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2023年、年始のご挨拶

あけましておめでとうございます。
2023年も、よろしくお願いします。
今日は元旦なので、今年の抱負やいま決まっている出版の予定などについて書きたいと思います。(サムネイルの写真は早朝にランニングしたときに撮影した皇居の写真です。)

いま必要なのは(さらに)「遅い」インターネットだ

僕個人の仕事としては、まず3月に『遅いインターネット』の文庫版が幻冬舎から出ます。これはもともとは2020年2月に出版した本で、これはちょうど世界がコロナ禍に飲み込まれていく直前のことでした。

なのでこの文庫版ではこの3年のあいだにあったこと、具体的にはコロナ禍とウクライナの戦争のこと、そしてどんどん悪い意味で加速していくことになった「速すぎる」インターネットに対する分析をまとめて、僕なりの対抗戦略を提案する文章を加筆する予定です。

いま、ちょうど書いているところなのですが、かなり長くなりそうで、文庫版はもとの単行本版の1.25倍くらいの分量になると思います。3年前にこの本を読んでくれた人も、そうじゃない人もよかったら手に取ってみてください(ちなみに今はKindleUnlimitedの加入者は0円で単行本版が読めます)。

つながりすぎの世界に、「ひとりあそび」のすすめ

続く4月には諸般の事情でペンディングになっていた、中高生向けの本『ひとりあそびの教科書』を河出書房新社から出版します。これは文字通り「ひとり」であそぶことの豊かさを、僕の経験を交えながら中高生に説くといった本です。でも、大人が手にとってもちょっと変わった「趣味」についての思索としておもしろく読めるように書いています。

どうも現代のこの国の大人たちは、「飲み会」とか「SNS」とか、他の誰かとメンバーシップを確認する行為を「あそび」にしてしまいがちなところがあると思います。そして、ちょっと意地悪な言い方をするとそうやって敵と味方を確認することばかりに夢中になっている人には、話も仕事も壊滅的につまらない人がものすごく多い。
僕は「みんな」でワイワイやるのも好きだけれど、同じくらい「ひとり」であそぶのも好きで、人間にはやっぱり孤独に世界に向き合う時間「も」必要なんじゃないか……そんなことを考えた本です。(以下のページで最初の数章を公開しています。よろしければ読んでみてください。)

批評と小説、文化時評

あとは、秋以降になると思いますが「群像」連載の『庭の話』(このnoteの有料マガジンでも数ヶ月遅れで掲載しています)、「HB」連載の小説『チーム・オルタナティブの冒険』(全文無料公開されています)も、連載が終わり次第単行本化していく予定です。

個人的には、もう少し文化時評に力を入れたいと考えています。noteの有料マガジンによく、話題作については書いていたのですが、これをもう少し表に出して、今日の「みんな」で「好き」な作品を持ち上げて「つながり」を確認するタイプの言説が「正しい」態度とされて、「批評」(作品を解釈し、思考を発展させること)を抑圧している状況に、ささやかに抵抗したいと考えています。

ちなみに実はこのnoteの有料マガジンは昨年を通してかなり好評で、いつの間にか購読者が増えていてびっくりしています(ありがとうございます!)。もう少し増えたら、独自の企画なども考えていきたいと思っています。

「論破しない」「貶めない」議論の場を作りたい

PLANETSとしては、この23年はいま、運営しているメディアを再編して、新しいことを始めようと思っています。

まず、まだ構想段階なのですが負けたほう、不利な方をクサして「自分は強い」と思いこみたい卑しい人たちに課金させるニコ論壇やアベプラのようなビジネスのオルタナティブになるような議論の場をつくることができたらいいなと考えています。

昨年から「論破しない」「誰かを貶めない」「コメント欄と馴れ合わない」の3つをコンセプトにした番組やトークイベントを企画してきたのですが(年末の渋谷ヒカリエのトークショーはそのとりあえずの集大成というか、現時点のモデルだと思います。リンクを張っておくので、気になる人は冒頭30分だけでも見てください)、その延長でもう少し大きなことをやれないかと考えています。人とお金を集めるところから始めるので、「遅い」スタートになると思いますが、ゆっくり見守っていてください。

「いい本」をつくることで卑しさに対抗したい

あと、こちらの対談でも指摘したのですが、22年は悪い意味で自分たちと「違う」人たちを貶めることでヒーリングを提供するタイプの記事や本が目立った1年だったと思います。

具体的には、昨年は文化系の物書きや編集者が自分たちの嫌いな意識高い系のビジネスマンやマイルドヤンキーを事実上バカにする記事や本を出して、コンプレックスの強い文化系読者のヒーリングにして小さく当てる醜悪なスモールビジネスが残念ながらそこそこの商業的な成果を出してしまいました。おそらく、このビジネスは分野として今まで以上に定着していくことが予想されます。僕は、こういった「自分たちと違う」人たちを貶める商売が正しく軽蔑される社会を作りたいと考えています。それも「こういった本/書き手/編集者はダメだ」と批判するのではなく、自分たちがしっかりした本をつくることでそれを実現したいと思っています。

「今まで目立っているこんなダメな人たちがいる」と指摘して、ヒガミっぽい人にヒーリングを与えるのではなく、知とか文化とかそういったものは、そういった行為の真逆にあることを実際に作る本で証明していけたらと考えています。

具体的には出版社としてのPLANETSの2023年は白井智子『脱学校論(仮)』、三宅夏香帆『母と娘の物語(仮)』、そして落合陽一『マタギドライブ』などの刊行を予定しています。他にもいろいろ考えていることはありますが、まずはこれらの本を傑作に仕上げるところからはじめるつもりです。

「庭」プロジェクト

そして、僕たちは7日発売の『群像』でも少し触れたのですが、この春から〈「庭」プロジェクト〉と題した、研究開発プロジェクトをはじめます。詳細は後日発表しますが、実空間/サイバースペース双方の「コモンズ」のあり方を考えるプロジェクトです。これは、7年前に僕たちが発表した「オルタナティブ・オリンピック・プロジェクト」のリベンジでもあり、僕の40代後半の代表的な仕事にするつもりです。続報をお待ち下さい。

問題意識の根底には、今日のプラットフォーム化する社会への問題意識があります。イーロン・マスクの問題を取り上げるまでもなく、私企業の運営するプラットフォームは「公共」を担うことは難しい。これがトランプ現象、コロナ禍、ロシア・ウクライナ戦争を経て人類が得た最大の教訓だと僕は考えます。
では、どうするのか? 不可逆にグローバル化し、情報化したこの社会の「公共」のかたちを、都市/インターネット双方に渡って考えるのがこのプロジェクトです。もちろん、「群像」連載の『庭の話』はこのプロジェクトと連動したものです。

少し距離をおいた、学びの場を

最後に、僕の私塾PLANETSCLUBですが、「宇野ゼミ」を中心に少し(かなり……?)世間からは距離をおいて、コツコツと勉強会や読書会をやっています。もう5年目に突入するのですが、自分で言うのも少し恥ずかしいけれどいい意味で落ち着いたコミュニティ(というほど、まとまりがないところがポイント)になっていると思います。Facebookの自慢だらけの空気とも、Twitterのヒガミっぽい空気とも違ってて、純粋にサードプレイスでユニークな学びの場所を確保したい、という人がゆるく集まっていると思います。オンラインサロンのスタンドを使用しているというだけで、僕を潰したい人たちに散々中傷も受けましたが、こういった陰湿なセカイとは真逆の感じでやっています。良かったら、覗いてみてください。

それでは、2023年もよろしくお願いします。今年も焦らず、じっくり「遅い」インターネットを実践していきます。


僕と僕のメディア「PLANETS」は読者のみなさんの直接的なサポートで支えられています。このノートもそのうちの一つです。面白かったなと思ってくれた分だけサポートしてもらえるとより長く、続けられるしそれ以上にちゃんと読者に届いているんだなと思えて、なんというかやる気がでます。