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【ゲーム日記】広告に騙されて洋ゲーを始めたら、ちょっとだけ図太くなれた、という話。

私は結構なゲーマーである。

毎日欠かさず3~4時間はFF14をプレイしているのだが、それ以外にも平均して1日1~2時間は他のゲームにも費やしてしまう。ガッツリとオフラインゲームをプレイしている時期もあれば、隙間時間にブラウザで出来るお手軽パズルゲームの時期もあるが、まぁまぁ座っている時間の内、何か読んだり書いたりしていない時は大抵ゲームをやっている。

そんな私は一か月ほど前、とあるゲームを開始した。
広告で見かけたパズルゲームがちょっと面白そうだった上に、あまりにしょっちゅう表示されるものだから苛立って、「そんなにしつこく言うなら、どんなもんか見てやろうじゃねぇか!」と、若干キレ気味の勢いでPCにダウンロードしたのだ。見るからに洋ゲーだし、多分ちょっとやったら飽きるだろうな、という予感に満ち満ちていたが、まぁ基本無料だし、という気軽さもあった。明らかに策略にハマっているのは認める。

ところがどっこい、私は盛大に騙されていた。
「基本無料と見せかけて、実際には課金しないとゲームが進まない」のような、無料ゲームにありがちな騙され方ではない。
ゲームの内容そのものがもう完全に、広告と全っっっっ然!違っていたのである。

正確に言えば、広告にあったパズルゲームの部分も一応存在はした。存在はしたのだが……何といえばいいか、そのゲーム内では明らかにミニゲーム的ポジションなのだ。
無理矢理例えるなら、「カジノでスロットを遊べるゲームだと思ってプレイし始めたら、ドラクエだった」状態と言えば伝わるだろうか。とにかく、私がパズルゲームだと思い込んで開始したそのゲームは、正しくは戦略シミュレーションとかストラテジーMMOとか、そういう呼び方をすべきゲームが本体だった。いっそ清々しいほどの広告詐欺である。

……なのだが、私はシミュレーションゲームはそこそこ好きなので、まぁ良いか、と何となくプレイを続けていた。
そのつもりでプレイすれば、(時々思い出したように挟まれるパズルゲーム部分をこなしながら)自分の国を発展させて軍隊を少しずつ強くしていくシミュレーション系ソシャゲ、いわゆる『城ゲー』だ。一日に何度かアクセスして資源の生産などを管理する必要があるものの、暇つぶしにはまぁまぁちょうどいい。そもそも私が求めていた「隙間時間にちょこっとできるゲーム」という意味において、これはこれで良い気もしたのである。

漢字のようで微妙に違う中国語フォントの日本語チュートリアルを読みつつ、順次表示されるクエストをクリアしていくのは、まぁまぁ達成感が得られる。洋ゲーにありがちな不親切さや、自動翻訳にかけたとしか思えないようなギクシャクした説明文、かと思えば突然やたらと気合が入ったムービーが挟まる不自然さは時々気になったが、あまりに洗練されていないこのゲームの作りが逆に00年代のネットゲームを彷彿とさせて、どことなく懐かしさがあったのである。

そういうわけで、今一つゲームシステムが掴めないまま1週間ほどそのゲームをプレイしていた私は、後回しにしていた一つのクエストを完了させることにした。
そのクエストとは、「同盟に加入せよ」だ。要はユーザー同士のコミュニティに入れという奴で、それをこなせば報酬がもらえる、ただそれだけ。

問題はどこの同盟に入るかだが、チュートリアルの指示に従ってボタンをポチポチすると、加入者募集中らしい同盟のリストがずらりと表示された。
言語設定が「日本語」、つまり日本人向けっぽいコミュニティも存在するようだったが、すぐに飽きてこのゲームを辞めるかもしれないと思った私は、ちょっと躊躇した。どうせ暇つぶしのゲームだし、無責任に気が向いたらログインしたりしなかったり、というプレイスタイルでやるつもりなのだ。できればユーザー間の交流をする必要がない同盟の方が良いような気がする。でもどうせなら加入する恩恵は受けたい。人数が多くて、私がサボっても目立たなさそうな所ってないかなぁ……。

そんな下心で、とりあえず表示された中で一番メンバー数の多い同盟を選び、加入希望の申請ボタンをポチっと押す。申請はすぐに許可され、私はクエストを完了して報酬を受け取ることが出来た。一件落着である。

……のだが。
異変に気付いたのは、それから僅か数時間後の事だった。
夕飯前にと思って再びログインしてみると、それまで存在にすら気付いていなかった「メールボックス」なる場所に、いくつものメッセージが届いていたのだ。
中身は当然のように大半が英語で、ドイツ語のものもある。言語設定が「全ての言語」になっている同盟を選んだのである意味仕方ないが、何をそんなに連絡することがあるんだろう?
幸いにも自動翻訳ボタンがあったのでそれを押し、最近のゲームは親切だなぁ、などと思いながら読む。

・12時間後に開始される戦闘イベントの告知、らしきもの。
・ワールド上位15位までの同盟、および相互不可侵条約を結んでいる同盟への勝手な攻撃を禁じる注意、らしきもの。
・一週間後に開始されるイベントのために、数種類のアイテムを予め集めておくようにという指示、らしきもの。
・同盟の管轄エリア内のスペースを空ける必要があるから、場所を占有している非アクティブユーザーの「国」を攻撃し続けて、システム上の自動テレポートを発動させろという指示、らしきもの。

え。ちょ、待って。
待ってくれ、情報量が多すぎる。正直なんの話かよく分からないけど、え、そんなに色々あるのこのゲーム?
しかも凄く細かくあれやれこれやれって言われてる感じする!
っていうか何!?この同盟、めちゃくちゃ活動活発なんじゃないの!?

このゲームで、やろうと思えば他のユーザーの「国」を攻撃できるのは一応知っていた。一度だけやられたことがあって、でも返り討ちに出来たっぽかったので気にしていなかったけども。
で、何かイベントがあるっぽいことも一応知っていた。まぁ、当面関係なさそうだなと思って終わりにしてたけど。

しかしどうも、そんなことを言っている場合ではなさそうだ。
大体「Top 15」の同盟には攻撃するなって、この同盟は何位なの?どこで確認するんだろう。ランキング表示は……これか?違うな、こっちか?

右も左も分からない初心者には荷が重い情報量だが、とりあえずそれだけは何とか知りたい。と思ってしばらくポチポチしていると、該当するっぽい項目を見つけた。
同盟パワーランキング、自分の順位:【1】。しかも2位との間には、約1.5倍のスコア差がある、ぶっちぎりの1位。

マジか!
この同盟、サーバーのトップだったのか……道理で超アクティブな訳だ!

やべー、これマジやべーわー、とビビりつつ、ふと気が付いてチャット欄を見ると、恐ろしい速度でログが流れている。
こちらにも翻訳ボタンがあったので押してみると、どうもマックなる人物がこの同盟を抜けて2位の同盟に移動した直後らしく、「彼は良い奴だった」「しかしもう行ってしまった、これからは敵だ」「だがトップ15とは停戦中だ」「戦争をするか?」「いやその必要はない」などと、洋画の字幕さながらの剣呑な会話が繰り広げられている。
しかもこのチャット、翻訳前の原文が、英語以外にもドイツ語・トルコ語・ロシア語・ポルトガル語・ポーランド語と、「全ての言語」の看板に偽りなしだ。
何これ怖い。どうしよう。どうすりゃいいのよ!?

どうするもこうするも、選択肢は2つしかない。この同盟に所属し続けるか、脱退するかである。
だが流石に、こちらから申請を出して加入させてもらっておいて、たった数時間で辞めますというのも気が引ける。うっかり何かを間違えてこの人々の不興を買えば、私のような無課金弱小ユーザーなど指一本でぷちっと潰されてしまうだろう。数日様子を見るか……こんなアクティブな所じゃその内、無課金ユーザーなんかお呼びじゃない、ってクビになるかもしれんしな。

そんな気分でそのまま数日、私は目立たないように地味なプレイを心がけていた。
粛々とデイリーのクエストを消化し、街を大きくして、時々チャット欄の翻訳ボタンを押しては、「ほほう。何か凄いアイテムを入手したって聞いた時には『おめでとう』よりも『グッジョブ!よくやった!』的な誉め言葉を使うんだなぁ。これって地味だけど、実は結構ガチな国民性の差なのでは?」とか、「低レベルな人も高レベルな人に平気で反対意見ぶちかましていくの、すげぇ……日本人同士ならまず見ない光景だわ……」とか、ミクロなカルチャーショックをじわじわ受けつつ日々を過ごしていたある日。

イベントへの参加可否を回答せよ、というメールが来た。

うげぇ、である。
私は英語はさっぱりだ。大学受験で勉強していた時期は結構頑張ったので、そこそこ「読む」ことはできたが、「書く」のは当時からてんでダメだったし、数十年の時が過ぎた今となっては、その記憶すら朽ち果てている。
仕方がないのでGoogle翻訳で、なるべく自動翻訳されやすそうな日本語を入力し、英文に変換して回答することにした。

「残念ですが、私は今回のイベントに参加できません。また次に参加できる機会を、楽しみに待ちたいと思います。」
こんなもんか?

変換した英文を、念のためもう一度日本語に変換する。何か微妙なのでちょっと原文を修正して、また英文に変換し、日本語に戻し……万が一にも誤翻訳ミラクルが起こらないように……。
と、そんなことをやっている内に、なんだかモヤモヤしてきた。いや、正確には腹が立ってきた。完全に八つ当たりだが。

何で私ばかりがこんなに時間と気を遣って、わざわざ苦手な英作文などをせねばならんのか。
英語が母国語の奴らは何も気にせずに喋りまくっていて、翻訳を通すと意味のサッパリ分からない台詞を垂れ流しまくっているのに。

大体、チャットログで一度も日本語を見ていないのも何だか癪に障る。この100人いる同盟に、私のような日本人ユーザーが全くいないとは考えにくいのだ。「instant ramen」さんとかちょっと怪しい気がするし、アイコンがHUNTER×HUNTERのキルアの「Killua」さんなんてかなり怪しいし、アイコンがタヌキの「緑の」さんに至っては、もう日本人確定で良いだろ絶対。

で、なぜ少なくとも一人二人は日本人がいるはずなのに、誰も日本語で喋らんのだ。こういう言い方はアレかもしれないが、韓国語の人もトルコ語の人も母国語で発言しているのだから、別にそこに日本語が並んだって良いはずだ。
いや、英語で喋れるならそれはそれで良い、だが彼らの発言そのものをチャット欄で一度も見ないのは、彼らが「英語が喋れないから、仕方なく黙っている」からではないのか?

まぁ完全なるブーメランというか、私からしてそうだけども。
私は自動翻訳を介したギクシャクした文章でしか彼らの発言を理解できず、そこに若干の不安を感じていて、だから日頃一切の発言をせずにいる訳で、推定日本人の彼らだってきっと同じなのだろう。

だが、その不安を同じように海外の人々に味合わせたって、別に構わないのではなかろうか。
むしろ、私が彼らの言葉を正確には把握できないことも、多少は分かってもらった方が良いのでは?少なくとも今回「回答しろ」と言って来た、リーダーらしき人物にぐらいは。

よし、決めた。英語を無理に使うのはやめよう。
どうせ私の発言は、英語にした時点でニュアンスは変わる。ならば多少の誤翻訳が起こったとしても、海外勢にも各自、私の日本語を自動翻訳で解読してもらおう。それで行き違いが起こるなら、それはそれで仕方があるまい。

というわけで、その日私は日本語で回答メールを送り、その後チャットでも時折発言をしてみることにした。日本語で。
thank youを使わず「ありがとう」、OKやI seeも使わず「了解です/分かりました」と日本語で押し通しているのは半ば意地だが、意思疎通は一応問題なく出来ている、と思う。多分、トルコ語で話す人と同じ程度には受け入れてもらえている気がする。彼らの冗談は半分ぐらいしか分からないし、私が冗談を言ったつもりでも全く分かって貰えてはいないようだが。
あと個人的に、「緑の」タヌキさんが時々チャット上で「イベントは何時?」などと日本語で発言するようになったことが、ちょっと嬉しい。

今日も元気に飛び交っている同盟チャットのログは、
「20位の同盟に攻撃された、反撃して良いか」(ロシア語)
「彼らは食べ物だ、食べに行きましょう」(フランス語)
「食事を楽しんで下さい」(ドイツ語)
「攻撃する前に、相手の同盟に理由を尋ねるべきだ」(英語)
「何故?トップ15位以内でないなら自由に食べて良いはずだ」(ポルトガル語)
……といった具合に多言語かつ物騒なので、初心者で小心者の弱小ユーザーである私としては、何かを言えるチャンスはあまりない。彼らが平和に挨拶を交わしているタイミングを狙って「おはようございます」「おやすみなさい」といった日本語のログをそっと足すのが関の山だ。

だが、あえて日本語で発言し続けることで、「何で私ばっかりが気を遣って」という種類のモヤモヤは大分晴れた。
日本人だっているんだからね!!というささやかな自己主張をしたいだけで、別にそれ以上ではないし、特に何を生み出すわけでもないのだけれど。
自動翻訳さえあれば、英語が話せなくたって、外人と「話せない」わけではないのだ。
――ということを一つ覚えて、この数週間で少しだけ、図太くなれたような気がしている。

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