本的な解決を考えます。

また、個人レベルでは、「肯定派」と「否定派」の2種類に分類します。

個人レベル
 肯定的:たくさん稼いで、たくさん消費する
 否定的:必要最小限を稼いで、必要分だけ消費する

「肯定派」は、資本主義はお金が全てであることを受け入れて、できるだけお金持ちになろうとするタイプです。労働者から資本家への転向を目指す、FIREを目指すなども含まれます。

「否定派」はたしかに資本主義社会ではお金が必要となるが、稼げば稼ぐほど幸せになれるわけではないとし、生活費を賄うだけ稼げば十分であると考えます。ミニマリズムなどが含まれます。


ポスト資本主義のアイデア

資本主義の問題点を解決するためのアイデアも様々提案されています。こうしたアイデアの中から代表的なアイデアは、精神面、労働面、消費面、法律面で分類できそうです。

精神面:脱成長の啓蒙
労働面:労働時間の短縮
消費面:過剰消費社会からの脱却(使用価値への回帰)
法律面:私的所有の解体(公共財やコモンズの復権)

精神面:脱成長の啓蒙

資本主義の問題点はイデオロギーにある、つまり、成長志向、勤労精神、欲望消費、物質主義という精神面の変容が必要というアイデアです。たとえば、国家が毎年2%のGDP成長をしていくことよりも人々の労働環境や地球環境を改善することを評価するなど、人々の意識変容が必要であると唱えます。

労働面:労働時間の短縮

ほとんどの本で労働時間を減らすことが提案されていました。もちろんお金を稼ぎたい人、体力がある人は長時間労働をする自由もありますが、問題は全員が週40時間(+残業)の労働をしなければならないこと。それよりも少ない労働時間は正社員としては実現が難しいし、それよりも短い時間で労働したい人は「プロ意識に欠ける」「やる気がない」と評価されます。こうした「労働時間が短い=怠惰」という認識は、育休や産休などを取りづらくもしています。

消費面:過剰消費社会からの脱却(使用価値への回帰)

生産と消費は裏表の関係にあるので、労働環境を見直していくのに合わせて、消費活動も見直しが必要です。たとえば、幸福度の上昇に寄与するお金の使い方を考え、個人が社会的ステータスをアピールするための消費ではなく、福祉や教育などにお金を投入するべきというアイデアです。広告が消費者を煽りすぎているので制限する、SNSなどのコンテンツを見ないようにするなども含みます。

法律面:私的所有の解体(公共財やコモンズの復権)

歴史を振り返ると、資本主義は誰のものでもない自然を誰かの所有物として独占すること(囲い込み・エンクロージャー)と紐づいています。『資本論』においても、経済活動が成立する前提は所有権にあるとしています。取引は所有権の交換であり、資本家と労働者を分けるのは生産手段を所有していているかどうかです。

このように、「私的所有」の概念が(法律で)認められていることは資本主義の前提です。ポスト資本主義を考えるうえで、この私的所有を疑ってみるというアイデアがあります。たとえば、コモンズのようにコミュニティで所有するあり方を模索する。また、法人として組織に所有権を持たせるように自然にも所有権を与えるなどがあります。


まとめ

資本主義を論ずる本を何冊か読みながら共通する要素を見ていくことで、資本主義という漠然とした概念が整理できてきたように思います。最後にあらためてポイントを列挙して終わりにします。

資本主義の問題点
・格差拡大:資本家と労働者(先進国と途上国)の間の経済格差
・労働環境:労働者の身体的&精神的な負担
・消費効果:消費活動が幸福度の上昇に寄与していない
・環境問題:地球資源の過剰利用による社会維持の不可能性

上記の問題を引き起こす精神性
・成長志向:経済成長を前提としている
・勤労精神:働いてお金を稼ぐことが偉いという評価軸
・欲望消費:消費を通して自己実現できるという幻想
・物質主義:目に見えるものや定量評価できる事象しか扱えない

資本主義への向き合い方
社会レベル
 肯定派:資本主義は悪くない。むしろ、資本主義を加速させよ。
 修正派:資本主義の悪い部分を修正すれば問題ない。
 否定派:資本主義は悪い。よって、別の経済システムが必要だ。
個人レベル
 肯定的:たくさん稼いで、たくさん消費する
 否定的:必要最小限を稼いで、必要分だけ消費する

ポスト資本主義のアイデア
・精神面:脱成長の啓蒙
・労働面:労働時間の短縮
・消費面:過剰消費社会からの脱却(使用価値への回帰)
・法律面:私的所有の解体(公共財やコモンズの復権)

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