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大気を変える錬金術 (著者:トーマス・ヘイガー 翻訳:渡会圭子)

物質変換の威力,あるいは魔力。人工窒素固定、化学兵器、IGファルベンを生みだしたボッシュとハーバー。彼らが人類史上に果たした役回りは、ロバート・オッペンハイマーのそれにも比べうる。人と炭素の未来を映しだす、窒素の物語。
(Amazon「内容紹介」より)

”これは空気をパンに変える方法を発明した二人の男の物語である”

その二人の男の名前は、カール・ボッシュとフリッツハーバー。この人物の名前と功績を存じ上げていない方は多いと思うが、高校の時に少しでも化学を勉強した事がある者なら「ハーバー・ボッシュ法」を確立した人物、と言えば、少しは検討がつくだろう。
ハーバー・ボッシュ法とは、簡単に言ってしまえば窒素と水素からアンモニアを合成する方法である。当時この生成方法は非常に難しいとされており、もし彼らが窒素と水素からアンモニアを合成する機械を開発していなければ、人口が食料配給を追い越した時の必然として、最大40億人までしか地球では養えないとされている。今や世界人口が70億人を超え、2050年には97億人にのぼるとされる国連予測において、如何にハーバー・ボッシュ法の確立が画期的であったかが分かるだろう。

本書は、そんな20世紀最大の発明とも言える発明を生み出したカール・ボッシュとフリッツハーバーの波乱万丈な人生と、固定窒素が生物圏全体を変質させてしまったストーリーである。

※余談

ハーバー・ボッシュ法の一番の難しさは、窒素分子が安定すぎる為、反応性が著しく低くなってしまう点である。
アンモニアの生成式は、「N2 + 3H2 → 2NH3」 であり、窒素1つと水素3つから2つのアンモニアが計算上ではできることになる。だが、窒素が普通の条件では反応してくれないので、左から右に反応を進めることが技術的に難しくなる。

この問題を解決する為、非常に大きい量のエネルギーを注ぎ込んで、右へと反応を無理やり進めてやる必要があるのだが、その為には、高温・高圧であるという条件が必要となり、この高音・高圧の条件を均一かつ安全に実現できる反応槽の開発が当時の技術力では非常に難しかった。

簡単な例を交えると、重い荷物を段差の奥の方へ運ぶ時、段差が高いほど段差の上まで持ち上げて乗り越えるのに、多くのエネルギーが必要となるが、理屈はこれと同じで、窒素を水素と反応できるほど反応性の高い状態へと持ち上げてあげるには、非常に多くのエネルギーが必要だったという事である。



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