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シャンゼリゼのホテル・カリフォルニア

イーグルスのホテル・カリフォルニアは実在しない。
しかし、同名のホテルがパリ、シャンゼリゼ通り近くにある。
パリには1980年代後半に仕事でのべ2年ほど滞在したが、わたしが長期滞在したのはこのホテルだ。

確か当時から4つ星ではあったと思うが、こんなに豪華ではなかった。ヨーロッパにありがちな築年数が長い風格ある建物だったが、外装内装ともにかなり劣化しており、場所がパリでシャンゼリゼ、凱旋門が目と鼻の先という好立地でなければ、ただのポンコツホテルと言われても仕方ない見かけだった。ただ、さすがに四つ星というだけあって、壁にかかった絵画や調度品は経年劣化が進んでいても高価なものだったし、何よりサービスが良かった。

パリでの仕事はまさに地獄のような忙しさで24時間体制でシフトを敷いていた。わたしは夜勤組で、深夜0時にフロント前に集合し出勤、ホテルに帰ってくるのは夕方で、食事をして3時間ほど寝たらまた出勤という有り様だったから、フロント係の男性は毎日目を丸くしていた。
「まったく、ジャパニーズは頭おかしいな」と思っていたに違いない。
そんな有り様だから誰もが憧れるパリに対してわたしはあまりよい思い出がない。また今は知らないが、当時ジャパニーズは少なくともシャンゼリゼ界隈では偏見の目で見られていたと思う。シャンゼリゼはNYと違って24時間飲み食いする場所がオープンしているので助かるが、安いイタリアンレストランで飯を食っていてもウェイトレスやボーイからの偏見の目を感じた。わたしはアメリカやドイツ、イギリス、ベルギーなどに長期滞在したが、レストランで「あの」ような目で見られたのはパリだけである。もちろんこれは1980年代後半のことだし、わたしの気のせいかもしれない。だが確かにそのときはそう感じた。
しかも当時はIRAによるテロが頻発していて、各地で爆破騒ぎがあり、極めて物騒だった。その上、仕事は難航し、理屈っぽいフランス人(さすが哲学の国である)とのやりとりに大いにてこずったこともあって、本当にパリには良い思い出がないのだ。
それでもひとつだけあるとすればワインが安くて美味いことだ。特に徹夜明けの朝にシャンゼリゼ通りに面した安いレストランで飲んだ赤ワインの美味いこと!仕事が終わったという開放感とこれから眠れるという安心感と、そして水より安く上手いワインを朝から味わえること。レストランは必ず窓際に席を座る。風情あるシャンゼリゼ通りを窓越しに見ながら飲む赤ワインはまさに神様からの贈り物だった。
結局パリの思い出はそれと小さなショップで買ったアタッシュケースだけだ。
フランスに観光に来るならパリではなくマルセイユとかリヨンとか、それこそ南フランスとかの田舎がいいよって駐在の日本人が言ってた。わたしもそんな気がする。ブランド品とか買い物に来るなら別だけど。まあもう行くことはないからね。遠い昔の話だ。

追記:シャンゼリゼのホテルカリフォルニア。このホテルでは電話の保留音にイーグルスの「ホテル・カリフォルニア」が使われていた。今は知らないが。なにせ1980年代後半の話だからね。

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