見出し画像

【23-11-23】本と、音楽。意識の流れ。:渋谷本屋難民。

●東急本店のジュンク堂が消失してから、渋谷は本屋難民で溢れかえっている。そんなふうに感じている本キチは多いだろう。わたしもそのひとりだ。いやいや本屋いっぱいありますやん、という人もいるかもしれんけど、事はそれほどシンプルではない。青山にある書店はたしかに品揃えは楽しい。売れてる人文書はそこそこ揃ってるし、海外文学も売れそうなのは発売日に並んでたりする。『WORKSHIGT』といった雑誌が確実に置かれているのも大きい。もう、それだけで充分じゃないか。といいたいが、一方、よりマイナーな出版社の人文書や新しい岩波文庫、岩波新書がフルに装備されているというわけではない。いたしかたないとはいえ、世界の本キチにとってちょっと残念ではある。代官山の本屋も話題の売れてる人文書はたいてい抑えている。しかし抑えていないこともある。つまり確度が高くはない。もしかしたら倉庫にあるのかもしれないけどそこはジャストインタイムでお願いしたい。それよりなによりの問題は、ここは渋谷ではないということだ。遠い。やはり腰が重い。だから目当ての本が入ってなければ心身ともに落ち込む。大盛堂にも助けられることはある。例えば、発売前から完売必至といわれていた文芸誌を朝一に抑えるとか。でも規模には抗えない。西武はどうだろう。移動して以来、後述する本店の血はほぼ引いていない。加えて、エスカレーターとかややこしい。モディはよくわからない。求めていた本がなかったことが続いて行かなくなってずいぶんたつ。スクランブルのラッシュをなんとか超えた後にさらに控える信号の長い交差点、からのエスカレーターは西武よりシンプルとはいえ面倒くさい。
●そう、論点は、品揃えに加え、確度、距離。この観点でいえばじつは日常使いとしてベターなのは啓文堂なんですよね。岩波文庫/新書も発売日には並んでるし、海外小説も要所は抑えてる。「これはたぶん入ってないよなあ、と思っていた本が置かれていること」が、「あるべき本がないこと」より多く、その点で信頼に足る。とりあえず週1回チェックするべき書店ではある。とはいえ物足りなさは否めない。戦艦からスケールダウンしても駆逐艦であり続けたブックファースト、眠らない山下書店、絶滅危惧種となってしまった旭屋書店も頑張ってた。そしてジュンク。渋谷にかつて王国だった面影はない。
●では、渋谷の本キチはどうしているのか。そう、救ってくれたのは、紀伊國屋書店新宿本店。いやいやいや電車乗りますやん。距離問題クリアしてませんやん。渋谷ちゃいますやん。ですよねー。でもね渋谷の東の方を始点としたとき距離は意外と気にならないんですよ。副都心線6分、シンプルな地下道5分。もしかしたらかつてのジュンクより気分的に楽かもしれない。そして、なにより狙った本が確実にある。なんなら狙ってない本も見つかる。事前にネットで店頭在庫もチェックできる。あなたの時間を決してムダにしない。そんな感じで、渋谷の本キチ、つまりわたしはかなり救われている。そんな紀伊國屋書店新宿本店の先週のラインナップは以下。ワンストップで揃う本屋さんは……まあ渋谷にはないな。
●「結局、買う本」というのがある。なんらかの心理的・物理的障壁により躊躇していたが、なんらかのトリガーにより買われる本。その逡巡は、わずか3日の場合もあるし1年近く続くこともある。『パピルスのなかの永遠』(イレネ・バジェホ・見田悠子訳/作品社) は半月ぐらいか。背中を押したのは、「書物の発明は破壊に対する私たちの粘り強い戦いにおける、最大の偉業かもしれない」という惹句と、柳原孝敦氏の「ボラーニョの『糞の嵐』」の件のポスト。
●岩波文庫、岩波新書は毎月のルーティーンなので、先述したように発売日前後に店頭に並ぶことは重要。今月は、まず『精神分析入門講義 下』(フロイト・高田珠樹他訳/岩波文庫) 。まあ上巻だけしか買わないってことはないですよね。そもそもこのフロイトの講義は講義っぽくて、かつ精神分析への諦念のようなものもつまびらかに語るため楽しく読める。
●そして、岩波現代文庫からは柄谷行人の『帝国の構想 中心・周辺・亜周辺』。「亜周周辺」という概念はなんか覚えていて、でもたぶん青土社版はは読んでなかったはず、家にないよな。といった不安がつきまとうことが増えてきた。安心してください。買ってないです。ということで直近の著作が揃った。
●岩波新書は、『社会学の新地平ーウェーバーからルーマンへ』(佐藤俊樹)。「から」だけど、間の話はなく両極の2人を掘り下げる。どうやら「合理」と「組織」に着地する話のようだ。まったく予期しなかった展開が楽しい。
『文学ムック ことばと vol.7 特集:ことばとことば』(書肆侃侃房)のような雑誌を確実に抑えられる店はそれほど多くはない。紀伊國屋でさえ少しわかりにくい場所に並んでいた。今号は一区切りということらしく、書き手が濃厚である。木下古栗と佐川恭一が並んでよいのでしょうか。
●ということで、家に返ったら、文フリで販売されていた。哲学の劇場(山本貴光+吉川浩満)の『人文的、あまりに人文的ー同人版#001』『佐々木敦による保坂和志(仮)』の通販が届いていた。これはまた別の機会に。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?