【2020年】データで紐解く獣害対策・ジビエ利活用業界

イノシシやシカによる鳥獣被害が増え、2007年に鳥獣被害防止特措法の制定により、本格的な鳥獣被害対策が始まりました。しかしその後鳥獣被害は減少せず、鳥獣被害防止対策の予算額は、2011年には113億円と2010年の23億円から約5倍に大きく増額されました。それから約10年経った獣害対策・ジビエ利活用業界の今をデータで見ていきましょう。

鳥獣被害はここ数年減少傾向

イノシシやシカが田畑をあらす農作物被害、スギ・ヒノキの樹皮を剥ぐなどによる林業被害が顕在化・深刻化。行政も手をこまねいているわけではありません。

鳥獣被害防止対策予算額


2011年の鳥獣被害防止総合対策交付金は前年のおよそ5倍である113億円、その後も継続して100億円以上の予算が投じられています。

被害規模の推移について見てみましょう。

農作物被害額推移

対策強化もあってか鳥獣による農作物被害額はここ数年減少傾向農水省・平成30年)。

森林被害面積

農作物と同様にここ数年森林の被害面積も減少しています(林野庁・令和2年)。

ただ、減ったと言われる被害規模ですが、農作物の被害規模で見た場合には未だに25戸に1戸が農業収入の20% 相当の被害を受けており、現場で直面している人にとってはたまったもんじゃありません。
※農作物被害158億円を販売農家の農業所得174万円(農水省・平成30年)で割るとおよそ9,060戸相当。全主業農家113万戸(農水省・平成31年)の約0.8%=全農家の4%×農業収入の20%


シカ・イノシシの数は減少傾向も生息域は拡大

被害をもたらすシカ・イノシシの数についても見ていきましょう。

ニホンジカ頭数推移

イノシシ頭数推移

対策強化は被害規模と共に、2014年をピークとして生息頭数も減少させています(環境省)。とはいえ、減少しているんだったら安心、安心というわけにもいきません。少し視点を変えて生息域をみてみます。

まずはシカの生息域。

ニホンジカ分布域

シカの生息分布域は拡大しています(環境省・平成27年)。しかもその分布域は1978年から2014年の36年間で約2.5倍に拡大。従来分布があまり見られなかった新潟県や石川県、東北へと広がっています(環境省)。特にシカは繁殖力が高く、捕獲しないと年率約20%で増加し、4〜5年で個体数は倍増といったデータも(林野庁・令和2年)あります。

続いてイノシシの生息域。

イノシシ分布域

イノシシについてもその生息域は拡大環境省・平成27年)。1978年から2014年の36年で1.7倍。冬に30センチ以上の積雪が70日以上続く地域では越冬できないため生息域の北限は宮城県と言われていたのですが、最近では秋田や青森などでも目撃情報が出ています(環境省)。

生息域が広がることで、これまでシカ・イノシシによる被害防止や個体数管理等を行っていなかった地域での対策が必要となります。このような地域での担い手確保と対策ノウハウの獲得・蓄積がより一層重要となってくるでしょう。


獣害対策の担い手確保・維持は依然として課題

生息数は減少傾向にあるものの、繁殖力の強さもあり以前より対策を行ってきた地域でもその手を休めることはできません。また、生息域が拡大している現状では、新たに生息域とされた地域での対策体制の構築が急務です。

生息数調整のため、目標捕獲頭数を設定している36都道府県のうち目標を達成しているのは14都県(環境・平成30年)。現状でも十分とは言えず、またここ数年捕獲頭数が120万前後で頭打ちとなるなか、2020年度の目標数は140万頭農水省)に掲げ、また2021年度の鳥獣被害対策予算ととして2020年から6割増の162億円を要求農水省)するなど積極的に取り組む姿勢を見せています。

では、現場での担い手となる捕獲者側の状況はどうでしょう。

狩猟免許

新規狩猟免許取得者が微増傾向にあることもあり、ここ数年免許所持者は近年20万人前後で推移。(環境省・平成28年)。しかし、狩猟登録証交付者はは県をまたいで複数の箇所で登録している人も含まれるため、実際に狩猟を行うために各都道府県に登録した人は全国でおよそ13〜14万人(環境省)ですが、およそ1/3以上の方は実際の捕獲活動をできていないペーパーハンターの可能性が高いです。

最大でも十数万人程度とみられる捕獲者ですが、いわずもがな高齢化も進んでいます。

狩猟免許保持者・年齢構成

2016年の時点で狩猟免許者に占める60歳超の方の割合は6割超(環境省・平成28年)と待ったなし。いや、既に体制崩壊しているところがちらほら出てきているとの声も。。。

東京都など一部の地域では狩猟免許試験が受付開始当日に定員に達するなど、新規狩猟免許取得者が増えているといういい情報をもあります。
が、狩猟免許保有者のおよそ1/3がペーパーハンターとなっているように、狩猟免許を取得しても、実際に捕獲活動に参加したり技術を磨く機会が少ないのが現状。

担い手確保が進まない、、、そんな現状を打破すべく各地で狩猟免許を取得した人たちに向け、狩猟マイスター育成スクール(兵庫県)わな捕獲技術向上研修事業(和歌山県)鳥獣被害対策コーディネーター等育成研修(農水省委託事業)など担い手の育成にも取り組んでいます。


ジビエ利用は増加傾向だが施設の経営は大変

捕獲を積極的に推し進めるとともに、農水省は捕獲個体のジビエ利活用についても積極的に取り組んでおり、2025年までにジビエ利用量を4,000トンと2019年比約200% 増の目標(農水省・令和2年)を掲げています。では、実際の利用状況についてみてみましょう。

画像13


未だ利用割合については1割に満たないものの、国の後押しもあり徐々にではありますが利用割合・利用量共に増加しています。

ということは、、、、

ジビエ加工処理施設

ジビエ加工処理施設も2016年に563から、2019年には667と1.2倍に増加。では、この増えたジビエ加工処理施設はもうかっているのでしょうか。

実態調査のデータ(農水省・令和元年)を基に簡単に試算してみました。

まずは収入から。
『全加工処理施設が処理で得た金額 [37億6,900万円]』
÷『加工処理施設数 [667施設]』
=『加工処理施設あたりの年間売上 [565万円]

続いて支出。
『仕入金額と解体請負金額の差分単価 [631円/kg-436円/kg]』
×『1頭当たり体重 [43kg/頭]』
×『加工処理施設当たりイノシシ・シカ処理頭数 [174頭]』
+『加工施設あたりの廃棄物処理経費 [14万円]』
=『加工処理施設あたりの年間支出 [160万円]

上記を基に収入565万円と支出160万円とすると、ざっくり加工処理施設の粗利は405万円。1施設当たりの従事者が平均3人、稼働日数が145日であることを考えると、1人当たりの1万円/日となります。ただ、実際にはこれら以外にも施設建設費用や維持費などの負担も必要なため、経営はかなり厳しい物であると言えるでしょう。

さらに、安心・安全なジビエ提供のため、施設では農水省が後押ししている国産ジビエ認証制度や2021年6月より義務化されるHACCPなどへの対応も求められており、業務負担は増えています。利活用の拡大には、施設の採算性向上と共にこれら業務負担軽減も課題となっていくものと見られます。


「ジビエってなに?」から「ちょっと食べてみない?」へ

ヘルシーさや野性味といった家畜とは異なる魅力もあり、グーグルの検索トレンドでジビエを検索してみると、徐々に検索数が増えています。

Google トレンド


農林水産省も捕獲した鳥獣のジビエ利活用に向け、ジビエ情報を発信する専用ポータルサイト「ジビエト」や、国産ジビエ認証を有するジビエのみを扱ったECサイト「ザ ジビエ」を開設するほか、楽天も2020年7月からジビエEC サイトを展開しています。

現在のジビエの食肉流通量は1,392トン(農水省・令和元年)。農水省はこれを2025年度までに4,000トンに増やす目標を設定(農林水産省・令和2年)。あの神戸牛の枝肉流通量が年間2,100トン強[5,383頭×約400kg/頭](神戸牛流通推進協議会・平成30年)とすると、2025年には神戸牛よりも身近な存在となるはずです。

残念ながら、僕自身には神戸牛の身近さがイマイチわからないですが苦笑


<ポイント>
・鳥獣被害対策の強化により被害額は減少傾向
・ただし生息分布域の拡大に伴い生息分布は広がり、新たに鳥獣害対策が必要な地域も
・鳥獣害対策の担い手育成は始まったばかり
・徐々に広がりを見せるジビエだが加工処理施設の運営が課題


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