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ソクラテス~プラトンの入口『ソクラテスの弁明』他(改訂)


Life is a horse
and either you ride it
or it rides you.

①「西洋哲学の祖」ソクラテス


時は紀元前400年頃の古代ギリシャに遡ります。

この時代の哲学は、プロタゴラスに代表される「相対主義」が主流でした。

「世の中に絶対的なことなどないのだ」「価値観は人それぞれであり、状況次第で変わるものなのだ」という考え方です。

それはある面において柔軟な考え方であると言えます。
しかし一方で、何でも「時と場合による」で済ませてしまっては「高い理想(イデア→後述)や真理を求める」という姿勢が欠落してしまうという一面があります。

民主主義国家であったこの頃のギリシャ(アテナイ)では、このような相対主義が政治の腐敗を招いていました。

選挙で勝つためには、多くの票が必要です。
それを手っ取り早く達成するために、弁ばかり立つ政治家が「確固たる理念」よりも、その場しのぎのもっともらしい詭弁で人気を集めてしまっていたのです。


「哲学の祖」と呼ばれるソクラテスが登場したのは、このような時代でした。

Thou shouldst eat to live;
not live to eat.


彼は路上で人をつかまえ、「問答法」というかたちでの議論を行うことを日課としていました。


問答法とは、特定の命題を相手に与え、その回答に対して質疑を重ねていくものです。

愛とは何か?正義とは?嘘は悪なのか?等々・・・ありとあらゆる質問をソクラテスは世間的に「賢者」と呼ばれている人々に投げかけていきました。

それは、相手を言い負かすために行っていたのではありません。

「分かっているつもりの事でも、立ち止まってとことん考えてみましょうよ」、という「哲学の姿勢」そのものを体現していたのです。


例えば、勇気とは何か?「敵から逃げずに戦い抜くことだ」
では、幾千もの敵に囲まれたとき、逃げない事は勇気なのか?
「その場合は逃げることも勇気だ」
では質問にもどる。真の勇気とは何なのだ?
「・・・」

といった具合に議論は延々と続きます。
すると、ソクラテスの指摘を論駁できる者は誰一人いなかったのです。

ソクラテスは何か結論を出すために問答を行っていたのではありません。
彼の目的は「無知の知」ということを人々に認識してもらうことでした。

「知っているつもりになってはいけない。自分の無知を自覚して、真理を追究することこそが善く生きることだ」ということがソクラテスの考えの核でした。

また、それが神から与えられた自分の使命と考えていたのです。

「ソクラテスの死」(1787) ~ルイ・ダヴィッド(フランス)


当時のアテナイでは、弁論術が隆盛でした。また、雄弁なだけの政治家が民衆の支持を得ていました。

そういう詭弁者たち(ソフィスト)をことごとく論破していったため、その姿は若者たちの憧憬を集めました。

しかし同時に多くの嫉妬や恨みを買い、裁判にかけられ、投票の結果死刑判決を受けてしまいます。

恩赦を受けることは可能でした。罪状を認めて反省をして罰金を払い、二度と問答活動を行わないことが条件でした。

しかしソクラテスは「この状況から逃れるために自分を曲げることは、私の生き方ではない」、と進んで死を受け入れたのでした。

よい政治とはどのようなものなのか?理想の国家とは?人々の真の幸福とは?‥‥人間と世界に対する多くの疑問はいつの世も答えが求められます。

しかし、無知である人間は真の理想には到達することはできない。

ならば無知を自覚した上で、よりよい世界を求めて考え抜くこと、これがソクラテスが身を挺して示したことでした。

ソクラテスは著書を一切残していません。

その言動や思想が弟子のそれはプラトンらに受け継がれ、「正解」のない問いかけと議論が2000年以上重ねられて哲学(philosophia~「知を愛する」の意)は今日に至っています。


ソクラテス(紀元前470年頃 – 紀元前399 古代ギリシア・哲学者)
西洋道徳哲学の基礎を築いた人物の一人。ソクラテス自身の著述は残されていないが、弟子のプラトンなどの著作に師として多数登場し、その思想をうかがい知ることができる。


②プラトンの「イデア」とは?


様々な解釈や翻訳がされている言葉です。少しでも「分かりやすさ」を優先して意訳しましたが、それでも、意味をとらえづらい言葉ではあります。さらに単純化すると、「永遠」のもとにあって「時間」とはその一瞬の「影」に過ぎない、といったところでしょうか。


プラトンはソクラテスの元で哲学を学びました。
そして師の思想を継承・発展させて、著書に残しました。

「イデア論」はプラトンの思想の中で大変に重要なものです。


それは後世の西洋哲学の源流となり、キリスト教にも影響を与えたとされています。

「イデア」とはざっくりと「物事の理想的(ideal)な姿」をさします。

それが私たちの知覚を超越した「イデア界」にあり、私たちが知る世界の全てはイデアの影(似像)である、というのです。


例えばこの世の「りんご」を私たちは知っています。

しかしそれはイデア界にある「理想としてのりんご(完璧なりんご・りんごの本質)」が落とす仮の姿だというのです。

このように万物の大もと或いは最上層にイデアがあり、それを私たちは見ることも触れることもできない。この考えがイデア論の根幹にあります。

また、物だけでなく、正義や美といった概念にもイデアがあり、「善」のイデアは知性が目指すべき最高のイデアとされています。


さらに、私たちが知る「時間」のイデアこそが、移り変わることのない「永遠」なのです。


プラトン(紀元前427ー紀元前347~古代ギリシア・哲学者)
ソクラテスの弟子。弟子のアリストレスとともにアカデメイアという名で学校を開き、西洋哲学の大きな礎となった。主著「ソクラテスの弁明」「国家」「饗宴」等。


2024.4.27
Planet Earth


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