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カザフスタンの大地を歩く/「唯一の被爆国」日本とカザフスタン

カザフスタンの大地を歩いて

 旅で訪れるカザフスタンにどんな歴史があったのか、訪れる前に知りたくて調べていました。単に観光地巡りがしたいわけではなくて、どんな歴史があって、どんな人たちの想いがあるのか、僕にとってはとても大切なことでした。かつてカザフスタンにはソ連に抑留された6万人近い日本人がいて、アルマトイの街の外れにはそこで命を落とした201人の日本人のお墓もあります。日本は「唯一の被爆国」とも言われていますが、実は日本だけではなくカザフスタンにもその被害を受けた人たちがたくさんいました。

声にならなかった悲痛な叫び、そして核廃絶へ

 かつてカザフスタン国土内、セミパラチンスク核実験場(Семипалатинск)では1949年から1991年にかけて実に456回の核実験がソ連によって行われた。これらの核実験の詳細は軍事秘密として住民には知らされなかったそうだ。空からは放射性物質か降り注ぎ、地下からは放射性ガスが染み出し、農業を営んでいた土地や遊牧民の大地を何百年も汚染し続けることとなった。被曝による癌や白血病、新生児の先天的な障がいなどの健康被害は推定150万人をこえる人たちに及んだ。近隣には原爆で大地を吹き飛ばしてできた湖も存在する。そうしたことが核開発競争、平和の為の名の下に黙殺され50年以上続き、ソ連末期に批判の声が高まりようやく実験場は閉鎖された。
 そうした歴史がある中でカザフスタンをはじめ中央アジアの国々は核廃絶を訴えて、カザフスタン、キルギス、ウズベキスタン、トルクメニスタン、タジキスタンの間で2006年には中央アジア非核兵器地域条約が結ばれた。核兵器の開発はもちろんのこと、所有の禁止や締結国による自国領土内における他国の放射性廃棄物の廃棄の許可の禁止、さらには核保有国が締結国に対して核兵器の使用やそれによる威嚇行為を禁止する、と強く主張している。

その地で生きる人たち

 冒頭に貼ったリンクは写真家の森住卓(もりずみたかし)さんが撮影したセミパラチンスク(現セメイ)の人々の写真です。森住さんの写真たちは核の恐ろしさ、その無念や怒り、悲しみを捉えながらも、草原の中を馬に乗って移動する人や羊の群れなど、そこで生きている人たちの痛烈なまなざしを見ている僕に訴えかけてきました。「唯一の被爆国」と言われる日本は一体今どこに向かおうとしているのでしょうか。

私たちは核被害から何を学ぶのか/核廃絶を訴えるカザフスタンと戦争に備える日本

 「唯一の被爆国」日本。殺戮を目的として原爆を落とされた国としては日本は唯一であることには間違いありません。しかしこのセミパラチンスクのことを考えると、カザフスタンに生きる人たちも戦争や大国同士の主導権争いのもと、犠牲になった被爆国です。だからこそ中央アジア諸国は連帯して、あの苦しみを拒否するための条約を締結しました。
 私たちの住む日本はどうでしょうか。岸田内閣、自民党与党(その他オマケ政党も含む)は、軍事費をGDP比2%にし、国家安全保障戦略の改定が提言され、「敵基地攻撃能力」を可能にしようとしています。その背景にはやはり大国アメリカへの媚びへつらいや忖度が存在しているでしょう。もう一度確認しておきます。日本は1945年8月にアメリカによって2発の原爆を投下され「唯一の被爆国」となりました。しかし現在でも声を上げる被曝された方やその遺族の方たちの怒りや悲しみ、無念の声には、本当の意味で耳は傾けられていません。軍備拡大をするためにアメリカから大量に武器を買い、国防力を高めて中国や北朝鮮らの脅威に立ち向かう、敵が攻めてきたらどうするんだ!なんて間抜けな話なんでしょう。隣国との友好的外交や平和的交渉を行おうともせず、今の日本政府が軍事的友好関係を続けようとしているのは原爆を落としたアメリカとです。
 TPNW(核兵器禁止条約)にも被爆国でありながら日本政府は署名をせず、NPT(核拡散防止条約)に留まっています。これらの条約も核保有国にとって明らかに都合の良い、表層的な平和に過ぎない無意味な条約であることはその内容を一見すれば理解できました。TPNWには核保有国(アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国)は加わっておらず、NPTはそれら5カ国以外の国は今後核の保有を禁止しようとする条約です。福島の原発事故もまだまだ終わりが見えていないのに安全神話を掲げ、原発も促進されている。
 そう考えると日本はどこに向かっているんだろうかと不安になります。私たちは「被爆国」として、あの悲しみと苦しみを胸に、アメリカをはじめ核保有国と世界に対して大きな声で「NO NUKES!」「NO ATOMIC BOMB!」と言うべきだと僕は思うのです。

 カザフスタンの街を歩き、空気を吸い、出会った人たちの顔や声を思い出し、あの果てしなく広がる草原の中の地平線をみつめ、そうした過去の悲惨な歴史とこれからの未来について考えました。


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