【映画評】「博士と彼女のセオリー」(2014) ALS患者の演技は難しい

「博士と彼女のセオリー」(ジェームズ・マーシュ、2014)☆☆☆★★

 ホーキング博士の半生を描いた映画。
 面白い。
 ……映画が、ではなくホーキング博士が。
 映画としては、よくある駄目なイギリスの凡作と言った感じだった。駄目なイギリスの凡作の例としては他に「英国王のスピーチ」などが挙げられる。
 どこが駄目かといえば、場面展開がいちいち説明的であるところだ。ホーキング、うまく走れない――ああ、ALSを発症したんだな。ホーキングの妻、書き物をしながらイライラ――ああ、介護の負担がのしかかって言語学の研究に打ち込めないんだな。といった具合に観客は、特に連続性もなく次から次に提示される説明的な光景を、一つ一つ読み解いていけば良いのである。淡々とした説明文の朗読を聴きながら紙芝居を見ているような気分になってしまう。
 まあ、ホーキングの人物像のおさらいにはなるだろう。ALS患者も勃起・射精できるのか……。
 ALS患者を間近で見たことのある者としては、劇中のホーキングの病状はやはり演技だな、と思えてしまう。劇中のホーキングは車椅子の上で首を少し動かしたりしてしまっているが、本物の患者にはこんな真似はできない。この時期のホーキングほど症状が進んでいたら、本当は微動たりともできないはずだ。演技がまずいという意味ではない。患者らしさを出すための役者の振る舞いには、どうしても、筋肉の細かな動きに頼らざるを得ない部分が出てきてしまうのだ。
 (2020年執筆)

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