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教室で一人ひっそりしていた記憶

中学までは学級代表を務めるなど、積極的だったことは以前書いた。

そんな姿勢から一転して、高校ではひっそり過ごした。
人と関わるのがもっとも面倒だと思っていた頃だ。
過酷な体育に疲れきっていたのかもしれない。

朝も誰かと登校したりするのはとにかく面倒で、誰からも話しかけられないで済むよう、何にも繋がっていないイヤホンを耳につけていた。
学校の最寄り駅を下りて地上に出たら、交差点の人目につかない角に立ち、友人らが登校していくのを見届けてから歩き出した。

ある授業では、窓近くの端の席だったから、机ごと窓に向けて一人ずっと空を眺めていた。
授業をさぼって図書館で時間を潰したり、近くのゲームセンターへ行って、当時はやっていた「ガントレット」というゲームに散財したりもした。
弁当も一人で食べ、休み時間も一人で過ごした。
とにかく人と関わるのが面倒だったのだ。

***

卒業後、同窓会名簿には自分の住所や勤務先は載せなかった。
が、どこでどう調べたのか、卒業30周年を前に、クラス会の幹事から1枚のハガキが職場に届いた。
そこまでする心意気に何かを感じて返信し、クラス会に出ることになった。

当日、僕が30年ぶりに見つかった話で会場は盛り上がり、幹事は、僕に会いたい人が多いと思って、と探した理由を語った。

ん? 僕に会いたい?
いや、そんなはずはない。
僕は3年間ひっそりと過ごし、一人窓の外を眺め、ゲームセンターで過ごし、卒業後30年にわたって行方不明になっていたのだ。
そんな僕に会いたい人がいるはずがない。

あの頃、口も聞かず一人ひっそりしてたのになんで? と訊いてみた。
黙って顔を見合わす人、クスリと笑う人…
あぁやっぱり…暗黙の了解でそこには触れないようにしていたのか。
皆、あまりに淋しい高校生活を送っていた僕に同情して、会いたがっているなどと言っているのだ。
怖くてそれ以上聞けなかった。

会のあと、その場にいた女子に同じことを聞いてみた。

え? いっつも近くの席の人らとボケ・ツッコミ繰り広げて笑てたやん。
あれ私もよりたい思てたけど勇気なくてできんかってん。
そやから近くで聞くだけにしてたけど、めっちゃおもろかった。

――その記憶が全然ない。

周りの人ら笑かすん、めっちゃ好きそうやったで。

――その記憶がまったくない。

きっぱりそう言うから、きっとそうだったんだろう。
でも、教室で一人ひっそりしていた記憶は何? 僕は誰? あれれ…

(2021/6/16記)

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