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農園うしお(5月中旬特別号(箱苗づくり))

こんにちは!

  米の兼業農家をしている私ですが、品種ごとに作付け時期をずらして作っています。

 先日、GWに行った田植えの記事をアップしましたが、それはJAに供出する分でして、これらは収穫後に全て出荷するので、家には残りません。我が家の自家消費用の米は、それとは別のタイミングで作っています。

 その自家消費用の米、まさに今から箱苗を作り、6/15頃に田植えとなってきます。(つまり、我が家ではおおよそ1か月~1か月半ずらしで、2回稲作をしていることとなります。)

 今回は、その苗作り(箱苗)についてご紹介していきたいと思います。

苗床育苗から箱苗育苗の時代へ

 今の時代、田植えを行う際に使用する苗というのは、平べったい苗箱の中で育てられたものが主流です。おそらく皆さんが思い浮かべるのも、これではないでしょうか?

 今でこそメジャーなやり方になりましたが実は、これは昭和30~40年ごろ以降の話なんです。案外、まだ日は浅いのです。

 それ以前はというと、苗を作る専用の田んぼ(のスペース。これを苗床・苗代といいます)に種籾を直播きして育苗していました。そして田植えの際は、そこから必要量を掘りあげて田んぼに持っていき、人間が手植えしていました。まだ田植え機が一般的でなかった時代では、こういったやり方が主流でした。

昔の苗床の様子。水が確保しやすいように、苗床は水路から近い所に設けられている。
(「福重ホームページ」様より転載)

 転機が訪れるのが昭和40年ごろで、ここから田植え機が普及し始めます。初めは手押し式のものでしたが、昭和50年頃になると今の乗用車スタイルになってきます。

手押し式(※動力なし)田植え機(『広報誌「NARO」農研機構』様HPより)
動力式田植え機(『広報誌「NARO」農研機構』様HPより)
現代の乗用車型の田植え機(我が家の田植え機)

 こうした田植え機では構造上、苗をセットする際にある程度の規格サイズに整った苗を準備する必要が出てきます。ここから一気に、全国的に苗箱での育苗がメジャーになっていきます。

 また、箱苗育苗というのは田植え機へのセットの問題解決の他にも、様々なメリットも生みました。そのうちの一つが苗の生育管理です。

 従来の苗床育苗では、屋外かつ広範囲で育苗するため、温度管理や湿度管理が難しく、一様な品質の苗を準備するのは大変でした。

 これが箱苗育苗になると、ラック状の育苗機を用いて、立体的に省スペースで格納し、育苗機の内部空間で育てることができるようになりました。育苗機は温度・湿度の管理が非常に簡単なため、省労力で高品質の苗を作ることができるようになりました。

育苗機(「株式会社啓文社製作所」様HPより)

  大まかにはこのような流れがあって、現在の日本のほとんどの米農家の育苗は、箱苗方式で行われるようになりました。

箱苗づくりの手順

 そんな箱苗ですが、作る際の大まかな流れとしては、このような手順を踏むこととなります。

①種籾の選別・消毒
②種籾の催芽
③苗箱に床土敷き
④床土の上に種籾蒔き
⑤種籾の上に覆土敷き
⑥潅水
⑦育苗機に格納し発芽・育苗
⑧外に出し育苗

 ここからは、各作業についてもう少し詳しくご説明します。

①種籾の選別・消毒

 まず、良質な種籾とそうでないものを選別します。

  良質な種籾というのは、しっかりと中が詰まった、比重の重たい籾です。逆に、未熟な籾や病気(いもち病や、ばか苗病など)に罹っている籾は、比重が軽いという特徴があります。

 これを選び取るために、一般的に「塩水選(えんすいせん)」という手法を用います。塩水選では、比重が1.13程度になるような、食塩水の溶液をバケツたっぷりに作ります。

(※%濃度で言えば、だいたい20%ぐらいのものです。この濃度だと、生卵を浮かべたときに浮き、ほんのちょっとだけ出るぐらいの比重です。)

 この中に種籾を浸けると、軽いもの(品質が悪い籾)が浮かび上がるので、それを掬い取って分離します。そして、底に沈んだままの籾を採用します。

塩水選の様子。浮いた籾が品質が悪いので、沈んだものを採用する。
(「よしろう農園」様HPより)

 採用する籾は水洗いした後、消毒を行います。消毒は、薬剤による方法と、温湯(約60℃)による方法とがありますが、我が家では温湯にて行っています。これを行う事で、育苗初期の病気の予防を行います。

温湯消毒の様子(「JA北河内」様HPより)

(※近年、どうもこの消毒の不備による初期病害が増えてきていると聞いたことがあります。

単なる農家側の不手際なのか、それとも健康志向の高まりで消毒(薬剤による消毒)を嫌ったせいなのかは分かりません。ただ、米農家の一人として言わせてもらえば、種子消毒は基本中の基本です。ここはちゃんとやる必要があります。

自分一人の田んぼであればまだいい(?)のですが、実際にはよその田んぼもすぐ隣にあります。1枚被害が出てしまうと、あっという間によそにも影響してしまいます。

だからこそ、こういったことはちゃんとやる、というのは必要です。)

②種籾の催芽

 種籾というのは、ある程度条件が整ってさえいれば発芽はします。ただ、ある程度管理をしてあげないと、籾ごとの発芽がバラバラになってきます。

 そうなってしまうと、田植えの際に「育ち過ぎた苗」と「育ちが足りない苗」を一緒に植えないといけなくなり、不都合が生じます。これを回避するために、種籾全体の発芽のタイミングがある程度揃うように管理する方法が、この催芽です。

 やり方自体は単純で、水をたっぷりに張ったバケツに種籾を入れて沈めるだけなのですが、温度の管理と水の交換が必要になります。

 私が作っている品種の場合、「水温×日数=100」となるぐらいのタイミングで発芽が始まります。例えば20℃で管理すれば5日、12.5℃で管理すれば8日といった具合です。

(※この日数を勘案したうえで、発芽したらすぐに④~⑦の作業が行えるよう、③の準備は早めにしておきます)

 また、種籾はバケツの中の水に含まれる酸素分を吸収しますので、酸欠にならないよう、1日1回程度、水を入れ替える必要もあります。作業自体は単純なのですが、「誰かが家にいてもらわないとできない」というタイプの作業ですね(^^;)

 芽が出始める直前(※ホントに出始める瞬間ぐらい。籾がプクッと膨れ上がります)になったら、すぐ④~⑦を行いますが、そのためには③が終わっている必要があります。このあたりの段取りは重要です!

③苗箱に床土敷き

 ③は、箱苗に「床土(ベースの土)」を敷いて置く作業です。昔は本当の土を敷いていたのですが、現代では「水稲用培土(コロコロした小粒の土)」か、「ロックウールマット(断熱材のようなスポンジ状のもの)」を用います。

水稲用培土(「宝産業株式会社」様HPより)
水稲用ロックウールマット(「日本ロックウール株式会社」様HPより)

 先にも述べましたが、とにかくこれが終わっていないことには、この上に籾を蒔けません。②の期間中にしっかりと終わらせておくべき作業になります。

 手作業で準備する場合は、かなりの時間が取られますので、早め早めに準備しておく必要があります・・・

手作業での床土入れの様子(「ななしん米」様HPより)


④床土の上に種籾蒔き
⑤種籾の上に覆土敷き
⑥潅水

 ②の催芽が完了したら、すぐ④~⑥に移ります。④で床土の上に籾を撒き、⑤でさらにその上から土を被せ、⑥でしっかり水分を与えます。

 この④~⑥(※先の③も)については、昔(私が子供のころ、30年前ぐらい前)は一つ一つ手作業でやっていたのですが、今では播種機(全自動播種機)という機械を使って、ほぼワンウェイで可能となりました。便利な世の中ですね!

全自動播種機(「株式会社スズテック」様HPより)

 播種機のスピードが速いため、籾や培土の補充、完成した箱苗の移動(※すぐに後がつっかえる)をひっきりなしにしないといけないので、スムーズに作業するためには3人~4人程度は欲しいものの…逆にいえばその人数だけで、何百箱もの箱苗が簡単に作れるという、スゴい機械です。

 例年のことですが、この作業中はいつも「人間が機械を使っているのか、人間が機械に使われているのか、どっちかわからん…」という心境になります(苦笑)

⑦育苗機に格納し発芽・育苗

 しっかりと⑥で水がかかったら、⑦の作業で育苗機に格納していきますが、ここが地味に大変な作業だったりします。

 水がかかった箱苗は、だいたい6kgぐらいの重量があります。これを一つずつ育苗機に移動させていきます。うちの場合、早物で約160箱、遅物で90箱程度作っていますが、これをみんなで手分けして格納するのです。

育苗機のラックに収納された箱苗。一つずつ手作業で入れていきます。
(「津山瓦版」様HPより)

(※この部分が結構重労働なのですが、これを改善するために、先に紹介した「ロックウールマット」があります。

費用はかかりますが、床土をこれに代えると通常約6kgの箱苗がおおよそ約4kg(-2kg)と、かなり軽量化できます。

とはいえ、我が家は従来から土(水稲用培土)で行っていますがね…重い…)

 育苗機の内部では、温度が30℃~32℃かつ湿度100%に保たれており、発芽に適した環境になっています。この中に約3日置いておくことで、全体の発芽が揃います。

 その後は電源を落とし、外のカバーを外して少し光が入るようにし、もう+3~4日程度は入れっぱなしにして、光に慣れさせていきます。

⑧外に出し育苗

 最後に⑧、外に出して敷きならべ、約3週間弱の期間、外の光に当てながら育苗します。

 外に出すと当然、土が乾くスピードが速くなります。毎日朝・昼・夕を水をかけ、育苗していきます。

 箱苗は床土が薄いため、特に晴れの日はすぐに乾いてしまいます。お昼の水やりを1回忘れるだけでも、結構苗がチリチリになったりします。水を切らさないのがポイントです。

(※なので、誰かが家にいないといけなくなります…)

箱苗を作らない時代・苗すら作らない時代の到来?

 ここまでご紹介したように、箱苗を作るには約1か月ちょいの期間がかかり、また人手も要します。自分で言うのもなんですが、大変なんです(苦笑)

 こういったこともあり、最近では「もう箱苗は作りたくない!高くついてもいいから、農協から買う!!」という農家さんも増えてきました。高齢農家、また兼業農家では顕著です。

 実は、この点を改善するために、苗すら作らず、田んぼに種籾を直播きする方法も研究・実践されつつあります。これがうまくいけば、面倒な箱苗づくりから解放されるため、(金銭的コストはさておき)労働力コストはかなり削減することができそうです。

水稲直播の様子。田植え機と似ているが、苗ではなく籾を植えている。
(岩手県HPより)

 ただ今の所だと、専用機械の導入コストが大きかったり、田んぼを選ぶ(広さや土質、気候条件など)こともあり、まだまだメジャーな方法とまでは言えないかとは思います。今まさに試行錯誤中、といったところでしょう。

※この記事をご覧になられている方の地域によっては、もしかしたらこの方法で実施されている所が、既にあるかもしれませんね!

 とはいえ、もしこの方式が全国的にスタンダードになり始めたら、近い将来日本の田んぼから「田植え」の風景が、無くなってしまうかもしれません。もし直播きになれば…それはもはや「田植え」ではなく、せいぜい「種蒔き」か「播種」としか言いようがない気がします。

 私が生きているうちにそうなるのか、もしくは全く思いもつかないやり方が登場するのか…はたまた、案外今のスタイルのままなのか。どうなんでしょうね?

 このあたりのやり方に変化が生じると、もしかしたら田んぼに水を張らなくなったりするかもしれません。苗も、今では規則正しく並ぶように植えられていますが、もっと密になったり、疎になったり、はたまたバラバラになったり…そんな変化もあるかもしれません。

 これから田んぼを眺めるときに、そういった観点からも眺めてみると、案外楽しいかもしれませんね♪(お前だけだろ!)

・・・おわり

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