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【読書記録】魍魎の匣(京極夏彦)

高校生のときにハマって依頼、負い続けているシリーズの2作目。

9月に17年ぶりの新刊が出るということで久々に読み返そうと思ったら2作目から家になくて出鼻を挫かれた。当時は図書館で借りて読んで、お金に余裕ができてから買うようになったんだけど、そのとき読み返したい本から買って読んでいたので穴抜きで揃えていたらしい。魍魎の匣といったら、堤真一主演の映画も観に行ったのに、まさか原作が手元にないとは…

ということで新しく買って再読しました。分冊版は本屋で見つからなくて、中古は送料の方が高くつくし、作者に還元されないから講談社文庫を買った。重くて読み終わる頃には腕が攣りそうだったし手首が凝った。新刊までにシリーズ読み切りたいけど間に合うかな〜

【あらすじ】

駅のホームから少女が転落した。事故か、自殺か。巷を騒がせる連続バラバラ殺人事件との接点は。彼女は大罪罰の遺産相続写真だったが、女優の姉が語る言葉はどこか不可解だ。そんな中、異形の研究所へと運ばれた重体の少女が、刑事たちの目の前でベッドの上から忽然と消えるー(あらすじより)

【感想(ネタバレあり)】

奇妙な共通項をもった複数の事件の至るところに魍魎と匣が出てきて読者を惑わせるんだけど、それを京極堂が紐解いて、言葉で揺すって、余計なものをふるい落として解明してしまう。あいも変わらずその手法は見事で、そして真実はいつも仄暗く悲しい。

魍魎とは沢川などの境界にいるもので、人に憑くわけではなく、人の声を真似て人をまどわすモノ。形はあっても中身はなく、何をするものではない。人が惑うだけだ。

京極堂は魍魎に軽はずみに近寄ると向こう側に引き摺り込まれてしまうといっていたけど、久保は、雨宮は、魍魎の声に惑わされて匣の中を覗き込んで、あちら側に引き摺り込まれてしまっただけでなく、久保にいたっては自分自身が匣になってしまった。曖昧としたわけのわからない魍魎に久保自身がなってしまって箱の中を満たしていく。まさに魍魎の匣。

最後の憑物落としは美馬坂研究所という大きな箱の中で行われるんだかど、研究所自体が人工の身体であり、引いては久保の身体の中、魍魎の匣の中だったとわかったときはゾッとした。

最後、箱の中に入れられてしまった久保は助けを求めようと声を出そうとするけど、胃も腹筋もないので「ほう」という声しか出ない。冒頭で出てきた箱の中の少女(加菜子)も「ほう」と言っているけど、本当はなんて言おうとしてたんだろう。

とにもかくにも、魍魎と箱が複雑に絡み合った見事な構成で、読み終わった後の満足感が半端ない。

話の構成はもとより、キャラクターどうしの掛け合いも百鬼夜行シリーズの楽しみの1つ。魍魎の匣からカストリ誌の編集者の鳥口が加わるんだけど、とぼけた男なので、話の陰鬱な感じがかなり和らぐ。あととぼけすぎてて忘れがちだけど、結構聡明だった。

今回は木場修の物語でもあったけど、結末はほろ苦い。陽子も憎からず木場を思っていたような節もあったんだかど、どうなんだろう。辛い状況の中で木場に少なからず救われていたようなところはあるんじゃないかなぁ。木場は被疑者と警官という立ち場になって、始めてまともに陽子と会話できるようになっていて、なんとも切なかった。

それから私の好きな榎木津探偵は、相変わらず何も考えずに傍若無人に振る舞うんだけどそれが気持ちいい。
あと、美馬坂研究所に乗り込んだときに、関口先生の小説の言い回しを使って美馬坂と話していて、いつも関口先生のことを猿とかなんとか言って馬鹿にしてるけど、著書はしっかり読んでるんだ〜と思って不意打ちできゅんときたり。
完成した本も興味なさそうな振りをして1冊寄越せとか言ったりして可愛いやつめと思って読んでいた。

次の狂骨の夢も家になかったので購入して再読になる。また手首に負担をかける日々が始まる―

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