【REVIEW】 eternal sunshine - Ariana Grande
ディーヴァの帰還。前作『Positions』(2020) から約3年半の時を経て、Ariana Grande の7枚目のスタジオアルバム『eternal sunshine』が、3月8日にリリース。
Ariana Grande のキャリアのついては以前 note で1万6000字の記事を書いたのでそちらも是非どうぞ。
35分の短いこのレコードはまさに、Ariana Grade による Ariana Grande のための作品だ。
ファイナルトラック「ordinary things」のアウトロで、彼女の祖母(Nonna)はこう語る。
もしそれに満足できないなら
あなたは間違った所にいる 出ていきなさい
つまりこのアルバムは、Ariana Grande 自身が満足できる場所をアート空間の中に見出そうとする試みである。前作『Positions』は物理的に閉鎖的なアルバムだったが、今作は心理的にひたすら内向きな作品だと言えるだろう。
29歳ごろに最初に訪れると言われているサターン・リターンについてのインタールードを挟み、この数年間は彼女にとって試練だったことを匂わせつつ、全ての出会いが別れが天文学的な神秘であったことも強調している。アルバム中に頻出する単語 "rearrange"(再調整する/並べ替える) は、そういった人生の転換期だからこそ生まれる表現だったはずだ。
一方、サウンド面では予想よりも転換的ではなく、ストレートなR&Bに回帰している。「the boy is mine」が、1998年のヒット曲で90年代R&Bの最重要ソングのひとつである Brandy と Monica の「The Boy Is Mine」の再解釈であると本人が明かしているように、90年代~10年代のR&Bとの距離感は明らかに意識している。
迎えたプロデューサーは Max Martin、ILYA、Shintaro Yasuda、DaviDior、Nick Lee のみで、実質には前者3人が大きく貢献している。Max Martin と組むのは久しぶりで、日本人プロデューサー Shintaro Yasuda と組むのは前作『Positions』収録の「off the table」以来の第抜擢となった。
R&Bに回帰するならば、『SOS』(2022) で新たなR&Bのビーコンを打ち立てた SZA のようにベテランから若手まで幅広いR&Bプロデューサーを呼べばよかったはずだが、おそらくそれは Ariana Grande がこのアルバムに求めるものではなかった。気心知れた Max Martin とパーソナルなアルバムを作ること自体が、このプロジェクトの最大にして唯一のテーマだったような気がする。
それゆえ、ファーストシングルとして商業的ヒットを狙ったであろう「yes, and?」は、アルバムの流れで聴くと完全に浮いており、作品の世界観にはマッチしていない。35分しかないLPの中で、連続再生の心地よさを妨げるような曲が並んでいるのは、コンセプトアルバムとしては少し痛手だ。
しかしこういった批評も何の意味もないのではないか。なぜならこのアルバムでは、アートワークが示しているように Ariana Grande は顔すらこちらに向けてくれず、彼女が自分自身に寄りかかっているからだ。彼女が笑っているのか泣いているのか、私たちが知る由もないし、彼女は私たちに教える気もない。このアルバムは、そういうアルバムだ。そして、それでいい。
BEST TRACK
2. bye
9. yes, and?
10. we can't be friends (wait for your love)
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