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人生がときめかない散らかしの呪い

部屋の中が混沌としている。聞きもしないCDが段々に積み上げられ、収納用のバスケットには雑然と日用品が詰め込まれている。あっちも物。こっちも物。こんなに物っていったっけ? ここまで物を集め倒した過去の自分を恨めしく思う。

物を買うのは簡単だけど捨てるのは大変だ。品物によってはお金もかかる。私はアパートの退去で嫌というほど物を捨てる羽目になり、心が千切れそうなくらい痛い目に遭っていた。欲しくもない物にお金と時間を使うのは最悪の体験だ。

こんまりさんがアカデミー賞に出席している写真を見た。言わずと知れた『人生がときめく片づけの魔法』の近藤麻理恵さんである。彼女はNetflixで自分の番組を持っていて、アメリカでも大変な人気を博しているそうではないか。まさか片付けを極めた先にアカデミー賞があっただなんて、さすがのご本人も思ってもみなかっただろうに、写真の中の彼女は実に威風堂々とした微笑みを浮かべていた。さすがだ。心の中が片づいている人は余裕が違う。

アカデミー賞といえばドレスである。出席者のドレスを見比べるための祭典と言っても良いくらい、私はドレスを着てレッドカーペットを歩くという行為に憧れている。そんな人生最大の晴れ舞台。こんまりさんが着ていたのは、ペールピンクの透け感のある生地に、銀色の花びらを形どった装飾がいくつも散らされた、なんとも品のあるロングドレスだった。とても似合っていて素敵だった。

アメリカのアカデミー賞なんて、女優さんでも限られた人しか行けないような華やかな舞台だ。それをまさか、こんまりさんは物を捨てて捨てて捨てまくった先に得るなんて、人生って不思議だなぁ。美空ひばり先生も言ってたよ。「人生って不思議なものですね」って。

そういうわけで、あっという間にこんまりさんは私の憧れの人になった。とはいえ彼女の本も例のNetflix出演作も見たことはない。いや見てへんのかい。と思われるかもしれないが、今の私では片づけの魔法を具体的に知ったところで体が動かせないし、実行に移せない。知った分だけ思い通りにならない現状に狂おしくなるだけなのだ。だから漠然とこんまりさんを想像しては、なんとなく「片付けたいな…」と夢見るくらいがちょうどいい。

とはいえこうも部屋の中が混沌としていると、頭の中も混乱してくる。右を向けば本本本、正面にはCDの山、左を向けば何が入っているかわからない引き出し。そんなわけのわからんモノの数々に囲まれ、それらにまつわる思い出やどうでもいい情報などなど、無駄なことを想起させられては頭を疲弊させているとしか思えない。完全にキャパオーバーだ。助けて、こんまり先生!!

まずはできることからやろう。一日一つ、いらないものを捨てることにした。これなら体に負担も掛からないし、たった一つならさすがに捨てるか捨てないかの判断もつく。毎日捨てていけば一ヶ月で三十個、一年で三百六十五個捨てることができる。三百六十五って相当な数だ。煩悩の数の約三倍はある。まあ一年で三百六十五個以上の物を買ったら意味を成さなくなるけども。

そういえば昔『笑う犬』のコントで、捨てる捨てないの話があったなぁ。転勤前の小須田部長に、原田泰造さん演じる部下が「これは、いりません…」とほとんどの荷物を捨てさせる話。今思えば人生なんてほとんどいらない物ばかりなのかもしれない。どうせ年を取ったら何もかも分からなくなって忘れるんだし。三十歳にしてなぜか既に終活のことを考えている私なのであった。

HAPPY LUCKY LOVE SMILE PEACE DREAM !! (アンミカさんが寝る前に唱えている言葉)💞