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映画と車が紡ぐ世界chapter125

HACHI 約束の犬 ニッサン マーチ K13系 2014年式
Hachi Nissan March K13 2014

僕と相棒は 
毎週月・水・金の20:00をステーション前のパーキングエリアで過ごした
車内には「恋するカレン」が 繰り返し流れ
ニューヨークカフェで買った
キャラメルバニラカプチーノの香りが充満していた
 
♪ 大滝詠一 恋するカレン ♪

相棒は 駅の改札を ポカリプカリと眺め
カプチーノから立ち昇る 湯気が出尽くしたころ  僕らは家路についた
こんな生活が 3年間も続いている

相棒の口から サイレントのため息が3回・・・
 以前から 相棒は無口だった しかし・・・
今とは明らかに違う
 
僕が 初めて相棒と この場所に来た時のことを思い出す
 
Kon Kon!
 助手席のウィンドウがノックされた
何も言わずに 相棒は運転席から手を伸ばして 助手席のドアを開けた

「待たせちゃって ゴメンね!ハチロー君! 
 お~! 新車の香りが サイコ~!」
 
乗り込んできたのは
鴇色のプリンセスコートが良く似合う女性だった
ほんのりエタノールの香りが広がった
 
「マーチだ・・・」
相棒がポツリと言った 

「マーチか・・・ 
 それじゃぁ 君はマーくんね! よろしく!! 
 はぁ・・・
 今日も忙しくて 眩暈しちゃったよ・・・ほんと!いつもありがとう」

 カノジョは 
真夏の太陽のように眩しかった

”Fun!”

呼吸なのか 返事なのかわからない 声らしき音を出す相棒
それが 気分のいいときの返事だと言うことを知っているのだろう
カノジョは にこりと微笑んだ

「まったくっ!こんな可愛い女性が「ありがとう」って
 言ってるんだから もっと 愛想よくしたほうがイイわょ! 
 ねぇ マーくん!」 

そう言いながら カノジョはダッシュボードにキスをした

そんな カノジョを 僕も好きになった

その日から週3回 
僕と相棒は ステーションのパーキングでカノジョを待った
大瀧泳一のミュージックのように 
優しく甘い時間が 永遠に繰り返される そう思っていたのに・・・
 
半年もしないうちに 助手席は空席になった
 
相棒は 
モノクロームの世界に浸り
カーステレオは 「恋するカレン」だけが繰り返された

僕たちは Hachiになった


Kon Kon!
 
ある日・・・
助手席のウィンドウが ノックされた

!!

「Yuki・・・」
相棒と僕は 同時に 叫んだ
 
3年前と同じように 助手席の扉が開くと
フワリとエタノールの香りが広がった

カノジョが帰ってきた!

しかし・・・
助手席に 座った女性には あの太陽のような明るさは感じられなかった
 
「八郎さん・・・ やっぱり ここにいたんですね・・・」

「・・・」
相棒は 何も答えない
 
「姉は もう来ないのよ 
 3年前 病院のハードワークが原因で 死んだの!
 現実を受け入れて・・・」
 
そうだ・・・ あの日・・・ 
カノジョは いつまでたっても 現れなかった・・・
そして・・・
いつもより 3時間以上経過したとき 相棒の携帯が鳴った

Gatuuuuun!

携帯を落とした相棒は 
運転席を出ると ボンネットを Dokannと殴った
こぶし大のくぼみに 相棒の涙が溜まった
 
「八郎さんが 苦しんでる姿・・・ もう見てられないよ・・・ 
 私だって・・・ 辛いよ! 悲しいよ!
 ねぇ・・・ 
 私たちは 幸せになっちゃいけないの?
 いつまでも 悲しんでなきゃいけないの? 
 貴方を・・・ 愛しちゃ いけないの・・・」
 
相棒は 助手席の女性・・・
カノジョの妹の額に そっとKissをした・・・

「Haruちゃん 看護師になったんだね」
 
「困らせて・・・ごめんなさい・・・」

”Fun!” 
相棒が 声らしき音を出した その時・・・

僕には 聴こえた・・・

「マーくん・・・ 彼とHaruをよろしくね」

Katunnという小さな音とと共に
カーステレオは 3年ぶりに違う 曲を奏で始めた

それはカノジョが 愛した曲だった

♪ 大滝詠一 幸せな結末 ♪


僕の瞳(ヘッドライト)から 涙(夜露)が流れた
 

※1935.3.8 渋谷駅でハチ公が天に召されました

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