胡乱なるウーロン茶

「胡乱な」世界観のショートショートを毎週火・木・土曜日に更新。 作者: たくばや

胡乱なるウーロン茶

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最近の記事

応募殺到の生け贄

「よろしければ電波オークションにご参加してみませんか」 駅前の広場を通り過ぎた時そんな風に声をかけられた。 世界的に人口が増えすぎた現在地球上にもう余った土地はなく、ある人は深海に住処を求め、ある者は火星を目指して旅立ったり、それぞれが生きる場所を探さなければいけない時代だ。 そして彼の話によると一部の層、特にそれ程に気概を持って生きていない者たちの間では流行り始めているのだという。 電波になって生きて行くという選択肢が、だ。 (その状態で生きている、と言えるのかは諸説ある

    • 老人のいない村

      かつて日本には除夜の鐘といってお寺で鐘を108回鳴らす習慣があったらしい。 何故108回なのかというと人間の煩悩がそれだけあるとされていたようだ。 諸説あるが一説によるとその数は四苦八苦という言葉から来ており、 四苦4×9=36 八苦8×9=72 足して108 よって煩悩は108あるのだという。 四苦は生苦、老苦、病苦、死苦で、 八苦は四苦に、愛別離苦、怨憎会苦、求不得苦、五蘊盛苦の四つを加えたもので、 仏教という古来より存在した宗教によって、それらが人間のあらゆる苦しみだと

      • 唐突な隠蔽

        夫と一緒に部屋の大掃除をしている際、本棚裏の埃を取ろうとした時だった。 埃取り用の伸縮モップが何か固い物に触れた。 なんだろうと思い、なんとかこちらに手繰り寄せてみる。 CDであった。 そのCDケースには見覚えがある。 「どうしたの?大丈夫?」 固まっていた私に夫が声を掛けてきた。 「何でもないよ」 私は咄嗟に夫に見られないようにそれを隠した。 掃除がひと段落つき、夫は飲み物を買いに出かけた。 彼は私がこれを隠したことに気がついていなかっただろうかとずっと気が気でなかった。

        • マルチ商法

          普段使ってる通販サイトから試供品が送られてきた。 サプリメントだ。 鉄分などいくつかの人間に必須な栄養素をを補強してくれるらしい。 そういえばこの前受けた健康診断で貧血気味って言われたっけな。 私は軽い気持ちで飲んでみることにした。 翌朝目覚めると心なしか体調がいい気がする。 スマホを見ると通販サイトからメールが届いている。 お送りした試供品のサプリメントはご利用頂けたでしょうか? もしよろしければご感想をお送りください。 ご感想を送って頂いた方には弊サイトでご利用頂ける

          攻撃は最大の

          あくびは人にうつる。 あくびをする音を聞いたり表情を見ると人はあくびが出てしまう。 そして私は遂に成功したのだ。 聞けば必ずあくびが出る音声の作成にである。 これをどう活用したものか私は考えた。 何か良い活用法があるはずなのだ。 私はそれを売ることにした。 どんなにシリアスなシチュエーションでもこれさえ聞かせることが出来れば確実にあくびをさせることが出来てしまう。 様々な需要がある。 特に重要なビジネスシーンなどにおいてあくびをすることは失礼にあたり、相手に意図的にあくびを

          大橋の○み復活の宴

          かつて子役として活躍したが、惜しまれつつも学業を優先するために引退した大橋の○み。 その彼女が芸能界に戻ってくるというニュースは大きく報道された。 彼女の代表曲「崖の上のポニョ」をテレビなどで聞く機会が増えた。 その頃からだっただろうか、私の身に奇妙なことが起こり始めた。 初めは水滴が皮膚に当たる感覚。 雲一つない快晴の日や、部屋の中にいる時に急に小さい水の粒が肌に触れたような気がするのだ。 しかし原因を探しても全くわからない。 それほど気にしていなかったが、頻度が段々と増

          大橋の○み復活の宴

          闇素麺

          目に入る建物も道路も看板も何もかもがカラフルで目に優しくないことこの上ない。 随分昔に色を自由に使うことが法で禁止された。 いや、正確にいうと色を付けることを強制されるのだ。 それもなるたけ派手な色を。 その時代にはとにかく人々が個性を発揮することの重要性が叫ばれ、没個性的であると政府に見做されたことはどんどん処罰されるようになっていった。 取り敢えず建物の色をグレーやブラウンにすることも認められない。 デザインをわざわざ申請して余程独自性が認められなければ白や黒に塗ることも

          削り取る商売

          自分がしているのは所謂阿漕な商売なのだろうか。 そんな疑問は常に自分の中にあった。 無料点検をする等と言って家庭を訪問してはやれ屋根の瓦がずれていて危険であるとか、水道の水が汚染されており病気になる、などと不安を煽り工事の契約をしたり高額の商品を売るような商売。 実際のところ自分には危険かどうかなどはわからない。 だがそのような事を気にするたちではないと自らを認識していた。 買う方が悪いのだと思っているつもりだった。 彼らが必要と思っているから買うのだと。 しかし知らず知らず

          気の抜けたケバブ屋

          今や若者に大人気!急増しているケバブ屋。 つい先日キッチンカーでケバブ屋を開業したというIさんにお話を伺いました。 どんな場所で売っていることが多いですか? 「普段は大型商業施設の前で売っていることが多いですけど、イベントとかあればどこでも行きますよ。やっぱり人が集まる所の方が売れますからね」 どのような経緯でケバブ屋を始められたんですか? 「経緯ですか?特にないですよ。出来る仕事が他になかったので」 以前は他の仕事をされていたことはあるんですか? 「前は普通に営

          気の抜けたケバブ屋

          ボーボー

          久しぶりに実家に帰ったら妙な心配をされた。 母親が俺の顔を見るなり 「何があったの、大丈夫?」 と言うのだ。 だが別段何かがあったわけではない。 偶々近くにいたから寄っただけのことだ。 そう伝えると母親は釈然としない様子で 「そう…」 とだけ言い、夕飯も勧めてくれた。 ありがたく頂いていると父親が帰ってきた。 そしてまたしても俺の顔を見るなり 「何があったんだ」 と言った。 だから別に何もないのだ。 そう伝えると父親は 「そうか…」 とだけ言って一緒に夕食を食べた。 実家を

          絶壁

          博物館に来たはずだ。 最新のテクノロジーを紹介してくれる大人も子供も楽しめる施設。 そんな建物で私は何をしているのだろう。 全ての展示物を見終わり、外に出るつもりがレストランに来てしまった。 先程下りてきた階段は間違いだったのか。 そう思い階段を上るとその先は売店で 私は出口に向かいたいのだ。 食事もお土産も興味は無い。 すみません、出口にはどうすれば行けますか? スタッフに尋ねてみる。 懇切丁寧に説明してもらいその通りに進んだ筈が何故なのか私が辿り着いたのはレストランであっ

          ボッタクリ場

          1960年、アメリカ。 一人の男が武器屋に入る。 「銃を一つくれ。 安いのだ。安ければ安いだけいい」 「じゃあこいつだ」 一丁の拳銃をカウンターの上に置く店主。 「今ならたったの100ドル」 「おい、馬鹿にするな。 そいつはサタデーナイトスペシャルってやつじゃあないのか? この辺りならガキでも持ってる銃だ。 その質ならもっと安いだろ。 50ドルでどうだ」 「悪いな、この店では100ドルで売ってるんだ。うちで一番安いのはこいつだ」 「ふざけるな、ボッタくるんじゃねぇ」 男は持っ

          コドモオオトカゲ

          電車を降りると聞いたことのあるメロディーが耳に飛び込んでくる。 なんだったかな、この曲。 東京からおよそ2時間、随分と長く感じられた。 一目見たくてここまで来たのだ。 コモドオオトカゲの赤ちゃん、コドモオオトカゲを。 幼い頃図鑑でその存在を知ってからコモドオオトカゲを実際にこの目で見たいと願ってきた。 しかし現在日本で飼育している施設はなく海外に行ける準備が出来るまで無理かと諦めていた矢先、コモドオオトカゲの赤ちゃんがこの街の小さな動物園に迎えられるという話を聞いたのだ。

          コドモオオトカゲ

          他称犯罪予備軍

          降って湧いたように訪れた、突然の人類存亡の危機。 宇宙人の来訪、それも地球人類に対して服従を求める恐るべき侵略種族。 その時に世界中からこの状況を打破すべく集められた者たちこそが他称犯罪予備軍である。 彼らは決して犯罪予備軍である事を自称したりはしない。 彼らは何よりも社会に溶け込んで生きる事をただ望んでいる。 この度、人類の希望を託された本来であれば英雄と呼ばれるべき彼ら四名を紹介しよう。 まずは膝窩接触のジェフ・マクルーア 今回の重要なミッションのため、誰にも従うことのな

          深海生物

          友達と大学の学園祭に行く。それも女子と一緒に。 そんなイベントが灰色の高校生活を送っているこの俺に発生するとは正直思っていなかった。 まぁ別に男の友達、オタク仲間は普通に何人かいるのだが、女子とは全く関わり合いのない俺にとっては相当のことである。 その女子というのが川間田さんであるとしてもだ。 川間田さんはその、俺がいうのもなんなのだが見た目は普通に可愛い方だ、と思う。 だが中身の方に少々難があるというか、些か苛烈すぎるところがあるようだ。 男子と喧嘩になっていきなりその男

          おもちゃじみた街

          この街の地下には穴がある。深い深い縦穴だ。地球の真ん中まで通じていると言う者もいる。古来より必ず何者かがその穴を守り暮らしてきた。そのお陰でこの街は平穏を保てている。ではその穴は一体どこにあるのか。ごくごく普通の商業ビルの地下、しかし誰も地下への通路があることなど知らない。普段決して開かれることのない扉の向こう、何百段もある階段を降りた先にその穴は確かに存在している。 朝から頭が痛かった。気が付くと俺はデパートの前にいる。そして明らかに客が開けてはいけないドアを開けると向こ

          おもちゃじみた街