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モームの入口②「コスモポリタンズ」


(ややネタバレ)
「月と六ペンス」(1919)等の長編で知られるモームは、短編の名手でもあります。

いくつかの短編集がありますが、中でも10ページ前後の小話が30篇も収められている「コスモポリタンズ」は、少し時間が空いた時などに楽しめる一冊です。

生涯世界各地を旅したモームが、旅先で出会った個性的な人々を取り上げていきます。短い中で展開される話は切れ味鋭く、まさに職人芸と言えます。

その中のひとつThe Bum(浮浪者)は、エンディングの苦みが際立った作品です。

「私」はメキシコの港町に一人、休暇で滞在しています。
屋外のカフェで時間をつぶしていると、浮浪者たちが物乞いをしに集まって来ます。その中に一人、ひときわ目を引く男がいます。

男はがりがりに痩せこけ、赤毛の髪とひげを伸ばし放題にしています。
しかし、目立つのはその異様な風貌だけではありません。
他の浮浪者は客たちにしつこく金を無心するのですが、この男は客の前にただ黙って立ち続け、やがて諦めて別の席へと去っていくのです。

この男にはどこかで会っている、それも会話を交わしたことさえある・・・
と私は感じます。

私は翌日もカフェに行きます。男はその日も無言で無心をしています。しかし、私にはもう寄って来ません。
おそらく相手はこちらが誰であるか、すでに気付いているのだろう・・・しかし私はなかなか思い出せません。

すると、追い払うために警官が鞭で男を叩きます。その時、私は20年も前に会っていた、プライドの高い一人の赤毛の若者を思い出します。そして私は立ち去った男の後を追うのですが…
                       ⇒「人間の絆」に続く

ウィリアム・サマセット・モーム
(1874 - 1965~イギリス・小説家、劇作家)

画家ゴーギャンの生涯をもとにした小説「月と六ペンス」(1919)や「人間の絆」などで大きな注目を集めた。読みやすくわかりやすい文体とストーリーの面白さで大衆の人気を獲得した。


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