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体験記 〜摂食障害の果てに〜(18)

 絶食になった為、差し入れで持って来てくれていたプリンやどら焼き等、全て家族に持って帰ってもらうことになりました。せっかく頼んで買ってきてもらったポテトチップスも、「見ると食べたくなるから」と、袋に詰められかけたので、
「治ったら食べたいから、それまで置いていてほしい。」
 と、頼みました。
「いいよ。治ったら、ブドウジュースと一緒に食べようか。その時のお楽しみに残しておこうね。」
 と、看護師さんが、笑顔で残してくれました。私は、看護師さんに心から感謝しました。この優しさのおかげで、私はどれだけ救われたでしょう。本当に良い病棟に来れて良かったです。
 もし看護師さんが、決まった事をハサミで切る様に遂行する機械人間だったら。病院に笑顔も心の温もりも、ありえないでしょう。絶対的にやってはならないことは別として、許容範囲ギリギリを見極め、患者に寄り添ってくれるおかげで、辛い治療も乗り越えていけるのです。
 翌日、右の首から点滴用の針を入れる処置を受けることになりました。それには家族からの同意が必要でした。
 意識がぼんやりしていたせいか、首に針を入れた時のことは、よく覚えていません。痛みもなく早く終わった気がしました。処置について、私には詳しい説明がなされなかったので、どんな針を入れたのか、全くわかりませんでした。だから、注射器の針より長い針を入れたのだろう、と考えていました。
 家族は主治医の先生から『針』ではなく「カテーテルを入れる。」と説明を受けたそうです。『カテーテル』とは体内に挿入する管です。
 看護師さんたちはその管(カテーテル)を『CV』と呼んでいました。『CV』とは、『中心静脈カテーテル』のことです。『中心静脈』とは心臓近くの太い血管です。つまり、点滴や静脈注射を行うために、鎖骨や首、太ももの付け根にある血管から管(カテーテル)挿入し、その先端を心臓近くに位置させることです。
 その管(カテーテル)を入れたおかげで、採血が楽になりました。首のチューブから採血できるので、細い血管に針を突き刺さなくてもよくなったのです。それまでは、貧血の為、血が採れず、二回三回やり直しになり、痛くて痛くて息が止まりそうでした。
 私は、二〇代の頃から、ずっと貧血でした。原因は、肉魚を全く食べなかったからです。卵や牛乳も制限して、十分には摂れていませんでした。そのせいで、血液の値が、標準の半分になってしまいました。貧血で入院していた時、
『風邪を引いても危険。何かあった時には助からない。』
 と、医者から言われていました。その時は若かったから、その言葉も本気にせず、周りの心配も無視してきました。でも、歳を取るにつれ、限界がきました。それがこの状態です。先生の言った言葉は正しかったのです。


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