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ターバンから読み解く、『クルエラ』に潜む「性の権利」~日本文化の影響もあった?~

スウィンギング・ロンドン、ジャパニーズ・アヴァンギャルド、そして、ターバン

★クルエラと「スウィンギング・ロンドン」


エマ・ストーン演じるクルエラがヴィヴィアン・ウエストウッド調のドレスをまとい、エマ・トンプソン演じる敵役バロネスに闘いを挑む。男爵夫人のバロネスと孤児でスリのクルエラの闘いは、「英国の体制v.s.若者文化」がぶつかりあった、「スウィンギング・ロンドン」を描いていることは明らかだ。

誰もが知るように、ヴィヴィアン・ウエストウッドは当時の恋人だったマルコム・マクラーレンと一緒にセックス・ピストルズをプロデュースし、「スウィンギング・ロンドン」をけん引したひとりだった。つまり、クルエラにヴィヴィアン・ウエストウッド風の衣装を着用させることで、60年代後半に起こった英国の文化戦争も表現したのである。

★エステラと「ジャパニーズ・アヴァンギャルド」


そして、クルエラのよい子バージョンのエステラの衣装は、80年代前半に世界に衝撃を与えた「ジャパニーズ・アヴァンギャルド」を想起させる。レイ・カワクボ、ヨージ・ヤマモト、イッセイ・ミヤケらは、「ヨーロッパのモード」に真向から抗う、脱構築的された黒づくめのスタイルを打ち出し、ジャパニーズ・アヴァンギャルドと呼ばれた。

ヨーロッパのモードに殴り込みをかけたエステラの存在は、衣装を通して「カルチャーの権威としてのヨーロッパ」、ひいては、「伝統的な女性の美」を破壊したと考えられる。

そんなふうに60年代後半から80年代前半の衣装に、ザ・クラッシュ、クイーンズ、ドアーズ、ブロンディなどのパンクやロックを盛り込むことで、古い文化と新しい文化の衝突を表現している本作。

★バロネスと「ターバン」


けれども、私はバロネスが被る「ターバン」にも重要な意味があると思う。黒人女性奴隷が脱出するときに、ターバンの中に必需品を隠していた歴史から、いつしか「自由と解放」のアイコンとなったターバン

1848年、ニューヨーク州郊外のセネカ・フォールズにて、奴隷制度の廃止と一緒に女性の権利を求める会が開催された。法的な男女平等を求めて生まれた「第一波フェミニズム」は女性の参政権が欧米で認められた1920年代に静かになっていった。

1910年代に生まれたと思われるバロネスが大人の女性になったころの1960年代、男女の法的平等性は叶えられていたが、女性が仕事中心に生きたり、パンツを履いたり、自分の銀行口座を開いたり、1955年にアメリカで開発された避妊ピルを飲んだりするのは、まだまだ社会的には認められていなかった。そんな性差別的な社会で、男性の力を借りずにファッション帝国を築き上げ、下級階級のエステラを取り立てるバロネスは、シスターフッドを築いているようでもある。それが自分の利益のためであったとしても、階級社会の常識やジェンダー規範を打ち破ったフェミニストだと言えるだろう。

しかし、そんなバロネスでも、夫との結婚には自由意志がなかったように見える。まだ女性には性や生殖の自由がなかった時代なのだ。

自由と解放の印であるターバンを被ったバロネスと、スウィンギング・ロンドンを象徴するクルエラ、そして、ジャパニーズ・アヴァンギャルドで既存の女性らしさをあざ笑うエステラ。

「若者」「ファッション」「音楽」を軸として60年代後半に起きた文化戦争に女性のセクシュアリティの要素を加えた、非常によく練られたディズニー映画『クルエラ』。本当に面白かったので観ていない人はぜひ!!!

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★欧米より40年遅れている、日本の性と生殖に関する健康・権利


ちなみに、日本で避妊ピルが認可されたのはイギリスより38年も遅い1999年。避妊ピルが認可されるのに40年以上もかかったくせに、バイアグラの認可はわずか4ヶ月しかかからなかった。私が住んでいたアメリカでは、1990年代後半には公立高校のトイレには無料の生理用品が置かれていたし、避妊ピルも避妊注射も殆ど無料でもらえた(地域による)。現在のイギリスでもティーンは避妊ピルが無料でもらえる。

避妊注射や避妊インプラントもなく、アフターピルの市販化もされない。#性と生殖に関する健康と権利 の後進国である日本は欧米に40年ぐらい遅れているのではないか? なにしろ、他国では15歳から17歳である性的同意年齢が日本では13歳なのだ(明治時代以来変わっていない)。性暴力から子供を守ること、リプロダクティブ・ヘルス・ライツを充実させること、生理の貧困を解消することについて考えることも、私達大人に必要な性教育だと思う。



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