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探り吹き


小さな羽根飾りが付いた
中折れ帽のヒデキさんは
ハーモニカ歴六十年だ
 
楽譜は読まずにメロディーを
口で探って覚えていくから
僕は探り吹きだ と言って笑う
 
特別養護老人ホームを慰問して
「ふるさと」や「旅愁」を吹くと
涙ぐむ高齢者もおられるそうだ
 
「ハナミズキ」「涙そうそう」
「月光」「長い間」「桜坂」
今どきのJ‐POPを吹いたら
若いリスナーにも受けるのでは?
 
提案してみると うーん・・・
丸顔メガネが考え込んでいる
探り歩くエリアの外の曲らしい
 
求める音を探り当てたら
うん、いいぞ 次のメロディへ
 
楽譜にいつも大切なものが
書かれているとは限らない
 
大切なものを自ら探って歩いた
永い旅の終章を生きる人達に
懐かしい曲を聴かせている




   *月刊「ココア共和国」'22.7月号 投稿佳作(電子版)


 (付録)

 ちょっぴり


黄昏のハーモニカ吹きは
浮かない顔をしてやって来ると
大きなお腹を深々とソファに沈めた

演奏会はどうでした?

全然ダメ ひどいもんだった
あんなに不揃いになるとはねえ
ああ情けない 情けない

秋の老人大学祭のコンサートで
ハーモニカの合奏を
二十人くらいでやったけれど
テンポがバラバラになったらしい

リーダー格だった彼は
まことに残念無念なご様子
オーバーオールに包まれたお腹が
気のせいか小さく見えてきた

来年また頑張ればいいんですよ
失敗しても何をしても
あなたは秋風のハーモニカ吹き
格好いいですよ

なんて言葉を
掛けようかと思ったけれど

内心では
しょげっぷりが
ちょっぴり 
面白かった


ボクはギターを探り弾き


 


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