【読書note_006】ファクトフルネス ハンス・ロスリング他

先入観と認知バイアスが世界を歪める
私は、本書のメイン著者であるハンス・ロスリング氏のTEDトークの大ファンでした。
躍動するバブルチャートと軽妙な語り口は、思わず引き込まれてしまう魅力に溢れており、統計データの無味乾燥なイメージを一変させてくれました。

本書は、そんな統計データの専門家である著者が、人間の持つ認知バイアスについて、10の本能により分かりやすく解説した本です。

イントロダクションの中で著者は、
「ドラマチックすぎる世界の見方」をしてしまう原因は、
知識のアップデートを怠っていることではなく、
脳の機能、すなわち思い込み・先入観にあると説明しています。

これはつまり、インターネット等を通じて情報を簡単にかつ大量に入手できる現在の社会でも、誤った世界の見方をしてしまう、ということを意味します。
むしろ、情報が大量に入ってくる現代だからこそ、思い込みや先入観が拡大すると言えるのかもしれません。

情報を遮断する『関心フィルター』
私が本書の中で印象に残ったのは、
P133で説明されている『関心フィルター』です。
私達の頭の中には、外の世界を遮断する『関心フィルター』が存在し、
このフィルターには10個の本能に対応した10個の穴が開いています。

ほとんどの情報はフィルターを通過できませんが、私達の本能を刺激する情報だけが、この10個の穴を通過できるというのです。
そして、マスコミはそのことを熟知しており、
だからこそ、私達の本能を刺激するような情報だけがマスコミから流されることになります。

ただ、人々の関心を得るような情報を発信したいと思うのは、
マスコミに限らず誰でも同じです。
情報には、発信時と受信時に必ず一定のバイアスがかかるものですが、
情報の発信者と受信者がこうしたフィルターを通して情報の授受をしている限り、
中立で客観的な「ファクト」を集めることは困難です。
加えて、情報量が増えていく現在の環境では、フィルターの網が細かくならざるを得ず、
バイアスの傾き度合いがますます大きくなるのは当然と言えるでしょう。

思考のアプローチを変えてみる
ここで私が感じたのは、
情報過多で1つ1つの情報を縮約して取り込まざるを得ない現代では、
人々が演繹法的なアプローチで思考を進めることが多いのでは、
ということです。

「関心フィルター」を通過してきた、バイアスのかかった前提をベースに
演繹法による推論を構築すると、誤った結論になるのは自明のことです。

本書の第6章で解説されている
「ひとつの例がすべてに当てはまる」という思い込み=パターン化本能
はその端的なものです。

第8章の
「世界はひとつの切り口で理解できる」という思い込み=単純化本能
も同じです。

バイアスのかかった主観的な情報を、
普遍的で広範的な考え方・理論であると思い込んでしまうことで、
決定的な誤謬につながってしまうのではないでしょうか。

もしそうであるならば、私たちがすべきことは、
思考を進める中で、帰納法的な思考アプローチを意識的に行うことが必要です。

本来、演繹法的な思考と帰納法的な思考に優劣はありません。
問題解決のアプローチとしてはどちらも必要不可欠なもので、
双方のアプローチを併用しながら試行錯誤することが求められるはずです。

しかしながら、現代はSNSやインターネットを通じて、
極端なメッセージが強調された情報ばかりが大量に行き交う社会環境です。
そのような中では、より客観的で具体的な「ファクト」のみを集めて結論を導く、帰納法的なアプローチの必要性が極めて高いと感じます。

本書を通じて、改めて当たり前を疑い、ゼロベースで思考することの大切さを再確認しました。

最後に、私たち自身の気持ちのあり方について。

11章で著者は、子供達に謙虚さと好奇心を教えることの大切さを説いています。
この2つは、大人達も大事にすべきことだと強く心に響きました。

考え続けること。
謙虚であること。
好奇心を持つこと。

本書は、私たちが世界と向き合っていく上で、
大切にしなければならないことを改めて気付かせてくれました。

本書を人生の最後に書き上げてくれたハンス・ロスリング氏に深い感謝と哀悼の意を表したいと思います。

最後までお読みくださり、ありがとうございました。
Happy Reading!

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