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体験記 〜摂食障害の果てに〜(14)

面会

 家族とは会えないまま、日にちが経っていきました。入院したばかりの頃は家族に会いたかったのに、毎日があまりに苦しいので、会う勇気が失われていきました。声すら出せなくなっていたので、誰とも会わず、そっとしておいてほしかったのです。なのに、母から『電話で話したい』と、伝言が入ったのです。看護師さんから伝えられて、拒否しました。ところが、母は何度も『電話で話したい』と、伝えてきます。困ったなあ、もう少し元気になるまで待ってほしい、と思いました。
 すると、差し入れと一緒に、母が手紙を書いて届けてくれました。手紙なんて、何年も前の誕生日にもらったきりです。嬉しくて、すぐに読みました。それには、「(私の)弟が『リモート面会』に申し込んだから、スマホで話したい」と、ありました。
 そして、それに返答する前に、母から私のスマホに電話がかかってきました。スマホは、差し入れと一緒に届けてくれていたのです。私は、一切話ができないので、看護師さんに引き出しにしまっておいてもらいました。
 かかってきたものは仕方ありません。看護師さんがスマホを持って、私に画面を向けてくれました。自分で持つ力がなかったのです。私は精一杯、元気な声を出そうと努めました。でも、声は囁き程度にしか出てくれません。母は、スマホ初心者なので、映像が映らない、と言って、ボロボロ、大粒の涙を画面に落としました。私は、母が私のことを心配して泣いているのが分かっていたから、ひどく母を心配しました。母は、心筋梗塞です。極度の心配や悲しみは、心臓に大きな負担になります。そんなに泣かせてしまって、悪いことだ、と思いました。
「何か、食べたい物は?」
 と、母が聞いてきました。私にも食べてみたいものが、実は一つだけ、あったのです。
「ポテトチップス。」
 甘いお菓子は、全く食べたくありませんでしたが、ポテトチップスだけは、食べたかったのです。ポテトチップスなんて、もう何年も食べていなかったように思います。たとえ食べたにしても、小さなかけら数個だったでしょう。
「え? 何? わからない。」
 何度繰り返しても、母には伝わりません。一語一語区切って発音しても、トンチンカンな言葉に聞き違えられて、困り切ってしまいました。どう言ったら、伝わるんだろう? と悩みました。すると、看護師さんはさすがです。
「ポテトチップス?」
 と、言い当ててくれたのです。翌日、母と弟は、ポテトチップスとジュースを袋いっぱい届けてくれました。そんなに食べれないよ、と思ったけれど、嬉しかったです。
 主治医の先生からは、『何を食べても良し。持ち込み何でもオーケー。』と言われていたので、家族はどら焼きやカステラ、ジュース、ヨーグルト、プリンなどを度々ナースステーションに届けてくれました。そのついでに、母からの手紙も渡してくれました。何でもたくさん食べて、早く元気になって帰って来てほしい、とありました。
 

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