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Netflix初動画は「孤狼の血」

原作で納得できなかった「大上章吾」の殉職

Netflixに登録すると、画面からあふれんばかりに映画のタイトルが並ぶ。それでも僕は一つの映画に出会って、迷わず鑑賞を始めた。

『孤狼の血』は日本推理作家協会賞を受賞した柚月裕子の同名小説が原作だ。柚月は生まれも育ちも東北で、デビュー作は『臨床真理』だ。全く畑違いだが、広島ヤクザと警察の血潮たぎる戦争をよくもあそこまで克明に描けたものだと、原作を読んでひっくり返った。

原作が傑作である点は受賞と続編が出たことからも明らかであるが、僕にはどうしても納得できない部分があった。

本作は、昭和の広島が舞台。マル暴の叩き上げの刑事・大上章吾(役所広司)の弟子として、日岡秀一(松坂桃李)が配属されたシーンから始まる。時は暴対法施行前。ヤクザ同士の抗争、刑事とヤクザの癒着や戦争がバッチバチで起きた時代を、荒々しい筆致で描いている。

オチを説明して申し訳ないが,この日岡という刑事は機動隊出身で刑事1年目という設定だが、実は広島県警の内部監察のスパイで、大上(愛称:ガミさん)の非行を密告するという任務を負っている。そんな彼だが、ガミさんが捜査のため、自分を守るため、何よりカタギを守るために作成した「広島県警幹部・不祥事メモ」ノートを受け継ぎ、そしてマル暴スピリットも受け継いで・・ミイラ取りがミイラになるという、そんな結末だ。

だが本作は、その”オチ”で受賞したかもしれないが、醍醐味は違う。ガミさんがどこまでもヤクザと癒着しつつ(と、読者には思わせておいて)、暴力を辞さない無鉄砲にして愛着のあるキャラであることが肝(キモ)だ。

そんなガミさんだったが、日岡の中途半場は広島県警本部への告発とそれに付随する新聞記者の横槍、そしてマスコミが怖い署長のヘッピリ腰により、ガミさん流の「ヤクザコントロール」が効かなくなる。そして組同士の抗争が勃発し、謹慎を命じられたガミさんは力と精気を失い、極道のツラをした外道によって帰らぬ人となる。

私はこの「ガミさんの最期」が納得できなかった。ガミさんは相当、強かだ。原作を読んだ際、殉職シーンを何度も読み返したが、腑に落ちなかった。「強靭でしなやかなマル暴の刑事が、ああも呆気なく殉職するのか?」この点がどうしても、何年経っても、腑に落ちなかった。

映画を観た。残酷極まりない描写で、ガミさんの最期を映し出した

そうやって同じ「視覚」から情報を得ながらも、「ガミさんの殉職」を二度見せられ、僕はやっとガミさんの殉職を理解できた。

『孤狼の血』は映像されるべくして、映像化された。小説と映画。メディアミックスの申し子は奇しくも、ドロ臭いマル暴とヤクザを描き切った純和風のコンテンツと高い親和性を見せた。

映画で納得できなかった「松坂桃李」の起用

僕が映画を観なかった理由は、いくつかあると思う(全ては思い出せない)。その中の1つが、ガミさんの弟子である日高に「松坂桃李」を起用したことだ。「甘ったれた若造をなぜ?」という疑問は、映画鑑賞中でさえ、何度もわき起こった。

けれどそれも、ガミさんの殉職後で、一変した。ガミさんの死で日高が狂ったように、役所広司の死でまた、松坂桃李も狂った。狂ったから、最高の芝居ができた。脇をしっかりと、真木よう子が固めたのも大きかった。

真木よう子は柴咲コウと並ぶ、日本の二大女優だ。

ガミさんが最も怖かったものは?

原作でも映画でも……創り手が違っても、彼等はガミさんにこう言わせる。

※真木よう子演じる「高木里佳子」という飲み屋のママが、回想シーンで語る。

「ガミさんは、ヤクザを手なずけていただけ。ガミさんが本当に怖かったのは、警察だ」。

この言葉の重みを僕は表現できない。

どうか皆様、原作を、そして映画を鑑賞してください。この一言でゾッとします。

邦画の可能性

映画業界は今「マーベル」に席巻されつつある。世界規模で、だ。日本にも次々と「マーベル」産の映画が輸入してくる。

邦画に未来は無いのか?」「邦画はオワコンなのか?」そう考える人は、この国のコンテンツの担い手にも受け手にもいるだろう。

僕は断言する。「日本の小説が負けることはない。映画が負けることは、もっと無い!」と。

感情論では決して無い。根拠がある。

日本語は世界で最も難しく、海外のコンテンツ輸入には限界がある。メガヒットした「三体」(早川書房)にしても、和訳した上で大森氏によるSF訳が行われたほどだ。日本語は「平仮名」「カタカナ」「漢字」「です・ます」「である」「敬語」がある。海外の人間にとって、非常に厄介だ。

これで「小説は無事」だが、映画はどうだろう?

「ゴジラvsキング」を鑑賞して感じたのは、「情報の詰め込み過ぎ」「主人公不在」「ストーリーが雑」だ。

また、世界の興行収入を観ずに、国内の興行収入を見てみょう。


アニメが押し上げている感はあるが、日本では「ハリポタ」よりも「踊る大捜査線」の方が稼いでいる。また、下記の表示したウィキペディア通り、和製映画は海の向こうで通用している。

さらに、邦画には未来がある。「燃えよ剣」が今秋、公開される。

邦画と書いて「チャンバラ」と読む。

日本が侍の文化である限り、邦画が世界に屈することは永遠にない。

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