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セキュリティ・トークン_#5:セキュリティ・トークンに関する五つの課題

日本国内におけるセキュリティ・トークンは金融商品取引法の規制対象となっており、投資者保護の観点から、資金調達者や金融商品取引業者に対して情報開示や行為規制などの制約が設けられています。ブロックチェーン技術の活用や各規制への対応を通じて、セキュリティ・トークンの売買に関しては、安全な取引が期待できますが、広く一般に普及するためにはいくつか課題があります。この単元では、セキュリティ・トークンの現状と課題を解説します。


権利移転の仕組みが複雑

「NFTの保証と限界 - 唯一性や真正性、著作権は誰にあるのか」の単元で解説した通り、トークンの所有者はトークン自体の所有以外の権利が保証されるわけではありません。金融商品取引法上の有価証券に関する権利の移転には、証券類型ごとに定められた法律に基づいた手続きが必要になります。

例えば、社債セキュリティ・トークンをAさんからBさんにブロックチェーン上で移転したとしても、Bさんの権利そのものは移転しておらず、セキュリティ・トークンとしてのデータが書き換えられただけです。法律上の権利を移転するには、ブロックチェーン上での手続きの他に、社債原簿にて氏名と住所等を書き換える作業も必要になります。

税制の整備

金融商品取引法で規制されているセキュリティ・トークンであっても、トークン化の方法によって税の取扱いが異なることがあります。

例えば、受益証券発行信託の受益権をトークン化した場合、株式や投資信託(公社債投資信託を除く)などと同様に分配金は申告分離課税の配当所得として課税されるため、分配金受け取り時に20.315%の源泉所得税がかかります。一方で、匿名組合方式によりトークン化した場合は、匿名組合から受け取る分配金は雑所得として課税されます。分配金受け取り時に20.42%の源泉所得税がかかり、確定申告による総合課税の対象となります。

同一の不動産であっても、トークン化の方法が違えば、税の取り扱いが変わることもある(出典:一般社団法人日本STO協会「セキュリティトークンに関する現状等について」2023年6月)

このように、金融商品としての特徴がほぼ同じにも関わらず納税手続きが違っており、投資家にとっては分かりづらいと言えるでしょう。この問題は日本STO協会など業界団体が税制改正を要望するなど、是正に向けて動いています。

流通市場の形成

セキュリティ・トークンの流通市場(セカンダリー市場)、つまり、購入したセキュリティ・トークンを売ることができる市場が形成されれば、いつでも換金できる安心感につながり、発行企業と投資家の双方にとってのメリットにつながります。しかし2023年7月時点においては、日本では証券会社が個社ごとに投資家への売却機会やその手段を提供しているのみであり、流通市場は十分に整備されていません。

そこで重要になるのが、PTSの設置です。PTSは金融商品取引法に基づいて認可を受ける必要があります。認可を受けるには高いハードルがありますが、PTSへのニーズの高まりや流通市場への期待を受け、規制の整備が進められています。セキュリティ・トークンに関しては、2021年に設立された大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)が、2023年度中にセキュリティ・トークンのPTS業務を開始する目標を掲げています。

クロスボーダー取引の可否

一般的にブロックチェーンには、場所を問わず世界中のノードを介してピアツーピアでつながるという特長があり、クロスボーダー取引が期待されます。しかし、そのためには第一種金融商品取引業者の仲介や日本における開示規制など、様々な法規制をクリアにしなければなりません。

米国株式が日本国内で取引できるように、今後、セキュリティ・トークンにおいてもクロスボーダー取引の環境が整備されれば、より多くの人たちがセキュリティ・トークンを通じて投資に関心や興味を持つきっかけになるかもしれません。

魅力ある商品づくりと投資家への認知向上

日本国内において、セキュリティ・トークンは不動産や債券を対象としたものが先行していますが、本来、セキュリティ・トークンは幅広い業界に関係した様々な裏付け資産を証券化できるものです。また、高い資産価値を持つものも小口化できるため、幅広い投資家層を対象にすることも可能です。例えば未上場会社の資金調達に活用できる可能性もあり、既存の金融商品にはない魅力ある商品づくりが期待されています。

一方で、セキュリティ・トークンは日本国内において2020年に誕生してからまだ日が浅く、商品開発が始まったばかりということもあり、広く一般にまで認知されていない状況です。既存の金融商品との違いや魅力と共に、安全性や利便性を訴求していくために、より一層の学びの場や情報発信が欠かせません。


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