コナンレビュー

05月26日-名探偵コナン第903話「似た者同士が犬猿の仲」 -矛盾を孕んだストーリー

「ツッコミと法律で楽しむコナン・アニメレビュー」第4弾。今回も第900話と同じくアニメオリジナルのストーリーでした。コナンたちのアクロバティックな立ち回りがメインの回が多かった5月でしたが、月末となる今回はミステリ回となりましたね。ただし、筆者の印象としては、致命的な伏線回収不足がみられた回に思えました。

1.放送概要

放送日時:2018年05月26日(土)18:00~18:30

原作:なし(アニメオリジナル)

登場したレギュラー人物:コナン・小五郎・蘭・目暮警部・千葉刑事・高木刑事

見逃し配信:https://www.ytv.co.jp/mydo/conan/

あらすじ:番組ホームページより引用

コナンたちはレストランで日売スポーツ記者の橋爪と同僚の加賀爪が言い争う現場に遭遇。2人は仲が悪いのに何から何までソックリだった。この後、橋爪は店を出て行くが、間違えて加賀爪のタンブラーを持ち帰る。夜、川原で加賀爪の遺体が発見される。死因はタンブラーのコーヒーに混入された青酸化合物による中毒死。加賀爪のタンブラーから指紋が検出された橋爪は重要参考人として取り調べを受ける。橋爪はアリバイを主張するが…

さらに詳しいあらすじ:公式サイト参照

2.橋爪と加賀爪の行動のおさらい

さて、まずは今回の被疑者(容疑者)である橋爪(メガネの大男)と加賀爪(メガネの細い男)の行動を振り返ってみましょう。最終的に明らかになった事実も含めて時系列で記載していきます。

1年前:大会社の社長が病死、橋爪と加賀爪が共謀して遺言状を隠匿

 勃発した親族間の争いを2人が面白おかしく記事にする。その後、親族同士の殺人未遂事件にまで発展したことを期に遺言状を破棄し、口をつぐむ。

 罪悪感に苛まれた加賀爪が真実を明らかにしようと橋爪に持ちかけた。橋爪はそれを拒否。真実が明るみに出ることを恐れた橋爪は加賀爪を殺害する計画を立てる。一方、加賀爪もまた橋爪を殺害する計画を立てていた。2人の犯行計画は酷似しており、手口の内容は「取り違えたタンブラーに毒物を入れて相手に返し、言葉巧みに乾杯して毒殺する」というものだった。

現在(アニメ冒頭):レストランにて橋爪と加賀爪が口論。最後に2人の同じデザインのタンブラーのうち加賀爪のものを故意に橋爪が持ち帰る。加賀爪はそれに気付いているにもかかわらず放置。加賀爪はこの時点で、橋爪が自分と同じ犯行計画で自分を殺害しようとしていることを悟った。

 加賀爪、犯行計画の最後の部分である「橋爪の死が自殺として処理された後、自分も後を追って死ぬ」というくだりを消去。悔恨の気持ちのない橋爪を生かして苦しめることを決める。

 橋爪、持ち帰った加賀爪のタンブラーに毒物を入れる。その後加賀爪を川原に呼び出す。

 加賀爪、所持している橋爪のタンブラーに毒物を入れる。車で川原まで移動。自ら毒を入れたタンブラーでコーヒーを飲む(自殺)。

 橋爪、川原に到着。既に加賀爪は絶命していた。驚いて立ち去り、タンブラーを洗浄して破棄。アリバイ工作のカメラを回収。

その後:川原で加賀爪の遺体が発見される。参考人として出頭させられた橋爪はアリバイを主張。

3.2人に成立する犯罪

ストーリーの妥当性を考える前に、今回の被疑者である橋爪、そして最終的に自殺してしまった加賀爪のそれぞれに成立する犯罪について検討しておきます。

【橋爪の罪】

今回、エンディングテーマに入る直前のコナンのモノローグで、ご丁寧にも「加賀爪さんに対する殺人予備と、遺言状を盗んだ容疑で橋爪さんは逮捕された」と言ってくれていますね。加賀爪が結局自殺だったという真相を受けて、じゃあ橋爪は何の罪になるの? という視聴者の疑問に答える意図でのモノローグでしょう。

殺人予備罪というのは、簡単に言えば殺人の準備行為を罰する罪です。通常の殺人罪はいわゆる既遂の罪であり、殺人未遂罪は実行の着手はあったものの犯罪結果の実現に至らなかった場合に成立する罪です。殺人予備罪は未遂よりもされに前の段階、犯罪の準備行為の段階で行為者を罰しています(参考)。殺人罪をはじめ、いくつかの犯罪について予備罪が設けられています。

次に、「遺言状を盗んだ」ことにより成立する罪とは具体的にどんなものでしょうか。刑法第259条をみてみましょう。

【刑法第259条】(私用文書等毀棄)
権利又は義務に関する他人の文書又は電磁的記録を毀棄した者は、5年以下の懲役に処する。

遺言状は上記の「権利又は義務に関する他人の文書」にバッチリあてはまります。また、同条の「毀棄」というのは、有形的に棄損する(破る、燃やすなど)だけでなく、隠匿することも含まれます。人の目から隠されてしまっては、その文書の効用が全く失われてしまいますから、燃やすなどすることと同じというわけです。よって、今回橋爪らは遺言状を隠匿した後に破棄していますが、最初に隠匿した時点で私用文書等毀棄罪が成立するというわけです。

【加賀爪の罪】

まず、既に亡くなっている者の罪について考えることの意味についてです。現代の刑事司法のシステムでは、死者について裁判で有罪・無罪の判決が下されることはありません(刑事訴訟法第339条第1項)。また、検察も被疑者が死亡している場合には不起訴処分とします(事件事務規程75条2項1号)。一方、被疑者が死亡している場合にも、警察は捜査に係る資料を原則として検察庁に送検します。それにより、捜査が適切に行われたかをチェックしたり、他の共犯者の行為との関連を明らかにすることにより量刑判断に組み込んだりするわけです。詳しくはこちら(リンク先は現実の事件を扱ったものなので注意してください)。

では、今回加賀爪にはどのような罪が成立するでしょうか。

1つは橋爪と同じく、私用文書等毀棄罪です(共犯)。

そして加賀爪にもやはり殺人予備罪が成立すると考えられます。加賀爪が実際にタンブラーに毒物を入れようとしていた時点で、彼は既に自殺することを決めていたでしょう。とすると一見橋爪とは反対に加賀爪には罪が成立しないようにも思われます。しかし、青酸化合物という毒物を入手した時点では橋爪を殺害する意図があったはずです。毒物の入手は殺人の準備行為に当たりますから、この時点で殺人予備罪が成立してしまうというわけです。

4.ストーリー設定の見過ごせない欠陥

さて、それでは今回の本題であるストーリー検証に入っていきましょう。逐一「橋爪と加賀爪の行動」を参照しながらみていきます。

【最大のストーリー欠陥】

ズバリ、今回のストーリーの最大の欠陥は、橋爪と加賀爪がなぜ犬猿の仲であるにも関わらず互いに似た行動様式を選び続けていたのかについての説明がなされていない点です。名前のみならず、手口に使われたタンブラーといった持ち物や、犯行計画という内心の部分まで2人は酷似していました。そして取調室のシーンでは、2人が同時期に偶然ほぼ同じ犯行計画を立てていたことについて、コナンが訝しんでいたはずです。通常のストーリーであれば、少なくともなぜ犯行計画が酷似したのかの合理的な説明がなされなければなりません。ミステリとしてストーリーをみたときに、「犯行計画の酷似」というのは推理する上でのピースのひとつとして捉えざるを得ないからです。それをもともとの設定である「2人は似た者同士であった」というキャラクター設定に回収し切ってしまうのでは、視聴者側としては消化不良感が拭えないわけです。たしかに、ストーリーに偶然的な要素を発生させて推理する側をミスリードするのはミステリの1つの手法ではあります。しかし、そうしたミスリードを仕掛ける場合、そのトラップ自体になんらかのメタ的な必然性がなければなりません。今回のように、「似た者同士の2人だったから犯行計画も酷似しちゃったんだー」とするのはあまりにも雑過ぎる構成ではないでしょうか。

【犯行計画の欠陥】

後追いを企図していた加賀爪はともかくとして、罪を逃れようとしていた橋爪の立場に立った場合、彼の犯行計画はかなり危ういものだったのではないでしょうか。タンブラーを取り違えて持ち去り、毒を入れて返す。この過程では自分に嫌疑がかけられる要素が満載です。まず、タンブラーの取り違えを起こすレストランで既に同僚に目撃されています。タンブラーの見た目が酷似していることもバレバレだったわけです。肝心の取り違えをする瞬間にも、コナンにバレてしまっています。その後、加賀爪を呼び出す過程でも、連絡を取った記録が残ってしまっています。さらに「殺害計画書」という形で決定的証拠を自分で残してしまっているのですから、お粗末というほかないでしょう。アリバイ工作にしてもかなり雑でしたね。

【加賀爪の行動への疑問】

加賀爪の一連の行動に対しては何点かの疑問を感じます。

加賀爪は計画実行の直前まで橋爪を説得しようと試みました。ところが橋爪は真実を明らかにすることを頑なに拒みます。そして、加賀爪の立てた犯行計画とほぼ同じ計画を今まさに実行しようとしていることに気付くのです。と、ここで1つ目の小さな疑問が生じます。果たして橋爪が故意にタンブラーを取り違えたことに加賀爪が気付いたとして、それがすぐ自分への犯行計画の実行、それも自分の計画と同じものの実行だと想起するかということです。この疑問点は、前述のストーリー設定への疑問ともやや重なります。ただ、このとき加賀爪は自身が作成していた殺害計画書を橋爪が何らかのタイミングで盗み見たのだと判断したと考えればそこまで矛盾は生まれません。

しかし、その後のコナンの推理にある「自分で自分を裁いたうえで、殺害容疑を相手に着せる。無理心中のつもりだったのかもしれない」という加賀爪の行為への解釈はいかがなものでしょうか。現に、橋爪に対する殺人罪の容疑はこうして晴らされてしまっているわけです。そしてその原因の1つは加賀爪が残した殺害計画書ではないでしょうか。少なくとも加賀爪が毒物を入手した動機は当初の計画の実行にあったわけです。すると、計画書を残してしまったことによって、加賀爪が一方的な被害者であるというミスリードが失われてしまい、真相にたどり着きやすくなってしまっているのです。本当に橋爪に容疑を着せたかったのであれば、橋爪は計画書の一部消去などという小細工じみたことはせず、計画書全体を記録媒体ごと破棄すべきでした。そうすれば、橋爪の殺人容疑が晴れずに終わるということも可能性としてはありえたでしょう。アリバイ工作まで行っていた橋爪が言い逃れすることはほとんど困難です。コナンの疑念も生まれなかった可能性があります。「橋爪が加賀爪の計画書を盗み見て犯行を決意した」という推測をはたらかせることを意図したとも考えられますが、裏目に出ているといってよいでしょう。

5.まとめ

いかがでしたでしょうか。今回のストーリーは、2人の者が互いに犯行を計画しており、加賀爪の計画変更もあるなど、かなり状況が複雑でした。また、コナンの推理の時点でやっと明かされた証拠もあるなど、情報の後出しが目立ちました。

ただ、やはりミステリという枠組みでこのストーリーをみてしまうと、どうしても消化不良感の残る筋立てだったと思います。特にコナンの30分verでは短い時間の中で出てきたエッセンスは全て手がかりと考え、それを矛盾なくつなげる推理を行うのが基本です。そういう意味で必然性を欠く偶然要素が何の解決も得ないまま終わってしまったのは残念でした。

次回に期待です!!! プレイバック回です!

次回:第107話「モグラ星人謎の事件(前編)(デジタルリマスター)」http://www.ytv.co.jp/conan/trailer/
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