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僕は大学を卒業した

卒業式は土砂降り。
寝落ちしたにもかかわらずすんなり7時に起きることができたのは、体が行事をきちんと覚えていて、間に合うように体内時計を働かせたからだろう。大事な予定ではほとんど寝坊したことがない。

成人式と同窓会の時に着たきりクローゼットに眠ったままになっていたしゃれおつなスーツを身にまとい、雨の中会場へ。友人と待ち合わせしていた9時ちょうどくらいに着いた。5人で集まる予定だったのに、2人も遅刻している。しかもうち1人はあたかも自分が普通かのようなメッセージをLINEで垂れているので、そっちがその気ならと合流を待たず先に中に入った。

会場に敷き詰められたパイプ椅子にはそれぞれに式次第が乗っている。まだ開場まもないらしく、前の方の席以外はかなりスカスカだった。ちょうど会場の中央くらいに腰を据える。軽く荷物を置いたところで、総長らが立つであろうステージのところに向かい、写真を撮ってもらうことにする。

いかにも経済学部な見た目をしている、ツイストパーマの人に声をかける。陽気な人で快く受け入れてくれた。考えてみるとこういう場で写真撮影をお願いされて断る人っているのだろうか。会ってみたいが第一印象が最悪になるから、仲良くはなれないのではないかと寂しい。

遅れてきた5人目がようやく合流した。5人でのステージ撮影は叶わなかったが、大事なのはどちらかというと学位記をもらってからなので少々のことは気にしないことにする。式が始まるまでは会場入りしていく人を眺めながら、知り合いがいたら声をかけるという活動を続ける。高校同期を3人ほど捕まえて話をした。

10時、式典開始。まずは各学部の学生のうち代表者が学位記を授与される。成績上位者かと思っていたが、代表となる研究室が毎年ランダムで決まるらしい。なんかちょっと安心する。
うちの農学部は一番最後だった。おちょくられているような気がする。農学大事だろ。コメ栽培やめるぞ。

総長の話は長くて途中で記憶が飛んだ。寝不足だと人の話も聞けない。途中はスッキリした気持ちで聞いていたのだけれど、総長の昔話になった途端興味がなくなった。周りに聞いてみても話の流れがわかりにくかったとかなんとなくいい話だったとかいう意見ばかりで、結局何を話していたのかわからずじまい。

外側の列から規制退場になった。真ん中に陣取っていた僕たちは最後の組ということになる。吹奏楽部が演奏する「ほたるのひかり」がさまざまにアレンジされていくのを聴きながら、ひたすら待っていると

ステージから降りなさい

と声がする。どうやら最後の爪痕を残そうとステージに登って写真を撮ろうとした馬鹿者がいるらしい。会場に緊張が走った。
またしばらくすると、

ステージに座ってる人
降りなさい

降りなさい!!!!!

と声が。遠くなのでよく見えなかったが、おそらく1回目の「降りなさい」でなお座りっぱなしだったので職員をガチギレさせてしまったらしい。こんな人間でも卒業できたのかと思うと悲しくなる。頼むから全員そんな人間だと思わないでほしい。
さっきまでは緊張感を増していた罵声も、2回目ともなるとアホらしくて今度はかすかな笑いになった。

これだけ叱られて、3度目もやるのだから京大生は狂っている。
仏の顔も、と言うだろうが。卒業取り消しになっていないことを願う。


写真撮影会場は超満員だったので北部構内まで歩くことにした。コスプレのせいでエスカレーターが止まったらしく動線もクソもあったものではなかった。1階から2階への階段がない建物って、普通に欠陥だと思うのだが。

歩いている間も当然、雨。
正午が近づき雨はさらに強まっていく。一緒に歩いていた友人と、時計台の前で傘を手に自撮りをして足早に総合館に向かった。

12時を少し過ぎて学位授与式が始まった。名簿順に学生が呼ばれていく。
僕だけ名前を間違えられて授与がやり直しになった。今年の学科長は飄々としているだけで、漢字も読めないのだろうか。

学位記をアルバムに入れる。
僕は大学を卒業した。
その事実を、いやに実感されられる。

しばらく総合館内で写真撮影をして、やることもないので家に帰ることにする。
出町柳に向かう途中に安い自転車を見つけたので買うことにした。腹が空いたので東大路通りで昼食をとり、駅に向かおうかというタイミングで今度は電話がかかってきた。誰かと思ったら式で会った高校時代の友人だった。
時計台前で写真を撮るらしい。
時間調整が神掛かりすぎていて少し狼狽えた。

雨が止んだこともあって、本部は卒業生がごった返して祭りでもやっているみたいだった。友人と合流するまでに電話を3回掛け直すくらいには人で溢れていた。高校の同期と、同じ学科の同期と、バイトの同期と、それぞれ写真を撮って、3年ぶりくらいに会った高校同期と家路を共にする。

大学の研究の話、今後の進路の話などを続ける。高校時代はあまり気が付かなかったけれど、熱が入るとどんどん話してくれるタイプで聞いていて楽しい。お互いのターンが終わってスッと熱が冷めた時の沈黙が、仲のいい間柄でも実は一番怖かったりするので。

最寄り駅に着こうかというとき、情報研に外部進学すると宣言していた同学科の友人と彼が、院試勉強を機に交友関係を持っていたことを知らされた。僕の大学時代の話もそこから垂れ流しになっていたらしい。

(おい早く言ってくれよ…)

心の中でそう思いつつ、その話はまた会う機会に残しておく。
次いつ会えるのか本当にわからない人なだけに、楽しみだ。


何はともあれ、いろんな人と出会えて楽しかった。
僕は大学を卒業した。



妄想小説ではないという証拠だけ、残しておく。

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