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“わかりあえない”にある価値 読書記憶⑤「他者と働く わかりあえなさから始める組織論」

わかりあえない、理解できない。
でもなんとか関係を良くしたい。
物事を前に進めたい。


そんな思いは日々、多くの人が抱いています。


「こう伝えればうまくいく」「こう捉えればうまくいく」「こうすれば…」


他者と関係性を紡いでいくためのハウツーは溢れていて、それらをひとつひとつ試していくことは可能です。

けれど、なかなか前に進めなくて,もどかしい思いをする人もたくさんいます。例えば私です。

今日は、そんな自分を少し楽にさせてくれた本を紹介します。

「他者と働く 『わかりあえなさ』から始める組織論」

私はこの春、社会人4年目を迎えました。コミュニケーションや組織づくり、アート、教育分野などに関心があります。あとは書くこと、人の心の痛みにも。

とくに人の心の痛みには、自分自身の傷つけた・傷ついた経験に起因して強い関心があります。人間がどういう時に傷つき、また誰かを傷つけてしまうのか。傷つく、痛む心をどうケアするか。いつか専門的な勉強をしたいと思っています。

まだ素人でしかない今の状態では仮説でしかありませんが、『わかりあえない』という気持ちが心の痛みを作る1つなのではないかと考えています。

そんな折に出会った本がこちらです。



「他者と働く―『わかりあえなさ』から始める組織論」。

読んでみて、ふっと救われました。『わかりあえなさ』に、初めて心から価値を感じることができたからです。

この数年、人とのコミュニケーションや関係構築について、悩むことが多々ありました。表面上はたぶん誰が見ても上手くいっていたけれど、内心もやもやしてばかり。

本を読んだり人に相談して、なるほどと思ったことは実践しました。うまくいくときもあれば、苦しいときもあったけれど、いつも『結局、わかりあえないことはある』という諦念が拭えませんでした。

でも、先述の『他者と働く』では、“わかりあえない”ことから始まる、他者との新しい関係構築について書かれています。

内容を一部解説しつつ、基本的には私が読んでいて自分に刺さったところ、特に覚えておきたいことを紹介します。


溝に橋を架けるためのプロセス

そもそも、対立していると感じる相手と自分(部門と部門などでも)の間には、全くちがう景色が広がっています。

同書では大きな溝を挟んで、それぞれの立っている崖から向かい合う人間のイラストがかわいいのですが、シンプルでいて、納得感のある解説イラストです。


上司は部下を引っ張るもの(引っ張るべき)だ
営業部は商品を精力的に販促するもの(するべき)だ


私は先ほど“景色”と言いましたが、こういった『〇〇は~するものだ』という思考の枠組み、宇田川先生の言葉で言うと『ナラティブ(narrative):物語、その語りを生み出す解釈の枠組み』は、個人や個人が身を置く環境によって異なります。

そのことに気づくことから始められるのが、“適応課題※”へのアプローチなのです。

※既存の技法や個人の技量だけで解決できない問題。人と人、組織と組織の「関係性」の中で生じている問題(p4、p26)。

そしてそのアプローチには、4つのステップがあると述べられています。

1.準備「溝に気づく」

2.観察「溝の向こうを眺める」

3.解釈「溝を渡り橋を設計する」

4.介入「溝に橋をかける」


私の課題は「3.溝を渡り橋を設計する」にある

4つのステップがそれぞれどういうものかはぜひ本を読んでいただきたいので割愛しますが、私が『自分の課題はここだ』と感じたのはここです。


3.解釈:溝を渡り橋を設計する


相手と自分が、異なるナラティヴを持っていることは把握できます。

どうやらそもそもの前提がちがうようだぞ、という認識はできていると思います。

ただ、そこから「相手のナラティヴに飛び乗る」「相手のナラティヴから見た自分を眺める」という相手目線のシミュレーションをして、「ではどこにどんな橋を架けるか」と設計をする部分においては、弱い状態のようです。

ここが重要なポイントだと頭でわかってはいても、『いや、大体なんで私が橋をかけなきゃいけないんだ…』と時折嫌気が差してしまいそうになり、そんな自分のことも嫌になり…という良くないループに陥ることがあります。

今後実践したいこと

人と人はもっているナラティヴが異なるということ、それは個人が持つ背景ばかりが要因ではないこと、ナラティヴどうしの「妥協」をするのと「橋を架ける(=対話)」はちがうということなどを、『他者と働く』を通して学びました。

今後私が頭において行動したいと思っていることがあります。

橋は何度でも架け直せる

おそらく私は、気が短いのでしょう。

優しい、とよく言われますが、そうでもありません。意見を全否定されるとむっとしますし、『この人とは話せないな』とすぐに見切りをつけてしまいそうになります。そしてそんな自分を嫌いになりがちです。

でもこれからは、『橋は何度でも架け直せる。また観察を始めればよい』と意識して、あきらめない対話を心がけるつもりです。

対話の反対側にあるのは、対立ではありません。『あきらめ』です。

もうだめだ。わかりあうなんて到底無理だ。そう感じたときこそ、チャンスなのかもしれません。

『わかりあえない』という資源に気づけば、イノベーションを起こせるかもしれません。『わかりあえない』という前提を発見することで、『ではどうしたら関係を築けるか』という思考にシフトできるかもしれません。


一度橋を作ったくらいでは、溝は渡れない。

そう腹をくくって遠くの景色にまた目をやり、あちらからこちらを眺める。

その繰り返しを実践していこうと思います。


最後に、著者の宇田川先生とグロービス研究員の松井さんによる対談が非常に示唆に富むものなので、本を読んだ方にもおすすめします。





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