見出し画像

美しく、そして優しく咲いてほしい

祇園・円山公園のしだれ桜は京都の宝だ。

画像1©京都観光スポット桜の見どころガイド

その壮大華麗な花に目を奪われない人はおそらくいないだろう。
公園内には他にも桜が多く、花見の季節は相当に賑わう。

画像2©nippon.com

人口あたりの大学数が全国一の京都だから、円山公園の大学生率は自然と高くなる。
カップルやグループだけでなく、サークルでの花見も盛ん。
京都の大学生にとって、円山公園の花見は一大イベントなのだ。

ただ、感染蔓延の今、同じような光景が広がっているかは分からないが。

***

僕の花見の本格デビューは2回生の時だった。

僕は当時の大学生の王道だったテニス&スキーのサークルに所属していた。
院生も含め主要メンバーが花見に参加すれば40人くらいの大所帯になる。
その日、ブルーシートを何枚も広げて朝8時頃から場所取りする係だった。
スマホなどない時代、長時間どう過ごしたのか今となっては思い出せないが、数名の同回生と耐えた。

昼過ぎだったか、平日というのにすでに酒が入って赤ら顔のサラリーマンが僕らの陣取るすぐ目の前の桜の木に近づいた。
美しい花をたたえる枝に手を伸ばし…

バキッ

枝を50cmばかり手折ったのだ。

あ…なんてことを…と思う間もなく、10mくらい離れたところで夜の営業に向けて準備をしていた屈強な漢たち数名が怒濤の勢いで突進してきた。
テキ屋だ。
あっという間にサラリーマンを血祭りに上げ、何ごともなかったかのようにまた屋台の準備に戻っていった。

顔面血みどろになって呻き倒れるサラリーマン。
しかしその後、救急も来なければ警察も来ず、サラリーマンは同僚の肩を借りて引きずられるようにその場を去っていった。
目撃者は十数人いたはずだが、僕も含め誰も通報しなかったのだ。

テキ屋の暴力行為はもちろん到底許されるものではない。
しかし誰一人として通報しなかったのは、その場その時において桜を傷つける行為が同じように許せなかったからだろう。
それがおそらく桜を見に来たすべての人の共通認識だったに違いない。
テキ屋の制裁に溜飲を下げた僕らもまた罪を犯したのだ。

サラリーマン、テキ屋、花見の大衆。
三者三様、全員桜を愛してのことだった。
その晩は、複雑な思いでひたすら呑んだ。

***

桜が大好きだ。
近所の桜はたぶん昨日がピーク。
だけど一昨日の肉離れで自由に歩けない。
次の週末まではもう持つまい。
見に行きたかった。

桜を想う。
美しく、そして優しく咲いてほしい。

(2022/4/4記)

サポートなどいただけるとは思っていませんが、万一したくてたまらなくなった場合は遠慮なさらずぜひどうぞ!