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建築科で『仕事に役立つ』授業って、どれですか??

「高校や大学で建築を学んで、なんの勉強が一番仕事の役に立ってますか?」と聞かれる機会が続いたので、ちょっと学生時代の思い出を含めて振り返ってみた。

ゼネコンでスーパーや学校を造る現場監督や、ビルメンテ、デザイン会社を渡り歩いてきた身としたら、結論を言ってしまえば、物理と施工と法規だったって話になってしまうのだけど。建築のどの分野に行くか?で、結構『役立つ授業の重要性』って変わってくることに気がついた。

『仕事で役立つ』って、知ってるからスムーズに進むモノ。と仮定すると、逆に勉強して損だったとか全く必要なかったという教科は意外とナイ。(考えられてるんだから当たり前か)


ちなみに大学を主席で卒業し不動産業界へ行った知人は、「ずば抜けて役に立ってると思う教科はナイ」と言っていたけどww(決して使えないと言う意味ではなく)もっぱら好きでゼミまで通ってたモノの知識は一切使ってないらしいww

海洋建築系を卒業して、デベロッパーに行った知人は「授業なんて辛かっただけで良く思い出せない。強いて言えば、コンクリ実験とお酒」ってコメントがきたww

専門学校から商業系の設計事務所に就職した友人は、もちろん「設計、法規」
ちょっぴりボヤいてたのは、「多摩美とか工芸大卒のデザインセンスには敵わない…デザイン系も学べる学校いけば良かったって思う時がある」って。


とはいえ…専門を学ぶ『学校』ってやっぱり忙しいよ。

たま〜に天才かってぐらい要領良い子もいるけど。いろんな研究とか課題とかテストの点数とかあって、頭に入れなきゃいけないこと・やること多すぎるし、図面は書きまくらなきゃいけないし、実験結果のレポート書かなきゃいけんし、普通授業もあるし、どれも平均点以上は欠かせない。

成績が良い方が、優先されることも多い。

でも時間だけは限られてるんだよねぇ。
徹夜して課題や宿題終わらせても、「で結局コレ、本当に役に立つんかい??」って思っちゃう時も多々ある。

大学生なんて特に、バイトしてみたり、サークル入ってみたり、インスタ映えに新しい友達とオシャレなカフェで…なんて、想像していたキャンパスライフを送れる子は意外と少ない。


こんなに頑張って、本当に希望する建築の道に進めるのだろうか?
不安と期待が入り混じるとき、目の前の課題と向き合えない時もある。


ーある夏の夕暮れに、会った女の子もそんな感じだった。スタバのテラス4人席の半分をノートと参考書で占領していた彼女は、ひとみちゃんというらしい。看護師として働く友人;ミホの従姉妹で建築を専攻している大学3年生。鎖骨まである黒髪を緩く巻き、ノートに添えられた淡いピンクの指先と切長の目が印象的な子だった。

ミホと並んで、彼女の目の前に座るとちょっと疲れ気味に見えた。

「あまり建設現場で管理をしている人って知り合いにいなかったので、みほ姉にお願いしちゃったんですけど…その、現場でこういう数式とか使うことってあるのかな?って」

唐突にテーブルの上に広げられたノートを指差す。物理に絡んだ応力の数式と図がびっしりと書いてあり、注釈らしきオレンジ色の文字だけがところどころに浮立つように目立っていた。

「んんー建設現場でお目にかかることはあまりないかな。ねじれやせん断については設計段階で出されてるモノだし。現場は必要な部材がきちんと組み合わさってるか?足りないモノはないか、きちんと必要な材料を必要なだけ使われてるかをメインに見るからね。でも、簡単なモーメントやせん断とかの計算ならよくやってるよ。片持ちの計算とか、仮設足場の変形系作る時とか手で」

「ソフトではやらないんですか?」

「んーー現場ではだいたい手書きだね。こんな感じで図を書いて。もちろん、足場の壁つなぎの風力計算とか耐荷重計算とかはソフトだし、始めから応力計算が必要なモノは設計事務所とか内部の人間にお願いしたりするけど。なんていうか、現場で確認しながらやるモノは手書き。いちいちパソコンでやることは少ないかな。特にうちの所長なんか構造に強い人だから、ソフトでやるような計算も突然紙に数式書き始めて部材応力求めたりしてるけどww」

「わたし、数学はいいんですけどこういう物体計算系が苦手で…コレ、ホントにこの先役に立つことなのかな?って思っちゃって。別にコレだけじゃないんですけど…」

うんうん、そうだよねーーっ

「物理の考え方は建築には基本必要だよね。特に、造る壊すは。
建築は力の向きと分散力がわからなければ過剰設計にも欠陥設計にもなりえるし。確かに今は安全率も含めてソフトが色々弾き出してくれるから全部理解する必要はない。もしできなくても誰かはできるわけだし、必要な部署に配属されれば気付いたらできるようになってるから♪今から気にする必要はないんじゃない??赤点取らなきゃいいと思うよ」


数式自体は、エネルギー量と向きの計算。
要は、建物を建てるのにどのくらいの基礎と根入れが必要かって話にも、部材の太さにも繋がる部分。

「なるほど。ちょっと安心しました」

「ってか、わたしを呼んだってことはゼネコン希望?」

「はい。高層ビルとかショッピングモール系やってるとこがいいなって…都市計画にも興味あるので、デベロッパーも受けているんですけど。3年になっても宿題の量もすごいし、設計課題とか他のレポートとか手が回らなくて。何に重点を置いてやっておけば、仕事になった時に焦らなくてすむのか、とか色々考えちゃって。そもそも受かるための勉強もしなきゃですけど」

節目がちなその顔を横目に、みほがからかうように突っ込んでくる。

「相変わらず真面目だなーっ。そんなんだから疲れちゃうんだぞ。彼氏はどーした、彼氏は」

「彼氏は関係ないじゃん。あっちは4年だし就職先も決まって課題も特にナイみたいだし?卒業待つだけだから羨ましーけどっ」

「ゼネコンなんか行ったらアリサみたいに別れちゃうかもよー?定時があるとこ行ったら?」

「…関係ないっしょ、職場と彼氏は。まぁ、砂まみれの生活ですけどねー。大きい会社いけばいろんな部署があるからね。研究とか、設計とか」

「現場に出たいとは思ってるんですけどね。学生の間にやっておいた方がいい勉強とかありますか?」

ぅん、真面目だ。

「ショッピングモール系やりたいなら、どんな部材が使われてるか?とかメーカーぐらいは知っておいた方が面白いかも。使われてる工法とか、ショップのデザインと共有通路のデザインとか。面接で話す具体的なネタにもなるし、話が広がるかもね。ただ…」

チーズケーキに手をつけたミホが視界に入る

「なんでもそうかもしれないけど、その『場』に慣れることの方が大事でそれは練習が出来ないんだよねww入ってからやってみなきゃわかんないっていうか。大学と同じ?」

「確かに。そうですね」

なんだか答えになっていないような気もするけど、ひとみちゃんが少し笑ってくれたから良かった。

「あ。さっきの物理系の計算に戻っちゃうんだけど。アレ、建築士の試験には当然出ちゃう範囲だから、ちょっとずつやっておいた方がいいかもシンナイ」

「確かに。そっかーーーっ、やっぱできなきゃダメなのか」

ひとみちゃんは、諦めたようにふっと息を吐くと、氷の解けかかったアイスティーに口をつけた。

その後も2時間ぐらい建築のたわいのない話をした。



「今時、CADで図面書くのになんで手で書く必要あるの?」とか。

「こんな工法、今も使ってるの?」とか

「こんな誰が造ったとか、歴史とかどこまで勉強する必要あるの?」とか

「木の加工とか、材料実験とか現場じゃやらないですよね?」とか

わたしたちが学生の頃も常に飛び交っていたこの疑問は、十数年経っても相変わらず同じなんだと思った。



わたしの話をしてしまえば、工業高校の建築科を出てゼネコンに入社し、ただのCADオペから現場監督になり。その後ダンサーを諦められずにアメリカへ。帰国して「絶対建築なんか戻らない」と思って、好きだった美容の世界にちょっぴり身を投じたけれど、結局人との出会いによってまた建築に出戻った。

TOTAL約18年でスーパーや学校、保育園、駅や美術館などの公共建物工事を9割ぐらい、新築マンションや社宅が1割の工事現場を主に見てきた中で学校以上に『学ぶ』必要があったのは確かだ。

高校を出てすぐの時。もろに役に立ったと実感した授業は、施工の実習授業だった。次に製図、数学、そして物理。


もちろん微分積分を手で解けるレベルなんて必要なんてないし。量子力学とかも全部理解しておけなんて必要はないのだけど。基礎というか考え方は、入社3日目ぐらいから使うことになると思う。造る側も、計画する側も。

建築の基本は力の向き。光の屈折、空気の流れ、音の速さ、吸収率、反射率。重さを分散させる方法などなど、必要なことはすべて数学、物理につまってると言っても過言はない。

なので、建築系に就こうと思うならこの分野はちゃんと時間を取って勉強しておいて、損はないよ~って言いきれる。

一緒に建設現場で働いたわたしの後輩たちも、先輩たちも。設計事務所や工務店で働く友人たちとも「アレは強制されたけどまったく役に立ってない、コレは使えない知識だった」など、学生時代のいろんな思い出話でいまだに花が咲くけれど。

この4科目だけは、ちゃんとやってて良かったと意外に共通してたから。


残念ながら、デザインにまつわる授業は美術しかなかったので。コレはちょっとおいておきますww(デザイン学の重要性はまた別の視点で)

大学によっては、海洋建築とか橋梁とか土木と組み合わさった勉強をするところもあると思う。これぞ建設!!みたいな。その場合、そういう工事を請けない会社にもし入社しちゃったらその知識は無駄になるんじゃないか?と不安に思うかもしれない。

だけど、あながちそうでもない。


所長や、職人さんの中にはそういうコアな技術的な話や、研究は好きな人も多い。もしかしたら、雑談で意気投合しちゃうし。もしかしたら、学んだことを応用させた工事を提案できることもあるかもしれない。何に繋がるかなんて、意外とわからない。

だから、専門的すぎても問題ない。縁あって学んだことの考え方を知り、自分の武器としてもっておくことが何より『役立つ』学びなんじゃないかと思った。


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