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A kid like Jake~ジェイクみたいな子~

2018年のサンダンス映画祭で評判だったという映画をDVDで観た。

ニューヨーク、ブルックリンに両親と暮らす4歳のジェイクは早熟で、賢くて、想像力豊かな愛らしい「男の子」。
彼の学校選びに奔走する中で、もっと関わる人や環境が広がっていくことになる時を迎えて浮かび上がってきたこと。ミニカーや男の子らしい遊びよりも、妖精やお姫様ごっこに興味を示すジェイクをめぐって、両親やその友人、プリスクールの校長たちが思いまどい、意見を言い合い、道を見つけていく。

単純に幼い子供にジェンダー・アイデンティティの危機が起きた、という話ではない。

作品の題名が「A kid like Jake」となっているので、あくまで主人公は自分の性認識に混乱する子供で、それに巻き込まれ翻弄される親の話かと思いきや、「自分の子供に親としてできることは何なのか」を模索しながら夫婦として自分たちを見つめなおし取り戻したうえで、あらためて子供と共に歩んでいくカップルの再構築の物語だ。

いまどき、「そういうことは起こりえる事象」であって、その自分の志向はひょっとしたら世の中に受け入れられないのかと気づき始めた我が子に、親としてできることは「守ること」だと再認識しながら、それを包含しながら「家族」として次の世界の扉を開けていこうとする夫婦を、クレア・デインズとジム・パーソンズが実に繊細に、巧みに演じている。本当に二人共、ものすごく上手い。

この夫婦は、とにかくよく話し合う。話し合う、というか、よく喋る。
90分ほどの尺の中で、何度も出てくるベッドルーム。二人にとって一番親密な場所、という暗示だろうか、ここで様々な会話が交わされる。そしてキッチンで、時には片方は歯を磨き、片方はフロスをかけながらのバスルームで。

ここは、「察してよね」を求めがちな日本人ではなく、あくまでも「言わなきゃわからない。ちゃんと言葉に出してぶつけあおう。」のカルチャーであることが幸いしているんだろうなあとうらやましく観た。これは、お互いのつながりを諦めない、自分をわかってほしいけれど相手のことも理解したいという姿勢の表れでもあるだろう。

二人にとってなんとも耐え難い、悲しい事故があった後で、妻が「ここにいないで。よそに行って。」と言うのに夫は「行かないよ。ここにいる。」と答えてなおも言葉でやりとりを続けようとする。

時には、世間一般からのいわゆるLGBTQに対する辛辣な意見に思わず戦う姿勢になってみたり。
「どうして女の子はズボンをはけるのに、僕はスカートをはいちゃいけないの?」と息子に問われて明確な答えを出せない父親。
息子のジェンダー志向をわかっていながら、それを指摘されさらには入学審査の武器として使うことを提案されてひどく動揺する母親。
子供同士の間でもジェイクは「何かが違う子」として扱われ始めているのにも幾度も遭遇し、もう自分たちの繭の中だけにくるんでおけなくなったことを自覚せざるを得なくなってくる。
「他の子とは違う」ことよりも「ジェイクはジェイク。自分たちの掛けがえのない大切な、愛する、守るべき子」としてこのまま堂々と進んでいけばいい、とまた歩き始める家族。

ひょっとしたら、日本よりよほど多様性を受け入れられるニューヨークだから成立することなのかもしれないと思いつつも、よくぞ世に出してくれた、と製作者にも感謝したい。「今」に必要な、大事な作品。
日本での公開はとても限られた場でしかなく、今回DVDを購入しての視聴になったけれど、買ってよかったとつくづく自分を褒めている。


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