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小説【天神橋ラサイカレー】あらすじ


【天神橋ラサイカレー】 梗概
 
 人情商店街と呼ばれる大阪天神橋筋にあるラサイカレーは、スリランカ人の店長が生み出した秘伝のエキスが日本人の味覚に受けて連日繁盛していた。
 店長のシビルは元スリランカの軍隊で働いていたと胸を張っていたが、その任務が用務員だと知れると、途端にスタッフからの人望が薄くなり、またいい加減な性格も敬遠されていた。 
 
 店長をサポートして仕込みを担っているのは茶喇屋帆蘭二十四歳。海外を歩くのが趣味で、そのDNAを辿ると、先祖は琉球貿易が盛んなころに貨物運搬船に紛れ込んで薩摩藩に渡り、琉球人への差別を恐れて二宮金太郎と名乗ったが、その嘘がすぐに見破られると、さらに四国へ逃げ渡ったようで、そこから長い年月を経て、いまでは実家が香川県で讃岐うどん店を営んでいる。
 
 アルバイト従業員の大友六十五歳は、四年前まで上場会社の取締役を務めていたが、経営を悪化させた創業者一族のワンマン経営に反発して退任に至った経歴を持っていた。重責を担った能力を持っているが、その反面で、気に入らない客に対しては天邪鬼ぶりを発揮したりする、いわば茶目っ気もあり、帆蘭から信頼される人物でもあった。
 あとのスタッフはオバちゃんパートの春江とベトナムからの語学留学生のヒエン。
 
 ラサイカレーでは週に二回のペースでルーの仕込みをするのだが、帆蘭はその際に発生する玉ねぎ臭が大の苦手だった。それは衣服や髪などに付着し、百メートル先の駅ホームにまで届く威力である。
 恋人の杏子と夜道を歩いていたときに酔客に絡まれたのだが、帆蘭は少林寺拳法二段の技を使うまでもなく、玉ねぎの匂いが染みついたブルゾンで酔客を撃退した。それが少林寺拳法スメルの術と帆蘭はうそぶいた。
 
 忙しい営業状況の中で、シビルが伝票操作で売上金を着服していた。
 ラサイカレーの裏のオーナーはシビルの悪行を知っていたが、それでも自分の生活費を切り詰めて母国の家族へ送金する行いを考慮して、目を瞑っていたのだった。
 
 そんなある日、一大事が起こった。ルーにとろみがなく、サラサラになってしまったのだ。シビルは帆蘭の仕込みが悪かったと指摘するが、帆蘭にしたら今まで通りにつくったので原因がわからず、仕込みを任せっきりにするシビルに反感を持った。
 再度、シビルの指揮の下で仕込みを行ったが、やはりサラサラでとろみは出なかった。
ラサイカレーにとってサラサラのルーは致命傷といえる重大な危機だった。
 
 そんな状況を帆蘭と杏子があれこれ話しているうちに、その原因らしきことに目星がついた。突き詰めると、使用する蜂蜜の品種が変わっていたことが原因で、それはシビルが仕入れに無頓着だという落ち度でもあった。
 ルーに元のとろみが戻ると、シビルはまた気楽に夜遊びをはじめ、母国の奥さんとの電話では険悪な状況のやり取りになっていた。
 
 帆蘭と杏子が休暇で慶良間諸島のダイビングを楽しんでいた時、シビルが行方不明だとの報せが入った。パートの春江に何日か休むといい残していたので、自らの行動ではあるが、電話も不通になっていた。調べていくうちにシビルが借金を背負って逃げているとわかった。
 シビルが居なくなると、ラサイカレーの味の決め手である秘伝のエキスがなくなってしまう。大友と帆蘭は店を守りながらシビルの手掛かりを探し、同時に残り少なくなった秘伝のエキスを分析して再現させようと試作を重ねた。
 
 旅行会社に勤務する杏子の協力もあって、スリランカ人のコミュニティからシビルの友人にたどり着き、シビルと連絡が取れるようになった。
出現したシビルの口から出た失踪の理由には、夜遊びの借金の額に、セクハラの和解金が上乗せされていた。
 
 返済先はラサイの常連客である通販会社の来嶋社長で、しかもシビルに夜遊びを教えた張本人だった。
 来島社長は健康食品としてのレトルトカレーを売り出す計画に当たり、老若男女に好まれるラサイカレーのレシピがどうしても欲しかったのだ。しかしシビルは自分の命綱ともいえる秘伝のエキスを公開することを拒んだ。
 
どうしてもレシピが欲しい来嶋社長は、愛人を使ってセクハラ行為を仕組んだのだ。
 帆蘭はセクハラ行為が真実かどうかを調べて、それが罠だった証拠をつかむ。
帆蘭は来嶋社長と対峙し、シビルの無罪を明かす。

※ ユーモア、青春、人情、カレーレシピ、推理、てんこ盛り小説

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