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五能線の追憶(その4)

 千畳敷は五能線沿いで最もポピュラーな景勝地だろう。だからまあ逆に言えばさほど期待もしなかったというか、1994年9月にここに立ち寄ったときも、あまり記憶には残らなかった。確かにフラットな岩礁としては特別広いところなんだろうけど、ちょっとつかみどころがないというか、自然そのものの形象としては、焦点が定まらない感じだった。
 むしろ千畳敷に至るまでの途中、うら寂れた途中の駅舎や、潮と風に痛めつけられた民家の木塀などのほうが自分としては面白く、自然そのものというよりも、自然と人の干渉作用に惹かれるものが多いということをあらためて認識した。

 とはいえ、本当はそういうことよりも、腹が減った、というのが当日の正直な状況であった。いかにも景勝地らしい食堂で私は海鮮丼か何かを食べ、N記者は海鮮ラーメンを食べた。
 後で、こりゃ演出だったんだろうな、と思い当たったが、見たときは「こりゃ、それらしい光景だ」と思ってシャッターを切ってしまったのが下の一枚。

 千畳敷駅は駅舎とてない、ホームだけの駅と記憶している。腹もふくれたわれわれは、ここで再び折り畳み自転車をパッキングして、輪行の準備をする。まもなくやってきた「リゾートしらかみ」に乗るのである。
 現れた「リゾートしらかみ」は、キハ40か何かの改造車両らしく、そう言うとなんだが、およそ五能線に似合うようなデザインではない。ま、しかし、世間はけっこうこういうのが好きだったりするし、快速とはいえ、指定席券を必要とする優等列車であるからして、素のままのキハ40系という訳にはいかなかったのであろうな。

 千畳敷駅から乗り込んだ「リゾートしらかみ」は、確かに座席は特急クラスのもので快適だった。指定券は海側の席だったので、鯵ヶ沢のあたりまで目を皿のようにしてかつてランドナーで南下したはずの道を追っていた。

<「最終回」につづく>

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