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西関東予選一回戦の青春【都市対抗野球へ、ようこそ!2019】

横浜スタジアム内野席に腰かけた瞬間、僕は思い出した。
都市対抗野球は「夏の野球」である、と。

5月中旬の日曜日。空はどこまでも真っ青で、天から降り注ぐ日差しは鋭く、そして熱を帯びていた。
しまった、日焼け止めを忘れた。そして、長袖を着てしまった。つい先日まで「春」という認識でいたのだけど……。
10カ月ぶりに僕は社会人野球の世界に触れる。それに相応しい天候で、僕を迎えてくれたのだ。そう思うことにして、とりあえずYシャツの腕をまくった。

   ◆

今観ている大会名を正確に記すと、「第90回 都市対抗野球大会西関東予選 ブロック決定トーナメント」の1回戦となる。そう、都市対抗野球の予選だ。神奈川県と山梨県の企業及びクラブチームが会い見えている。今日の試合はクラブチーム通しで争い、翌日の企業チーム(MHPS、東芝、JX-ENEOS)との対戦権を得る。
とは言え、現状は1回戦を戦うチームが企業チームを倒すのは非常に難しい。この試合がある意味ではピークとも言える。

12時5分から始まった第2試合の対戦カードは「横浜球友クラブ対JFAM EMANON」というものだ。前者は老舗のクラブチームである一方、後者は元々あったクラブチームの運営をとある美容関係企業が引き継いだ事実上の新チームである。
なので、JFAMのメンバー表を貰って驚いた。監督は元プロ野球選手であり、メンバーの中には強豪高校・大学を卒業した面々が揃っている。まだまだ企業チームを倒すのは難しいかもしれないが、順調にリクルーティングと強化が進めば……と考えてしまう。思いがけない発見があるものだ。

さて、今日このスタジアムに足を運んだ理由はどちらかという横浜球友に見てみたい選手がいるからだ。彼のインタビュー記事を読み、その進路には大いに驚かされた。その現在地を生で観ることができる。これは足を運ぶしかない。先発ではなかったが、どこかで登板のチャンスはあるだろう……。
そんなことを思いながら、ひたすらダイヤモンド上で行われるゲームを眺め続けた。

   ◆

1回裏にJFAMが先制し、4回裏も西廣のタイムリーで2点追加点を挙げる。しかし、その後は目立った動きを見せなかった。共に継投策がしっかりと決まり、スコアボードに0が並び続ける。

3-0でJFAMがリードをキープし続ける7回裏、遂に彼の名前がアナウンスされた。特段、歓声や驚きの声は上がっていない。でも、スタジアムにいる数百人の観客の目線は、間違いなくマウンドに注がれた。

佐藤世那。
昨年までオリックス・バファローズに所属していたピッチャー……というよりも、ダイナミックな投球フォームで甲子園を沸せた仙台育英高校のエースと書いた方が、わかりやすいかもしれない。

彼のインタビュー記事を読んだのは4月末のことだった。プロ入り後、フォームが崩れたこと、サイドスローに挑戦したこと、その最中で戦力外通告を受けたこと、そして、模索をし続けた結果、横浜球友クラブに出逢ったこと……。

まだ、21歳の若者だ。そんな彼がクラブチームで、(そしてひょっとしたら都市対抗野球という舞台を足掛かりにして!)再度プロを目指している。
その第一歩が、この横浜スタジアムのマウンドなのだ。

   ◆

オーバースローから投げられる直球は、おおむね140キロ前半代を示していた。少なくともストレートの質は、この試合で投げていた他の投手以上のものを有している。
しかし、コントロールに苦しんだ。先頭バッターに早速フォアボール。まだ、何か迷いがある。堂々としていたあの頃の姿を覚えているだけに、「物足りなさ」を感じる。
ランナーの盗塁死もあった7回裏は無失点で乗り切ったが、不安定な投球は残念ながら8回裏も続いてしまった。この回に2アウト満塁のピンチをつくり、結局押し出しのフォアボールで失点。その後の打者は何とか抑え、2回1失点でマウンドを降りた。

残念ながら、「復活」という言葉はまだ用いることはできない。好投であれば補強選手の可能性もあると思ったが、厳しいと言わざるを得ないだろう。
……いや、そういった過去や未来の物差しで測ることをついつい続けてしまったが、そういうのはここで終わりにしよう。
僕が今年も追いかける「都市対抗野球」とは、大の大人が「今」という青春を謳歌する舞台だ。その舞台に、佐藤世那も辿り着いた。彼は彼なりのかたちで、再び青春をスタートさせたのだ。なので、熱投を見せた彼にも、誠に身勝手であるがこの言葉を贈ろう。

都市対抗野球へ、ようこそ!

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7月13日より90回目の都市対抗野球大会が東京ドームで開催されます。
今大会も「都市対抗野球へ、ようこそ!」というかたちで、皆様に夏の野球の面白さを伝えていければと考えております。
なお、昨年度の大会は下記の通り本にしてまとめております。ご一読頂ければ幸いです


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