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和包丁、ふるさとへの帰還

ロンドン、パリ、ストックホルムと3都市に展開している Japanese knife company という会社がある。
街を歩いている時に偶然見つけ、knife という名前に少しびくびくしながら中に入ってみた。

こじんまりしたお店のショーケースに、綺麗に並べられた和包丁たち。
「藤次郎(Tojiro)」「佑成(Sukenari)」「三昧(Zanmai)」等々、色々な名のついた包丁があって面白い。日本で包丁をじっくり眺めたこともなかったので新鮮だ。母国のものであるはずなのに、母国のものではないような感じがしてそわそわしてしまう。
迎えてくれた店主のおじさんはスウェーデン人で、日本まで和包丁や包丁研ぎのことを勉強しに行ったそうだ。
久々に外でみる漢字に喜びを隠せない私を、大きな日の丸の描かれた真っ白なTシャツで、日本愛いっぱいに出迎えてくれた。

ちなみにお店に日本人はあまり来ないらしく、スウェーデンの料理人が買いに来ることが多いらしい。せっかくなので、私は日本から持ってきた包丁を研いでもらうことにした。

包丁を預けに行った日、
「今日は包丁がないけど料理できる?」と聞かれ、
「IKEAの包丁があるから大丈夫!」と元気に答えたところ、
「IKEAの包丁のことなんて言わないで…!」と笑いながら頭を抱えるおじさん。
たしかに和包丁ほど切れ味は良くないが、普通に使えるし錆びないので悪くないと個人的には思っているのだが、和包丁をこよなく愛するおじさんにはあれは包丁とは呼べないようだ。

翌日包丁を受け取りに行くと(おじさんが直接お店で研いでくれるそうで、翌日午後には出来上がっていた)、

「研ぐ時に気づいたけど、この包丁 Swedish steelだね!」

と笑顔で教えてくれた。
よくよく包丁を見ると、小さな文字だが確かに「SWEDISH STEEL(スウェーデン鋼)」と書かれているではないか。
母が数年前にくれた包丁、思いもよらぬところで故郷へ帰還していたわけだ。

スウェーデンで生まれた鋼で作られた包丁が、海を渡り日本へ。
そしてひょんなことから日本から母国スウェーデンへ。
不思議なめぐり合わせを感じてしまう、そんな瞬間だった。

和包丁もきっと、ふるさとスウェーデンで研いでもらえて嬉しかったに違いない。

おかえり。

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