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じわリスト〜その一言が秀逸すぎる〜(2)

こんにちは!安江水無です。
第1回は、プロ魂で無謀なリクエストに応えきったデザイナーさんのお話でしたが、今回はとある中古ゲームソフトショップ店員さんの話です。

※「じわリスト〜その一言が秀逸すぎる」の正しい読み方
最後のほうに「一言」が絵で書かれています。直前の文章まで読んでからスクロールして絵を見てみてください。2倍楽しめます♫

今のようにスマホで気軽にゲームが楽しめるようになる前は、ゲーム機を買ってテレビに接続し、ゲームソフトを読み込んでゲームをするのが普通だった。私はゲームが大好きで、歴代、あれやこれやといろいろなメーカーのゲーム機を買ってきたタイプの人間である。

中でも「ファミリーコンピュータ」はゲーム機の草分け的な存在で、1980年代に発売されて以降、根強い人気を誇っていた。私もどハマりし、90年代に入ってからもあれこれソフトを買っては楽しんでいた。とはいえ学生時代はとにかくお金がない。なので、中古ゲームソフトショップに通っては面白そうなソフトを見つけて買うのが常であった。

ある日、オリンピック競技の中古ソフトが目に留まり、「よし、買ってみよう」と思い立った。陸上競技が中心で、100m走や棒高跳び、三段跳びなど様々な競技があり、ボタンを早押ししたり、ちょうどいいタイミングで押したりすると高得点が出る。

さっそく高得点を出すことに夢中になった私は、夜な夜な陸上競技に集中していた。私は元来、手先が器用で、指先が普通の人より細かく自由に動かせるという特技を持っていたため、次々に高得点を連発した。が、しかし、なぜかハンマー投げだけはうまくいかぬ。

やり方を試行錯誤してみたが、どうしてもすぐ手前でハンマーが落ちたり、そもそもうまく体を回せなくてファウルになったりして、得点が伸び悩んだ。当時のゲーム機のカーソルは固く、スムーズに動かすのが難しかったことも原因の1つと思われたが、稀代のゲーマーであるこの私が(笑)、ハンマー投げだけうまくできないのは納得がいかなかった。中古であるがゆえ、壊れているのではないか?と思い始めたのだ。

そこで、購入した中古ゲームソフトショップの店員さんに、クレームとまではいかないが、私の「困りごと」を訴えてみることにした。さっそくそのソフトを手にショップを訪れ、店員さんに事情を説明したところ、いかにもゲーム好きという感じのおとなしそうな青年は、私が持参したソフトを店のゲーム機にガチャリと差し込み、ハンマー投げを実際にやってみながら小さな声でこう言った。


何を言っているんだ、この人は……!!バカにしてるんだろう!!いい加減にしろ!!である。時は1990年代始め。Wiiが発売される10年以上前である。こりゃダメだ、壊れてるんだな、まあ安かったからしょうがない、などとブツブツ文句を言いながら、私は店を後にした。

帰宅後、しばらくするとその青年の言っていたことが頭をよぎった。そんなわけないじゃん……なめてるよな……と思いながらも、私は例のソフトを起動させ、ハンマー投げの場面を立ち上げた。そして、その青年に言われた通り、あたかもハンマーを投げるがごとく、体を回しながらカーソルを動かしてみた。

ハンマーは空高く、まっすぐに飛んだ。できたのである。

私はあっけにとられてしばらく呆然とした。もう一度言うが、これはWiiではない。ファミコンだ。同じ要領で何度かやってみたが、ちゃんと好記録が出たのである。

うれしかった。あの青年は私をバカにしたわけじゃなかったのだ。使い方がわかっていなかったのだ。私は猛省した。さすが、ゲームショップの店員さんはゲームのことを熟知している、そう思った。

それから10数年経ってWiiが発売された。開発したのはその青年に違いない、と、勝手に思っている。

今回の学び「ありえないことが、時を経て普通のことになったりする」

文/安江水無

#エッセイ #小説 #創作 #編集者 #笑い #じわる #ゲーム #ゲームソフト


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