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ここが私の... 夏の思い出Vol.2

2年半ぶりにバンコクに降り立ったとき、まず感じたのは街のニオイだった。日本では嗅ぐことのない、特有のこのニオイ。路上で売っているフルーツや食べ物、車やバイクの排気ガス、そこに下水のニオイもちょっと混ざって、湿気と熱気と一緒に漂ってくる。

「こんなニオイ、していたかな?」と思う。住んでいた頃には感じなかったニオイだ。

いや、バンコクに住み始めた当時は、きっとこのニオイ、あったんだ。バンコクに馴染んでいくうちに、いつの間にか感じなくなっていたのだと思う。私は、バンコクでもう一度「よそから来た人」になったのだ。

今回は、本帰国して以来のタイ。夫は出張で一度来ていたけれど、私にとっては待ちに待ったこの時だ。バンコクとサムイ島の10日の旅程。そのうち、バンコクでは急遽、夫の友達夫婦が現地合流することになった。

彼らは、初タイにして2泊3日の弾丸旅だ。元在住者としては、案内役として張り切りたいところ。

主要な観光スポットを巡っていく。
ワット・ポーに行って、トゥクトゥクにも乗って、
カオサン通り、マッサージ屋さん、ローカルなバス、
タイ料理、ルーフトップバー、ナイトマーケット...。

バンコクの街には観光客も多くて、コロナ前の活気が戻ってきているようだった。

当時住んでいた街にも行った。人気の食堂やお土産目的にショッピングモールにも行った。勝手知ったる街だと思っていたのに、色々変わっていることもあって、案内しながら周り道することになったり、行こうと思っていてお店がなくなったりしていて、「ああ、私、もうここに住んではいないんだ」と自覚させられたような気もする。

本帰国したときはコロナ禍で、「今までみたいに気軽に戻ってこれないだろうな」と思ってバンコクをあとにした。

普段なら、日本に一時帰国をして住む部屋を決めてから、本帰国するところをそれが出来なかった。本帰国後は、まず2週間隔離で待機して、それが明けたら部屋探し。部屋が決まったら、家電などを買って配送手配して...と。結局、ホテル暮らしが2か月くらい続いたのだった。
新しい暮らしを整えるのにはちょっと時間を要したけれど、それでもすぐに日本の生活に馴染んでいった。

バンコクには、ゆっくり馴染んでいったけれど、元の生活にはあっという間に慣れていく。それがちょっと寂しかったのだと思う。忘れてしまわないように、よくタイの話をしたし、ここでも何度もタイでの思い出話を書いた。

実際はもうとっくに、私の日常はこの街にはない。街のニオイにも馴染んでいないし。

怒涛の観光案内を終えて、弾丸旅の彼らを見送った後、私の心はなんだかぽっかりしてしまった。それは4人で行動してにぎやかだったのが、物静かな夫と2人になったことだけが理由じゃない。

サムイ島に移動したあとも、「なんか違う、何かを忘れている」そんな気がし続けていた。


今回のタイ旅行から1か月たった今、その「ぽっかり」の正体がわかった気がする。懐かしさを味わう時間をもっと欲していたということだ。
もちろん、案内をしながら4人で観光した時間も楽しかったのだけれども。

この街との再会をじっくり味わう前に、慌ただしく観光してサムイ島に移動してしまったものだから、気持ちが追いつかなかったようだ。

観光スポットよりも、毎日の買い出しでよく通った通路から見る眺めを懐かしむ時間とかが、私は欲しかったんだと思う。後から、気づいたことだから仕方ないけれど。

この街で生活していた当時、いつも同じ場所から街を眺めて、

今日のごはん何にしよう
この生活はいつまで続くのかな
何にもしていないな、私
お母さんになりたかったなあ
相変わらず、渋滞しているよね

とか、1人、心の中でつぶやいていたんだよ。

実は、バンコクで暮らしていた当時、積極的にタイの文化を勉強しましたとか、友達つくりましたとか、ボランティアしてました、とかそういうキラキラした時間の過ごし方はしていない。ほとんどの時間を1人で過ごして、あまり外出もせず、1人の世界に閉じこもっていたのだった。

タイに渡る前に持病を発症して、タイでの生活は療養も兼ねていたという側面もある。でも、本当はその時期に仕事も人間関係も行き詰っていたから、たとえ病気にならなくても、タイに住むことにならなくても、ひきこもることになっていた気がする。器以上のものを入れようとしちゃったんだろうなあ。当時の私は、とても疲れていた。

駐在妻という立場であれば無職でいいわけだし、メンツも保ちながら、堂々と引きこもれるという、ある意味での幸運を手にいれたのだった。

暑くて、カオスで、人が親切で、ときにルーズで、ときにカモられそうになりながら、アメージングで、センスがよくて、結局はマイペンライ精神な、そんなタイの生活で私は少しずつ癒されていったのだった。

「ここが私のアナザースカイ、バンコクです!」なんて、ね。


サムイ島編へ続く

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