米ソがINFを合意した背景と現在

■冷戦期の合意
 米ソ冷戦期に東西両陣営は核ミサイルで睨み合った。だが核戦争は発生すること無く冷戦は終了した。過去に核戦争直前まで到達した事はあったが、試行錯誤から核攻撃の無意味さに気付くことになる。

 それにより核兵器は戦争用から政治用に存在価値を変えて存続。INFも東西両陣営の思惑から合意に達している。過去のINFが成立した背景を知れば、トランプ大統領とプーチン大統領の考えを知る手がかりになるかもしれない。

■相殺戦
 冷戦期の東西両陣営は、敵国の首都・都市・軍事基地を核ミサイルで狙った。だが敵国本土をお互いに攻撃することは、戦争目的として全面戦争に該当した。

戦争目的
全面戦争(All-out war) :交戦国の政権を否定する
限定戦争(Limited war) :戦争目的が限定されている戦闘と交渉
制限戦争(controlled war):政治が軍事に介入する

手段・方法(戦い方)
総力戦(Total war):政治・経済・軍事の全てを用いる

戦争の傾向
全面戦争:総力戦になりやすい
限定戦争:総力戦が困難
制限戦争:軍事的不合理を克服して勝利を求めるほど総力戦に近くなる

戦争の結果
全面戦争:勝利者が有る戦争(敵国の滅亡)
限定戦争:勝利者が有る戦争(政治の延長としての戦争)
制限戦争:勝利者無き戦争

 核弾頭は熱と爆風の破壊だけではなく放射能による被害を残す。放射能に対して防御能力が無く、相互が使えば相殺戦になることに気付く。核ミサイルを使えば共倒れの全面戦争になる。戦争で勝利を追求するなら限定戦争。東西両陣営は限定戦争で使える核ミサイルを求めていく。

■戦術核と戦略核の分離ができなかった
 冷戦期の東西両陣営は戦術核・戦域核・戦略核に区分。戦略核は破壊力が大きすぎ、使えば相殺戦の共倒れになる。そこで戦術核と戦域核が限定戦争で使えるか研究が始まる。

核兵器の区分
戦略核:敵国本土・核基地と市民が目標
戦域核:戦域・軍事基地が目標
戦術核:戦場・軍隊が目標

 だが図上演習を繰り返すと戦術核でも限定戦争でも使えないことに気付く。

「核爆発を受けた戦場は大規模な破壊・火災と残留放射能による障害地帯になる。この戦場で戦闘を続けるには地形踏破機動力と放射能防護力が不可欠である。それに欠ければ戦術核は使えない」(トルーマン論文/英ブラッセイ年鑑)

 核弾頭の射程距離と核威力を変えて区分し、運用理論を樹立しようとしたが成功しなかった。何故なら1キロトンの戦術核を使えば敵も同じ1キロトンの戦術核で報復する。相互が戦術核を使っただけ汚染地帯は拡大する。行き着く先は1メガトンの戦略核の汚染地帯と同じ。

 限定戦争で戦術核を使っても、一度使えば共倒れの相殺戦となる。何年も研究してようやく無意味さに気付いた。

■暗黙の了解
 核ミサイルの使用は相殺戦。核保有国は相互に敵本土を攻撃しない暗黙の了解に到達した。端的に言えば政治家がいなければ和平交渉もできない。本音は「政治家だけは攻撃しないでね」なのだ。だから戦略核を削減しお互いに国土を攻撃目標から外した。

■INF合意
 相殺戦を前提とすれば核保有国は敵基地を核攻撃しない。理由は在日米軍基地などの海外基地はアメリカ本土と同じ。海外の基地を核攻撃すれば本土への攻撃と同じに扱われる。これは相殺戦になるから米ソはINFに合意した。

■その後の核兵器の存在意義
 核兵器が戦場で使えない兵器になると存在意義が変化した。

「核兵器は実戦兵器から抑止兵器になり、今日では交渉兵器になった。従って核抑止力の信憑性よりも曖昧性の方がより安定と抑制に効果がある」(ブレジンスキー論文/トレンズ第一号)

プーチン大統領が核兵器を宣伝する理由は外国から脅されないため。未だ完成していない核ミサイル兵器を宣伝し、曖昧さを用いて交渉材料と抑止力にしている。

■トランプ大統領の思惑は
 冷戦期のINFは米ソが中心。その後核保有国が増加して時代に合わない。何故なら中国も核保有国。中国がアメリカを核攻撃できるから、トランプ大統領としては攻撃目標になるのが嫌なのだ。だから新たに核保有国を参加させた合意が欲しいのかもしれない。

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