美しき狂騒の世界

2023/9/16

オールドダッカに降り立ち、リキシャに乗る。
3輪の自転車を漕ぐ運転手、その背中越しに見える景色。
それはまるでゲームの中の様な、はたまた戦後にタイムスリップした、とても現代とは思えない狂騒の世界だった。

細い路地が入り組み、迷路と化した道。
無数のゴミや土砂、廃材が山積みにされ、その横で寝ている人、犬、ヤギ。
コンクリート打ちっぱなしのビルは黒く染まり、見上げた空を阻む、異常に絡み合った電線。

一見、崩壊したようにも思える街並みの中で、人々は活気に満ちている。
非常に前向きで、そこから放たれるエネルギーは、建物の隙間から降り注ぐ陽光と相まって、どこか悲しく、どこか美しい。
その神秘的ともいえる光景に心を揺さ振られる。



スターモスクに着いた。
イスラム教徒の礼拝所なのだが、その名の通り星型の模様が無数に散りばめられた、珍しいデザインなのだ。
そして日本人にとっては目玉となる、富士山の絵柄が入ったタイルを見ることができる。

靴を脱いで中に入ると、早速近づいてきて中を案内する少年と老人。

『あぁ、これチップあげるパターンだな』

案の定、催促される。
40TK(約54円)を渡すと、その老人は眉をひそめ、納得のいかない様子だ。
近くにいた中年男性が私に忠告する。


この方は牧師だ、100TKあげなさい





嫌です



ゆっくり見学する事もできず、足早に去る。

少年はまさかモスクの外にまで出て、私の後をつけて来た。

しかし、積極的に催促はしてこない。
ただ無言で私の後ろをついて歩いている。
時折、周りの現地人に
「ジャパン!ジャパン!」
と嬉しそうに声をかけながら。


「ごめんね、金は無いんだ」


そう言うと少年は少し怯んだが、再び私の後ろを、今度はやや離れてついて来る。
無言で何十メートルも、何百メートルも。

やがて1kmほど歩いたところで、私は帰りのバスに乗った。

後ろは振り向かなかった。

流石にバスの中にまでは入って来ないようで、少年は最後まで大人しかった。
物乞いではないのかも知れないが、今までに無い謙虚さに少し罪悪感が湧いた。

おそらく少年は
『日本人は親切で金持ち、だからお金をくれるはず』
そう思っていたのだろう。

そして私は今回のダッカ訪問で、幾度となく人の親切と友好的な態度に触れ、助けられている。

なんとなく、そんな恩を仇で返した気分になり、移るバスからの景色を複雑な心境で眺めていた。


バングラデシュ、ダッカで治安の悪さや危険は今のところ感じない。
発展途上の街と大喧騒の中で、人々は明るく親切で活力に満ちている。



これからバングラデシュは発展するんだ



という希望が垣間見える。

実際、去年末には新しい鉄道が開通され、それには日本の技術やノウハウが採用されている。
数日前には高速道路も開通したようだ。


まさに発展の最中。
まずは明日、その新しい鉄道に乗ってみよう。

2023年3月から世界中を旅して周り、その時の出来事や感じた事を極力リアルタイムで綴っています。 なので今後どうなるかは私にもわかりません。 その様子を楽しんで頂けましたら幸いです。 サポートは旅の活動費にありがたく使用させて頂きます。 もし良ければ、宜しくお願いいたします。