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【競争力強化を考える】#1 転職組は不利なのか?

DXとビジネスについて考える人、若林です。
近年日本の国際的な競争力が低下していると度々話題になりますが、一向に改善されたとは聞きません。日本で生まれ日本で育ったからには母国が衰退していくのを黙って見ているのはとても寂しいです。自分自身ができることは限られていますが、競争力強化について考え、その意見を発信することで少しでも誰かのビジネスに良い影響を与えられないかと思い、「競争力強化を考える」シリーズとして短い記事を少しずつ投稿していくことにしました。
この記事は私の考えを簡単にまとめたものとして発信していきます。記事中のデータについては記載漏れがない限り出典を明記するようにしています。ただし、そこから立てられる仮説はあくまで私個人の考えです。そのため肯定的・否定的様々な意見があると思いますが、この記事を読んでくださっている皆様に様々な意見を持って頂くことは目的のひとつでもありますので、良ければぜひコメントに残していってください。多くの知恵でより良い仮説をつくり、実行することで日本、更には世界がより良い姿になることを期待しています。

メンバーシップ型雇用

前置きが長くなってしまいましたが…本題です。
先日、このような話がありました。

「その会社のビジネスに対する理解はスキルよりも重要であるため、転職は不利である。」

「日本企業はメンバーシップ型であり、自社への理解が深い社員が多い。AI技術の民主化が進めば国際競争力は飛躍的に向上する。」

「リスキリングによって社員一人一人のスキルは向上している。外部から人を採用するつもりはない。」

それぞれ全く別の媒体、人物から出てきた言葉ですがいずれも発信者は日本人で、全て共通点があります。それは、自社理解 > スキルということです。言い換えれば、生え抜き > 転職組ということにもなります。私のDXの経験と、人事制度や人材育成の経験から考えるにこれはあまり適切ではないように思います。
実際に正解があるものでもないので私自身の考えになりますが、まず生え抜き社員のリスキリングで得られる効果というのは劇的なものではありません。もちろん間違いなく良い効果を生み出しはしますが、それは外部からの登用を否定することにはつながりません。なぜなら、この世界にビジネスを有利に進められるようなアイディアや行動特性を持った優秀な人間(以下、変革リーダー)はあまり多くいないからです。幸い(でもないのかも知れませんが…)日本ではスタートアップの文化がまだまだ根付いていないこともあり、このような変革リーダーはおそらくサラリーマンの中にも多くいることでしょう。しかしそれ以外の社員をどれだけリスキリングしても変革リーダーが簡単に生まれてくるわけではありません。そのため実際には社員のリスキリングというのは「コミュニケーションのためのリテラシー強化」「変革リーダーの補助」の二つの側面が大きくなると考えています。

次に、メンバーシップ型雇用の限界です。ここに関しては特に十分な議論を行なっても結論を出すことは難しいため、与太話程度だと思ってください。
AI技術の発展によりその民主化が起こることはほとんど間違いないでしょう。しかし実際にはそれを使いこなせる人でないとビジネスレベルでは全く役に立ちません。そして使いこなせる人というのは、AIとコラボレーションできる人で、結局その分野について十分な知識を持っている必要があります。知識がなければ生成AIの間違いに気づけないといった話が最もわかりやすい例です。これがもたらす影響はより専門性の高い領域か、変革リーダーのような人間しか価値を生み出せなくなることだと思っています。そうなると特定の役割をこなせる人間の獲得競争が激化し、結果的にジョブ型のような雇用が主流になるはずです。メンバーシップ型の雇用で役割が不明確なままジョブローテーションで浅く広い知識しか持たなくなった人間では明らかにAIより劣っています。言葉を選ばずにいうと終身雇用にあぐらをかいて安全圏で生活していると考えている人間は変革リーダーとしての素質が全くないため最低限でも特定のスキルに特化していないと真っ先にAIに取って代わられてしまうということです。勤続年数が全く何の役にも立たない指標になってしまうことがまさにジョブ型だと思います。

転職回数と競争力の関係

もちろん自社のビジネスに対する理解は絶対に必要ですが、それはスキルを持つ人間よりも優先されるかというとそうではないと先述した内容から私は考えます。
そこで次のような仮説を立てました。

「転職回数と競争力ランキングの順位に負の相関がなければ自社理解 > スキルの考えは正しいとは言えない。」

今回、これを検証するために参考にしたのはIMD世界競争力ランキングと各国の平均勤続年数です。ちなみにIMD世界競争力ランキングに用いられる指標に転職回数や勤続年数は含まれていません。(間違っていたらすみません。)
いずれも取得できた最新のデータに合わせるため2022年のものを用いています。
また、平均勤続年数は勤続年数別雇用者割合というデータのレンジごとの平均値とそれぞれの割合を足し合わせたスコアという形にしています。数字が大きくなるほど1社での勤続年数が長いことを表します。

早速散布図を見ていきましょう。
感覚的に分かりやすくするためY軸は上側が0になっています。
上に行くほど競争力ランキングが高く、右に行くほど勤続年数が長いということです。

競争力と勤続年数

相関係数は0.629で正の相関がありました。サンプル数は少ないですが意図的に偏りを持たせてデータを選定したわけではないので、私の考え通り自社について詳しいことよりスキルを持っていることの方が競争力強化には役立つと言えそうです。
また、近年では人材の流動性を高めることに前向きな声が多く上がっていることから今後はジョブ型の雇用が増えていくと思います。
人材の流動性が高いということは企業の人材獲得競争だけではなく、個人のスキルについても同じように競争が発生するのでAI頼りというのは難しいかも知れません。さらに生成AIの登場で近い将来言語の壁というのは無くなり、企業も労働者もすぐ隣に世界を感じ、世界と競争していく必要が高まります。
人材は中途半端に囲い込むとかえってビジネスに悪い影響を与えるのでトップマネジメントの覚悟と決断が求められています。

最後に

一企業や一個人が変化してもそれが社会全体に波及しなければ競争力強化には役立ちません。かといってそれを理由にして何もしなければそれもまた競争力のさらなる低下を招きます。
人材の流動性が高まり、転職を悪いことと考えなくなるような文化になれば、個人を通して企業間の関係が強くなり、新たなネットワークが形成されると思っています。そうなると、自社ではできないことも他社とのコラボレーションで達成でき、よりスピード感を持って幅広い発想で世界に立ち向かえるのではという希望があります。

これらは企業の競争力強化に向けた話ですが、競争力はあまり気にしなくても良い時代になると良いなとも思います。企業の目的として社会課題の解決にフォーカスすれば世界の壁を超えてコラボレーションが生まれ、それぞれの持ち味を活かしながら一丸となって社会課題を解決できる、そんな夢を見てしまいます。
これは遠い未来の夢物語ですが、今でも競争の舞台は価格ではなく製品やサービスの生み出す価値へ移りつつあります。やがてそれを維持するためのネットワークも競争力に不可欠なものになると考えられますので、やはり人材の流動性を高めコラボレーションをしやすい社会を作るのが日本に求められる第一歩なのかと思います。

参考
*IMD世界競争力ランキング2022
https://imd.cld.bz/IMD-World-Competitiveness-Booklet-2022/34/
*勤続年数別雇用者割合
https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/databook/2024/03/d2024_3T-13-1.pdf

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