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映画と車が紡ぐ世界chapter107

パーフェクト・ワールド VW シャラン TSI Highline 2013年式
A Perfect World VW Sharan TSI Highline 2013

「見てごらん 世界は完璧だ」

夏の日差しを浴びて ぐんと伸びた稲穂たちが
風にあおられ大きく靡く グリーンの大海原
その真ん中で タオルを首に巻いた祖父が 
スワローズの野球帽をかぶった僕に言う

「わかるか!」
祖父の有無を言わさぬ力強い言葉に 一瞬首を縦に振りそうになるが・・・どこまでも続く田園風景を 改めて見渡しても
なにが完璧なのか 僕には わからなかった
恐る恐る 首を傾げる
それを見た祖父は 
僕の頭を撫でながら よっしゃ よっしゃ と笑う

「それじゃぁ!」
祖父が スッと左手を挙げる
すると 遠くの山肌から グワリと とてつもなく大きな山犬が降りてくた

!!

とっさに 祖父の背中に隠れる

「大丈夫 大丈夫」
祖父の言葉に そっと顔を出すと 
それは強風に煽られた稲穂が造った幻影だった・・・

♪ There Will Be Tears - Frank Ocean ♪

Hyuuuuuuuu

風の山犬は そのまま 僕らのを飲み込んで 走り抜けた
山と大地の香りに満たされた 何とも言えない 爽快な気分を感じながら
祖父が この世界を操っているように思えた
大杉選手や若松選手よりかっこいい 
土まみれの祖父が 僕のスーパーヒーローだった
 
そんな祖父は・・・ 
ある台風の晩 田圃の様子を見に行ったきり 帰らなかった
体中の水分が涙となって 流れ出きったとき 
ヒーローを奪ったこの世界を 僕は呪った
世の中なんて 決して 完璧じゃない・・・
その日から 僕の人生は 
ただ死ぬ時が来るまでの退屈な時間しのぎだけの存在となった

そんな僕に手を差し伸べたのは 
幼馴染のカノジョと 僕らの間に生まれた子供たちだった
笑顔の絶えない家族が 僕に人生の目的を与えた
この笑顔がいつまでも続くために 少しでも 裕福になろう 
わざわざ 台風のさなかに 命の危険を冒してまで 外出することのない
ゆとりの生活を手に入れよう 僕は心に誓った

その誓いが・・・誤りの始まりになるとも知らずに・・・

いつものように 
終電で帰宅した僕を待っていたのは 
家族の笑顔ではなく 秒針を機械的に奏でる置時計と 一枚の紙きれだった離婚届・・・

脳裏に 再び虚無が押し寄せた
闇に覆われた僕を照らしていたテレビに映し出されていたのは 
映画 パーフェクトワールド・・・

うつろな瞳に
ブッチ・ヘインズ(Kevin Costner)が横たわるの場面が 投影された時
祖父の笑顔が交錯した

「世界の どこが完璧なんだよぉ じいちゃん・・・」

凍り付くような家を飛び出した僕は あてどないドライブに出た 

暗闇の中を ひたすら進む フォルクスワーゲン シャラン
アルファード以上に広大な車内に独立7人乗りシート 
スライドドア仕様は 家族のために選んだ車
一人でドライブするには 広すぎる・・・

東の空が 明るくなり始めた トワイライトタイム
空に浮かぶ オリンポスの神々たち(星座)は 
宴を終えて家路に向かい始め この世界に 
自分一人が 取り残されたような孤独を感じた

死ぬときは 誰もが一人・・・
そんなことを ぼそりと呟いたとき 国道の看板が目に飛び込んできた

ここは・・・ 『249号線』・・・
輪島市 白米千枚田
山と田園 そして海が一つのキャンバスに入り込む 
地球を凝縮したような場所 そして 祖父と過ごした場所・・・

所有者は変わってしまったが 
ここには 今も たわわに実った稲穂が どこまでも続いていた

大自然は 大きく両手を広げている
いつでも寛大に 僕を迎え入れてくれる
シャランを降りると 黄金色にの海原の真ん中に立った

「風を感じなさい」
祖父の声が 聴こえた
目を瞑り 耳を澄ませる 大きく深呼吸した後 
ゆっくりと目を開き そして 左手を挙げた すると・・・

山肌から 黒い塊が降りてきた
ゆらゆらと 天使の形をした影・・・

hyuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuu

天使は そっと僕にの頬を撫でながら 過ぎ去った
山犬とは違う 
やさしく 甘い香りを残して

「これがパーフェクトワールドなのかな・・・」
今でも 
祖父やブッチが言うパーフェクトワールドが何なのか わからない

でも・・・
少しだけ この世界が好きになった

シャランに戻った僕は カノジョに電話をかけた 
電話の向こうにいるカノジョに謝る僕と一緒に
稲穂たちが 
何度も 何度も 頭を下げていた



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